今度はちゃんとツォン×ルーです


投稿者 いそら 日時 1997 年 10 月 03 日 05:42:47:

第1回であれだけ鬼畜しておきながら、今回全然Hありません……。作風めちゃくちゃです。
遅筆、遅筆と騒いでおきながら2話目のアップが早かったのは、良心の呵責に耐えかねたから(^^;)
だって、ツォン×ルーかと思って蓋を開けたらハイデッカー×ルーだなんて! JAROに訴えられてしまう!

というわけで、息切らしながら猛スピードで書いたツォン×ルー、楽しんでいただけたら幸いです☆



 人形のようだ、と思った。
 容貌の美しさからだけではなく、この年頃の子供特有のあどけなさや無邪気さが見られないが故に受けた印象。
 笑う顔が、想像できなかった。
 そして実際、彼は、笑うことを知らない子供だった。


「ツォンと申します。今日からあなたの身の周りのお世話をさせていただきます。」
 通り一遍のあいさつに、ルーファウスはやはり反応を示さなかった。
 おざなりにツォンに視線を投げかけると、「そうか。」と、一言。くるりと背を向け、開け放たれた窓の桟に肘をつき、つまらなそうに眼下にひろがるミッドガルの街を眺めている。
 身辺警護も兼ねた任務とあっては日がな一日顔を突き合わせているわけだが、三日たっても一週間たってもルーファウスの態度に変化はなく、その子供らしからぬ表情はツォンの神経に負担をかけた。

(なぜ俺は、ここでこんなことをしているんだろう)
 正直、そう思う。
 人殺しの腕や、スラムに顔がきくことを買われてタークス入りしたというのに、与えられた初仕事が子供のお守りとは。想像していた世界とはあまりにもかけ離れている。
(早々に配置替えを願い出なくては)
 すべてを忘れさせてくれる、身命を削るような人生を求めて、ここにやって来たのだから。


 それが癖なのか、夕食を終え日が傾きはじめる頃になると、決まってルーファウスは自室の窓を開け放ち、徐々に暮色を濃くしてゆく空を眺める。
 風防設計がなされているというものの、高楼に吹きつける風は冷たく、確実に体温を奪ってゆく。
 もちろんツォンは、夜風が身体に障るからと幾度もその行為をたしなめた。しかし、普段はこれといってわがままな振る舞いをするわけでもないのに、この件についてだけは、頑としてルーファウスは譲らなかった。
 そして今日も、いつもと同じ姿勢で窓辺に立ち、ルーファウスは暮れかかる空を見つめている。
 ツォンは少し離れてその背後に立ち、所在なげに部屋の中を見回した。豪奢な調度品がそろえられた、ちいさな主には大きすぎる、どこか無機質な空気に満たされた部屋。
 洞察力に優れたツォンの頭脳は、ほどなくその無機質さの理由を探し当てた。
 写真が、無いのだ。両親や兄弟、あるいは友人や恋人、そういった愛すべき者たちの写し身。貧富の別なくどの家のどの部屋にもあるはずのそれが、どこにも見当たらない。壁には主人の意志とは関係なく飾られているのであろう、心が寒さを覚えるような印象画が一枚。

 目の前に佇む、およそ子供らしさのかけらも無い彼の心象の一端を垣間見た気がして、ツォンはその後ろ姿を見つめた。そして、ほんの少し、この仕事に興味を覚えた。


「さあもういいでしょう。風邪をひきますよ。」
 歩み寄り、窓に手をかける。
「ダメ!」
 ひそめた声音ではあったが、常ならぬきつい口調で発せられた拒絶に驚き、ルーファウスの顔を見やった。深い碧に夕日の色を映した双眸は、ツォンの背後に広がるミッドガル上空のある一点を仰視している。
「何か……?」と、振り返ったツォンの肩先をかすめるように、何か大きな黒い塊がルーファウスめがけて飛来した。
「……っ!? モンスター!? ルーファウス様っ!!」
 小さな身体を抱き込み、窓から引き離す。
「動かないで! グロウが逃げてしまう!」
 突然の侵入者に向け銃を構えるツォンの右手に、小さな手が制止の意志をこめて絡みついた。
 スラム周辺でよくみかける小型のドラゴンに似たモンスターが、窓の桟にとまりこちらを見ている。
「撃ったりしたら承知しないぞ。やっとここまで来るようになったんだから。」
「は…?」
 意味を掴みかね、間抜けた返事を返す。
「動いちゃ、ダメだ。」
 ツォンに言ったとも、窓辺のモンスターに言っているともとれる台詞とともに、ルーファウスはツォンの腕の中から抜け出し、彼が“グロウ”と呼ぶモンスターに近付いた。
「危ないですよ!」
「しっ!」
 モンスターは首をかしげるようにして、そろそろと近付くルーファウスを見ている。
 ツォンはいつでも引き金を引けるよう、その眉間に狙いを定めた。
 ルーファウスの指先が、胸元のうろこにそっと触れる。ひんやりとした滑らかな感触。手のひら全体でそっと撫で下ろす。モンスターは羽根を閉じ、されるがまま大人しくしている。
「ふふふ。冷たくて気持ちいいな、お前。」

