なぜかツォン×ルー |
---|
ここから書くのはツォンルーですが、下にレスしたツォン受のプロローグとしてお考えいただけますとありがたいです。
ですから、もしかしたら、皆さんのお気に召すとは限りません・・・。
ヤバいな、と思われる向きは、ここでお引きかえしください。
退社時刻を一時間ほど過ぎた、神羅本社ビルである。
多くの社員はもう帰宅したようだが、まだちらほらと残業の明かりが窓に残っている。
タークス主任ツォンが、ちょっとした用で社長室の前を通りかかったのも、そんな時だった。
ばん!・・・と重い木のドアが開いて、なぜか、金髪の若い女が飛び出して来た。
「イリーナ?!」
「ツォンさん・・・ツォンさん!」
つい数日前、急きょタークスメンバーに抜擢されたばかりの新人イリーナであった。顔を涙でよごして、衣服はぐしゃぐしゃに乱れている。
「イリーナ、どうしたんだ」
「わたし・・・私」
イリーナは、ツォンにしがみついて、わあっと泣きだした。
「放っておけ、ツォン」
中から若い男の・・・ツォンが、自分の家族を除けば、この世で一番大事に思う・・・若社長ルーファウスの声が、冷たく降ってきた。
「ルーファウス様、いえ、社長・・・また悪さをなさったのですね」
ツォンは、細くて上品な眉をひそめた。
「イリーナ、こっちへ来なさい」
「放っておけと言っただろう!」
いらだったようなルーファウスの声が、ツォンの胸を突き刺したが、彼は、心を鬼にして振り切った。
これは、ルーファウスのためなのだ。
「いえ、人道上、放っておくわけには行きません。彼女は、私の部下です」
「ふん、人道上・・・だと」
ルーファウスは面白くなさそうに言ったが、ツォンのしたいようにさせた。
かわいそうなことをしてしまった・・・自分が忙しくて手が離せなかったせいもあるが、新人のイリーナを少しでも引き立てておいてやろうと、彼女に、社長室へのお使いを頼んだ自分が悪かったのだ。
ツォンが来てくれるものと期待していたルーファウスは、それが気に入らなかったのか・・・いや、それもあるだろうが、イリーナのような目の大きな金髪娘が好みだったのかも知れない。ルーファウスの、若くして亡くなった母も、そうだったから・・・。
どっちにしても、社長が、若い女性社員にすることではない。
ルーファウスは、幼少時から、ありとあらゆる経営学をたたき込まれて成長した神羅の御曹司だ。だから、同い年の心許せる友だちというものを持たずに育ってしまった、一種の化け物であった。会社の運営には鋭い手腕を見せても、はっきり言って「人としてしていいことと悪いこと」の区別がついていないのだ。
ルーファウスを心から愛するツォンとしては、それが不安でならない。
「愛」と言ってもいろんな愛のかたちがある。メロメロに可愛がり、何でもしたいようにさせてやり・・・スポイルして駄目にしてしまう愛し方をする人もいる。だが、ツォンは断じてそのタイプではない。していいことと悪いことのけじめは、しっかりつけさせなければと思っている。
ツォンは、自分で、泣きじゃくるイリーナを宿舎まで送り届け、彼女の信頼できる友人に事情を(ただし、相手が社長だというのは伏せておいて)話して慰めてくれるように頼んだ。
車に乗っている間も、イリーナはずっと泣いていた。
「イリーナ、かわいそうに・・・私が悪かったんだ。社長を怨まないでほしい」
「うっ・・・うっく」
「あの方は、子どもと同じなんだ。自分で善悪の区別がついていない・・・運が悪かったと思って」
「・・・そんなこと、忘れられるわけ・・・ないじゃないですか」
イリーナはしゃくり上げながら抵抗した。
「あたし・・・初めてだったんですよ・・・ううっ」
「!・・・それは・・・すまない」
「・・・」
「だがイリーナ、つらい想いをしたのは、きみ一人じゃないんだぞ」
かわいそうでかわいそうで胸がキリキリしたが、ここでイリーナを説得しなければ、大変なことになってしまう。
訴訟沙汰にでもなったら、就任したての若社長には、致命的なスキャンダルになってしまうだろう。それだけは避けたい。
ツォンは車を停め、静かに言った。
「私だって・・・むかし、入社したばかりの頃」
「え・・・」
「きみと同じような目に合ったことがある・・・いや、きみよりも悲惨だった。当時の社長は、あの若く美しいルーファウス様ではなかったし・・・」
「・・・」
「その他の幹部のお歴々にも・・・」
「・・・」
「私だけじゃない、レノやルードも、みんなそういう思いをして・・・それを乗り越えて来たんだ」
