ひゃ〜ごめんなさいな展開(2)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 10 月 03 日 01:02:31:

 シエラは、落ち着いた顔をして眠っていた。
 シドはその寝顔を見ながら、何とも言えない感情に胸を噛まれる・・・。
 彼女に犠牲を強いてしまった長い年月。そして、それをつぐなうことすら出来ずに、他の男に強く惹かれている自分・・・。たった今も、激情にかられたヴィンセントに抱かれてしまい、それを悦んでしまった自分なのである。
「・・・?どうしたの、シド・・・」
 視線に気づいたのか、シエラがふっと目を開けた。
「いや・・・何でもねえ」
「ごめんなさいね、ぬか喜びさせてしまって・・・あたしの勘違いで」
「いいよ、気にしてねえよ」
 シエラはほほ笑んだ。
「あなた・・・喜んでくれたわね」
「当たり前だろ」
「よかった・・・ほんとによかったわ」
「・・・」
「・・・ねえ、シド・・・いいえ、艇長」
「?」
「あなたが、私に子どもができたと聞いても・・・疎まないで、喜んでくれた・・・私ね、これでもう充分よ」
「充分って・・・どういう意味だ?」
 シドは、顔をしかめた。
 シエラはほほ笑んでいた。
「これであなたを、ヴィンセントさんに譲る決心がついたわ」


 シドは、言葉が見つからなかった。だが・・・
「ゆずる・・・って、な、何なんだよ、そいつは?!」
「わかるもの、あなたがあの人に惹かれてること」
「そっ、そんなこと・・・何バカなこと言ってるんだよ?!」
「シド、こっちを見て。私の目を見て」
 シエラは冷静だった。
「私にウソはつかないで頂戴」
「・・・お前・・・ひょっとして、俺に、愛想つかした?」
「・・・そうね、ある意味ではね」
 シエラはふふっと笑ったが・・・みるみる、その目に、透明な涙が盛り上がってきて、あふれた。
「・・・あなたは私のことなんか、愛してないわ。ただ、義務感と責任感があるだけよ」
「バカヤロウ!」
 シドは、思わずシエラを怒鳴りつけていた。
「義務感と責任感だけで・・・そんなくだらねぇもんだけで、女が抱けるか!」
「お願い、冷静になって聞いて。わたし、やけを起こしてるだけじゃないのよ」
 シエラは涙を拭いた。
「・・・ヴィンセントさん、ほんとにすてきになったわ・・・ほんとよ。以前は、正直言って、私、あの人が好きではなかったわ。でも今は・・・ほんとに素敵よ。私だって、あなたという人がいなかったら、ふらふらしてしまうでしょうよ」
「・・・」
「それは、あなたがいるからよ、シド・・・くやしいけど、あなたもあのひとも・・・二人でいる時が一番素敵だわ・・・」
「シエラ・・・そんなことは・・・」
「あなたは、むかし、自分の夢を棄ててでも、私のいのちを助けてくれたわ。でも・・・でもあのひとも、何度も何度も、いのちがけであなたを助けてくれたのでしょ?・・・聞いてるわ、すべて」
「・・・」
「お願い、もうひとつ聞いて」
 シエラは、真っ赤な目でシドを見上げた。シドはドキンとした。
「今回のは、間違いだったけど・・・私、やっぱりあなたの子どもが欲しい」
「な・・・」
「私一人で育てるから・・・だから、私に、あなたの子どもを頂戴」
「シエラ・・・」
「私はそれで充分。もう何も言わないわ・・・ヴィンセントさんだってそれくらいは許してくれると思うの。だって、私の青春のすべてを奪っていくんですもの・・・」
「ば、バカヤロウ!」
 シドは、壁を殴りつけていた。怒りで目の前が真っ赤になった。
「ばかやろう・・・何てこと言うんだよ、このバカ女が!」
「・・・」
「お前、トロくせえだけじゃなくて、そんなバカだったのかよ?!・・・俺は・・・俺はなあ・・・」
「・・・」
「生むのはてめえでも、俺のガキなんだぞ?!・・・俺のガキに、片親だけで育てって言うのかよ?!」
 シドは、悲しくて悔しくて、何度もガンガンと壁を殴りつけた。シエラは黙って見つめている・・・。
 ヴィンセントという人間が現れなければ・・・自分たちは、今ごろどんなにか幸福だったろう。シドはきっと、全身全霊をこめて子どもをかわいがってくれたに違いない。シドが自分を魂の底から求めていてくれるだなんて、シエラは、そこまではうぬぼれてはいないつもりだ。でも、子どもとなれば話は別だろう・・・。現に、間違いでも、あれだけ喜んでくれたのだし・・・。
「じゃあ私、どうすればいいの?」
 シエラは冷静に言った。
「私は、このまま飼い殺し?」
だから、俺は、お前と一緒になってやるって、何度も言ってるじゃねえか!
「ウソよ、それは」
「な、何だとぉ?!」
「それは義務感から来てる言葉よ。あなたはヴィンセントさんを愛してるわ」
「何でそんなこと・・・!」
「私と結婚したら、あなたは後悔するわ。そして腐っていくわ」
「そんなことはねえ!」
「あるわ!・・・現にそうだったじゃない。私のもとに帰ってきてくれたけど、そのあとの何カ月か・・・あなたはどんどん腐って行ったわ」
「そ、そいつは・・・ただ、退屈だっただけで・・・今は仕事もあるし・・・」
「ウソよ。私、これ以上、後悔しながら生きてくあなたを見るのはいや。ふるふる、イヤ」
 シエラはきっぱりと言った。そう強く出られると、もともとシエラにはよわいシドである。何一つ言い返せないのであった。
「・・・でも私にも、あなたに尽くした十年近い年月のお礼が必要よね?だから、あなたの子どもをそれに充当してほしいだけだわ」
「・・・」
「ほんとにほんとよ。あなたに迷惑はかけないし、会いたければいつでも会って構わない。あなたの子どもですもの」
「シエ・・・」
「それくらい、私のわがままを聞いてよ・・・ねえ、シド?」
 シドは、シエラの目を覗き込んだ。シエラは怖いほど真剣だった。
 どうして自分がそれに逆らえるだろう・・・。
「シエラ・・・」
「ええ」
「今夜したら、できる・・・のか?」
「・・・多分、ね。わからないけど、計算では、そう」
「・・・ほんとに、俺が会いに来ても怒らねえんだな?」
「約束するわ」
「塩まいておっぱらったり、しねえな・・・?」
「おお、シド、そんなことするものですか。あなたは私のベビーのパパなのよ」
 シドは、ごくりと唾をのみこんだ。
 これほどまでに緊張して女とするのは初めてであった。シドは、まだヴィンセントのにおいの残る身体から、衣服を脱ぎ去った・・・。