 ……笑っている!?
 初めて聞いたその幸福そうな笑い声に心を奪われ、ツォンは小さく身じろいだ。それが合図だったかのようにモンスターは翼を広げ、薄闇に包まれはじめた空へと帰っていった。
 満足げに振り向いたルーファウスの顔には、内から輝くような微笑が浮かんでいる。
 昔スラムの教会で見た、天井画の天使を思い出す。暮れ残る空に投げかけられた夕日の最後の一閃が、ルーファウスの背に光の翼を与えていた。

 一瞬の錯覚から目醒め、ツォンは音をたてぬように銃をしまい、まだ名残り惜しげに窓辺で佇むルーファウスの肩を、包むようにそっと抱いた。
「さあ、そろそろお休みの準備をしなくては。」
 やっと見せてくれた微笑みが、その言葉で消えてしまうのではと恐れたが、促されるままバスルームへ向かうルーファウスは、頬を上気させ興奮した様子で今の出来事について喋りつづけている。触るまで半年かかった、とか、やはり翼のあるものの方が馴れにくい、とか。
「また、来ると思うか?」
 背中を流すツォンを、のけぞるようにして振り返りながらルーファウスは尋ねる。語調こそ元の大人びたものに戻ってはいたが、仕種にはまだ高揚感の名残りをにじませている。
「きっとまた、会いにきてくれますよ。」
 気休めでなく、本心からそう願ってツォンは応えた。
 ルーファウスの頬についている泡を指でぬぐい、微笑む。


 このすべてに恵まれた、それでいて誰より不幸な子供は、これまでずっとこんな風に、身の内に棲みついた孤独を自ら癒してきたのだろう。
 母の愛を知らず、父にかえりみられず、同じ年頃の友もないまま、冷たい大人たちの囲いの中で生きてゆくために。
 幼い心に、それはどんなに、冷たく虚ろな日々であったことか。


 興奮して疲れた体を適度に温められ、ルーファウスはベッドに入るなり安らかな寝息をたてはじめた。投げ出された手をそっと毛布におさめる。
 口元に、うっすらと刷かれた笑み。

 守りたい、と思った。心の底から。
 この笑顔を守るためなら、自分はどんな犠牲も厭わない。そうまで思える日が、遠からず訪れるだろう。
 そして、今度こそ間違わない。間違ってはならない。
 遠い日、永遠にこの手から失われてしまった想い人の面影が、胸に去来する。
 まだ、痛みがある。針で心臓を突かれたような痛みに、きり、と奥歯を噛みしめる。
 と、呼応するかのように、ルーファウスが寝返りをうった。
 
 冷えないよう、首元まで毛布を引き上げてやる。
 つい先刻まで胸の内で書き綴っていた配置替え申請書は、とうに破り棄ててしまった。

「おやすみなさい。よい夢を。」
 声には出さずそう呟き、安らかな眠りを妨げないようツォンはそっと部屋を辞した。


               *   *   *


「あのとき引き金を引かなくて、本当に良かったと思っていますよ。もしあのモンスターを撃ち殺したりしていたら、あなたは決して、私に心を開いて下さらなかったでしょうからね。」
「なんで僕が“心を開いてる”かどうかがお前にわかる?」
「何年お側にいると思ってるんですか。あなたのことなら、何でもわかりますよ。」
「えらっそーに」
 口を尖らせて拗ねるさまが可愛くて、つい、笑ってしまった。怒ったように睨むルーファウスも、こらえきれず一緒に笑い出す。

 出会って十五年。
 使用人として、部下として、そして対等な友人として、極めて順調で満たされた日々を、ツォンはルーファウスの傍らで送ることができた。
 これが「幸福」と呼ばれるべきものなのかは、わからなかったが。