「そんなの・・・そんなの!」
イリーナは悲鳴を上げた。
「何でそんなひどいことに耐えなきゃならないんですか?!あたし、納得できません!」
「・・・」
「あこがれてたのに・・・タークスのお仕事。こんなものだと知ってたら、あたしもう・・・」
「やめて、田舎に帰っていた?」
「・・・」
イリーナはうなずいた。ツォンは静かに、
「・・・確かにな。事実、それでやめていった連中も何人かいる。レノやルードが残ったのは、それでもこの仕事が好きだからだろうし・・・私にしても、それは同じだ」
「・・・」
「私の場合は、それだけじゃない、ルーファウス様の行く末が心配だから・・・でもあるが」
イリーナは、いつしか泣きやんでいた。
ツォンは確信を持って言った。
「だがイリーナ、もうこれからはこんなことはなくなる」
「え・・・」
「社長はルーファウス様に代わったんだ。これからの神羅は、変わる。少なくとも、社内でこんな没義道なことがまかり通る会社ではなくなるはずだ。いや、私がそうしてみせる」
「・・・」
「だから・・・私に免じて・・・辞職するのはもう少し待ってほしい」
「・・・分かりました」
イリーナは顔をおおった。
「ほんとは、社長のこと、殺してやりたいと思ってたけど・・・もう少しがまんします」
「ありがとう・・・」
イリーナは、またしくしくと泣きだした・・・。
社長室に戻る頃には、もうすっかり日が暮れていた。ツォンが戻ると、ルーファウスはまだすねた顔をして待っていた。
きれいになでつけていた髪が乱れて、まだ少年っぽいふくらみが、頬の辺りに残っている。こんな顔を見せるのは、ツォンの前でだけであった。
「遅いじゃないか」
ルーファウスは、ツォンを睨みつけた。
ツォンも一歩もひかず、ルーファウスの前に立った。
「・・・何だその目は。何か・・・言いたいことがあるのか?」
「社長・・・」
ツォンは、拳を固めた。それから思い直して、拳をひらいて・・・。
ぱぁぁん!
一瞬、何が起こったのか分からなくて、ルーファウスは目を見開いた。頬が・・・左頬が、真っ赤に焼けている・・・。
「な・・・何をする、ツォン!気でも狂ったのか?!」
「イリーナの痛みは、こんなものではなかったのですよ」
「何だと・・・!誰に向かってそんな口を・・・!」
「・・・あなたのためです、社長」
ツォンは、誰より愛しいルーファウスをひっぱたいてしまった罪深い右手を、胸で抱えるようにした。
「誰かがこうすべきでした。私は・・・命をかけて、あなたに、社長として、人間として、してはいけないことがあると・・・教えたいのです」
「よくも・・・よくもこのわたしを!」
「聞いて下さい、社長!」
ツォンは、必死で言った。
「あなたのしたことは、いけないことです。どうかそれを自覚してください!こんなことをまた繰り返すようでは・・・いつか、あなたが破滅してしまいます!」
「殺してやる!」
ルーファウスも興奮していて、ツォンの諫言が耳に入らない。ツォンは叫ぶようにして言った。
「お願いです、聞いて下さい!・・・」
ルーファウスが静かになった。
「私は、かつて、あなたのお父上に・・・あなたがイリーナになさったような仕打ちをずっと受けて来ました」
「・・・」
「それでも私はあなたを愛しています・・・それはあなたが、ひとりの人間として私を信頼し、愛してくだすったから・・・です」
「・・・ツォン」
「・・・殺されても構いません。あなたが、こんなことを繰り返して破滅する日を見るよりは、その方がよほどましです・・・!」
「・・・」
「・・・さようなら、ルーファウス様。おわかりいただけないのでしたら・・・私は・・・去るしかありません」
きびすを返すツォンに・・・ルーファウスは背中からしがみついた。
「待て!待て!・・・私のもとから去るなんて・・・許さない!」
「・・・ルーファウス様・・・」
「私がいけなかった。もう二度とこんなことはしないから・・・だから、行かないでくれ・・・」
「・・・ほんとに・・・おわかりいただけたのか・・・」
ツォンは、まだそれが不安だった。いや、多分、ほんとうには分かっていない・・・だろう。
でも・・・。
ツォンは振り返り、ルーファウスを抱きしめた。
(本当のことを言えば、私だって・・・この方からは離れられない)
破滅が、口を開けて二人を待っている・・・そんな不安を払いのけられず・・・それでもツォンは、罪深い快楽からも逃れられなかった。
逃亡します・・・さよーならっ。
こんなのでも、読んでしまっ・・・いやいやいやいや、読んでくだすった貴女には、感謝のチュ★