過去との決別


投稿者 血吸ねこ 日時 1997 年 10 月 07 日 15:28:28:

(^◇^;  だんだん、いい加減なタイトルになってきたような気が・・・


「・・・それでも・・・みんな来てくれるよな?」
 宝条の暴走を止めるため、一行はミッドガルに潜入した。ケットシーの案内で地下道を行く。
 途中、タークスの生き残りをやり過ごし、ハイデッカーとスカーレットご自慢のプラウドクラッドを倒す。階段を駆け登ると、途中の踊り場にミッシングスコアがあった。
「俺のだ!」
 バレットが目を輝かせ、銃を手にする。そのまま、嬉しそうにミッシングスコアの点検なぞ始めてしまったので、クラウドは仕方なくメンバーを入れ替えることにした。

「・・・宝条・・・!」
 新羅の科学者を目前にして、ヴィンセントの呻くようなささやきが漏れる。
 宝条−−−セフィロスを創り出し、ヴィンセントを改造した男。
 紅い瞳に、激しい復讐と憎悪の炎が燃え上がっている。その激しさに、パーティに加えても大丈夫かどうかをクラウドは危ぶんでいた。が、いつもよりも冷静かつ正確に、立ちふさがる新羅兵達を倒すのを見て大丈夫だと思ったのだろう。
「・・・頼りにしてるよ。」
 そう呟き、共に階段を駆け上がっていった。

 宝条は、自らにもジェノバ細胞を移植していた。パーティの目の前でその姿を変態させる。その様はあまりにもおぞましく、まともな神経の持ち主ならば目を背けるか、反吐を吐きそうになっただろう。まさにシドは後者だったが、ヴィンセントは眉一つ動かさず、じっと見つめている。
(・・・哀れみ・・・?)
 ちらりと横目で見ただけだから何とも言えないが、激しい復讐と憎悪の他に、かすかな哀れみが浮かんでいたような気がする。だが、変態を終え襲いかかってきた宝条と戦闘を開始したとたん、そんなことはすぐに忘れてしまった。

 宝条は、戦闘中にその姿を2度ほど変化させた。その度におぞましい様を見せつけられ、精神的にまいりそうだった。が、とうとう床に崩れ落ちる。更に変化するのかと息を詰めて見守る中で、その姿は元の科学者へと変わった。すでにその顔には死相が浮かんでいる。ヴィンセントは、それを何の感情も浮かべずに見つめた。
 宝条の目がヴィンセントの姿を捕らえる。そして何かいいたげな表情を浮かべる。
「ヴィンセント?」
「・・・先に行ってるぜ」
 不審そうに呼びかけるクラウドを、シドは引きずるようにして部屋を出た。

「・・・お前・・・か・・・」
 宝条のかすれた声がした。ヴィンセントは冷ややかな眼差しで見おろしている。
「クッ・・・クック・・・どう・・・だね、その・・・身体は・・・」
「・・・ルクレツィアに、会った・・・」
 その言葉に、宝条の顔に驚愕が浮かんだ。
「あの・・・女・・・!死んだ・・・はず・・・」
「あいにくだったな。・・・彼女も私も、こうして生きている。」
 そして、空になったカオスのアンプルを宝条に投げる。
「な・・・に・・・!」
 そのアンプルは、ヴィンセントの改造の仕上げにとって置いたはずが、いつのまにか紛失していたものだった。宝条の顔に怒りが浮かぶ。
「・・・眠るべきだったのは、貴様の方だったな。」
 そして、デスペナルティを構える。宝条が、憎悪の眼差しを投げかける。
「・・・さらばだ」
 乾いた銃声が、うつろに木霊した。

 新羅ビルを出て、ハイウィンドに乗り込む。バリアの消滅により、ついに大空洞に入れる。
 大空洞−−−セフィロスの待つところへ。

 シドは、火の付いていない煙草をくわえ、酒の小瓶をポケットに入れて隠し部屋へ向かっていた。他のメンバーは、つかの間の休息をとっているはずだ。
 隠し部屋の前に来て、かすかに眉をひそめる。明かりが漏れているのだ。
(・・・あいつか?)
 案の定、中にはヴィンセントがいた。
「どうした?・・・もう、休んだんじゃねぇのか?」
「・・・なんとなく、な・・・」
 ヴィンセントは少々、自嘲気味に答える。その口調に、シドは紅い瞳に哀れみが浮かんでいたのを思い出した。
「・・・宝条、か?」
「・・・ああ。・・・奴のことを・・・自分のことを、考えていた」
 ヴィンセントの隣にシドは座り込んだ。そして煙草に火を付ける。
「・・・宝条は死んだんだ。もう、忘れちまえよ。」
「・・・そうだな。」
 シドが小瓶を差し出す。かすかに微笑んで受け取り、口を付ける。シドの腕がヴィンセントの肩にまわされ、艶やかな髪を弄ぶ。
「あんたがいてくれて・・・良かった・・・」
「なーに言ってやがる。」
 照れ臭そうに笑うシドを、眩しいものを見るような眼差しで見つめる。
「・・・本当に・・・良かった・・・」
 そっと呟き、シドの肩にもたれ掛かる。シドの手がヴィンセントの頭を軽く叩く。2人は酒をまわし飲みながら、黙ったままでいた。隠し部屋の小さな窓から、星が覗く。

 しばらくして、ヴィンセントがシドの短くなった煙草を取り上げ、口づけた。
「・・・私からの・・・感謝の気持ちだ・・・」
「・・・気持ちだけもらっとくぜ。」
 シドがにやっと笑う。つられるように、ヴィンセントの口の端にかすかに笑みが浮かぶ。
「・・・寝よーぜ。」
 部屋を出るまぎわ、シドが窓を見やる。
(また星を見ているのか・・・)
 心の中でちょっと楽しげにつぶやき、優しくシドを見つめる。これまで復讐や憎悪の翳りを宿していた紅い瞳は、今は澄んだ光をたたえていた。


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