 ヴィンセントは目を覚まし、涙に濡れた顔を上げた。・・・シドはそこにはいない。
 どうして、自分は女に生まれなかったのだろう・・・あるいは、シドが女であれば・・・。
 自分だって、シドとの子どもがほしい。どちらが生むにしても、だ。
 彼は、シエラが何を決意したか、シドがそれにどう応えるか、すべて分かっていた。シドが愛した女のことだ、きっと、彼女は身を引こうとするだろう。
 それを哀れに思う。自分こそが身を引くべきなのかも知れないとも思う。
 でも、それはできなかった。
 シエラはシドの子どもを得て、それを頼みに生きていくだろう。・・・でも自分は、そんなことは出来はしない。自分は、女みたいな顔だが、女じゃないのだ。そんなに強くはない。シド本人が欲しい。
 でも、本当のことを言うと・・・彼は、シエラがうらやましかった。彼女になりたいとさえ思っていた。
(私も欲しい・・・私とシドの間の子ども・・・)




 ・・・何か、よからぬたくらみを考えつきそうで・・・コワいですねー、ヴィンセント。
 でも、ヴィンシドの子ども・・・と言うのも、ちょっと見てみたい「あ」です。そういう展開にしても・・・いいかな?(←退場!)
 ここまででも、読んでくだすった貴女には、感謝のチュッ☆


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