 しかしここ数カ月、これまでの十数年間の間に経験したものとは明らかに異なる空気が二人の間に漂いはじめたことに、ツォンは気付いていた。
 違和感の原因を突きとめようにも、ツォン自身の手の届くところに解決への鍵は落ちていないようだった。
 問題はおそらく、ルーファウスの心の中。何かが、ルーファウスの精神に尋常ならざる負荷を与えている。

「どうした。もう下がっていいぞ。」
「はい。」

 閉じかけた扉の向こうで、俯いたルーファウスの眉根が寄せられ、口元が笑いの形に歪むのが見えた。
 その姿に、閃くものがあった。そして思い当たる。
 ルーファウスは、笑わなくなった、と。
 時折見せるシニカルな冷笑はそのままだったが、二人きりの時にふとこぼれる、陽光を思わせる微笑みを見なくなって久しい。
 一体いつから? 誰よりもルーファウスを見てきたはずなのに、はっきりと思い出せない。
 事象の記憶は機械のように正確だが、感覚や感情の記憶はそれがいつ頃の出来事なのか、ひどく不確かで前後の別がない。
(何があったんですか?)
(私にも言えないことなんですか?)
 肩を揺さぶり問いかけたい衝動をこらえ、常よりずっと注意深く、ルーファウスの一挙手一投足を見守る。

 失われた微笑みの代わりに現れたのは、ヒステリックな哄笑。
 何かを言いかけ、やめ、ひきつるように乾いた笑い声を上げる。ひとしきり笑うと、ふ、と口を噤み、沈黙。小さく、溜め息をつく。
 内に逆巻く感情の嵐をもて余しているように見えた。それもやはり、二人きりの時にしか見せない言動ではあったが。
(どうして何も仰って下さらないのですか?)

 日を経るにつれ、事態は悪化の一途を辿った。
 最近はだるい、気分がすぐれないと言って執務をツォンや側近に任せ、自室に引き蘢ることが多くなってきた。
 もう子供ではないのだから、ご自分から話す気になって下さるまでは、と部下の領分から思う反面、ルーファウスは決して自分からは助けを求めないだろうという、経験からくる確信も持っている。
 いつも、そうだ。本当に苦しい時にはいつも独りで、彼は闘っている。
 いつだったか、初めて彼の涙を見た日のことを思い出す。
 明かりをつけない部屋の隅で、声もなく独り泣いている、まだ幼さを残したルーファウスのうすい肩を、放ってはおけない衝動からそっと抱いた。途端、腕の中で暴れだし、ツォンは肘鉄、ひっかきの連打に加えアッパーカットまでくらわされた。腕の中の彼の、その身を震わせている感情が、他人に涙を見られた悔しさと動揺だと理解した時、救いきれない心の闇がまだ彼の中に息づいていることを知る。
 縋ってもいいのだ、泣いてもいいのだと言葉で、身体で訴えかけ、泣き疲れ、暴れ疲れて眠ってしまった彼のしなやかな身体を、夜が明けるまで抱いていた、あの夜。

 そうした数えきれないほどの、闘いとも呼べる互いの心のせめぎ合いを越えて、今、こうしてツォンはルーファウスの傍らに、いる。
 おそらく今回も、ツォンの側から無理矢理にでも、幾重もの防壁に包まれた彼の心の扉をこじ開けにいかねばならない日がくるだろう。

 ―――きっとあなたを守ります、守ってみせます、から。

 それはツォンにとって、この十五年貫き通した至上の誓い。

 ―――待っていて下さい…、ルーファウス様。



H、無いですねぇ。ツォンさんまるっきり保父さんだしー(^^;)
いくら身辺警護ったって風呂まで一緒に入るか?!普通。大体ツォンさん、これじゃタークスの仕事する暇ないじゃんよー。
……オリジナル入ってると思って、どうか見逃してやって下さい…。
ツォンさんがルーに対してドリームし過ぎなのは、私自身がドリーマーだからです。とほ。

こんな、徒に長いばかりの駄文を最後までお読み下さって、ありがとうございました☆(いるのか?!そんな物好きな方が!)

そうこうしてる間に、サボってた仕事が積もりに積もって標高3000メートルだー! えらいこっちゃ〜!
そんなわけなんで、続きはちょっと、遅くなるとおもいますぅ。(←誰も待ってないっての)


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