負けるなヴィンシド!(5) |
---|
肌を這う、熱い感触に、シドはふっと意識を取り戻した。
ここはどこだろう・・・。
「気が・・・つきました?」
ジョンが、こちらを覗き込んでいる。シドはびくっとして身を起こした。
「てっ・・・てめえ!」
「大人しくしてて下さい。今、あと始末・・・してますから」
熱いタオルをシドの肌の上で動かしながら、ジョンは言った。さっきまでとかなり違う、なれなれしささえ感じられる口調であった。
シドは相手が、絶対、許せなかった。いい奴だと思ったのに・・・だからこそ信頼して、無防備に酔いつぶれもしたものを・・・それがこんなかたちで裏切られるとは・・・。
そして、一度抱いたくらいで、「もう自分のもの」とばかりに亭主面してふるまう男も、シドには許せない。
思えばヴィンセントもそうだった。ヴィンセントも、シドを初めて自分のものにした翌朝・・・なれなれしい顔をして、自分の吸っていたタバコを奪って吸ったりしたものだ。シドはむかついて、ヴィンセントを殴り飛ばしたのであった。
ヴィンセントはまだいい。彼は、ある意味、自分よりもずうっと大人なのだし・・・だが、十も若い、こんな小僧っ子に・・・。
「素敵でしたよ、艇長・・・いや、シド・・・って呼んでもいいですか」
「てめえ、あんまり調子に・・・乗るんじゃねえぞ・・・」
「乗りたくもなりますよ」
ジョンは、ふっとほほ笑んで、手を止め・・・シドの目をじっと見た。
「な・・・何だよ」
「あなたのからだは、娼婦よりも淫乱だ」
「・・・」
「ぼくの腕で、あれだけ燃えてくれたら・・・誰だって調子に乗りますね」
「に・・・人間なら・・・生きてるんなら・・・誰だって、あのくらいは・・・!」
「誰の腕でも、あれだけのものを見せてくれるんですか?」
シドは、言葉に詰まった。
「ち・・・ちくしょう!」
「・・・」
「てやんでえ・・・確かに、俺はインランかも知れねえよ。けど・・・けど、なあ」
シドは言葉をつまらせながらも、必死で言った。
「淫乱なのは、俺が悪いのかよ」
「し・・・・シド」
「俺がてめえに抱かれて、喜んじまったのは、気持ちよかったのは・・・確かに俺の責任だ。けど、けど俺は・・・俺は、死んだって、酔いつぶれて身体が動かねぇ相手をコマしたりなんかはしねぇからな・・・!」
「う・・・」
「力ずくで抱かれてもイッちまうヤツと、相手を信頼してるヤツを裏切って抱くのと、どっちが卑怯だか、てめえ、分かってやがるんだろうな・・・?」
シドは息を切らせて黙り込んだ。
ジョンも無言であった。
シドは、相手が何も言わないので、自分が続けた。
「そんなことで・・・そんなことで俺を自分のものにできたと思うんなら、チャンチャラおかしいぜ・・・」
「・・・」
「俺は・・・俺は、誰のものでも、ねえんだ!」
「・・・」
「ヴィンセントに惚れたのは、俺の意志だ・・・抱かれたから、なしくずしにヤツに惚れたわけじゃねえんだ」
「シド・・・ぼくは卑怯ものになっても・・・あなたのことを・・・!」
吹雪が、クラウドをさらって行こうと吹き荒れる。ヴィンセントはクラウドを風からかばうように抱きしめた。
レノとルードが銃を抜き、身構えた。
「セフィ・・・ほんとに違うの?セフィじゃないの・・・?」
「目をさませ、クラウド・・・お前を愛してた・・・お前が愛したセフィロスが、こんなことをするはずがないだろう?!」
ヴィンセントは吹雪にかき消されぬよう、能うかぎりの声で叫んだ。
「私がセフィロスならば、・・・そしてお前がシドだとしても・・・こんなことは絶対にしない!」
「・・・」
クラウドは、爪を立てんばかりにヴィンセントの腕にしがみついた。
(私がほんとうに願うのは、みんなの幸せだ)
今はじめてヴィンセントはそれを自覚した。そしてそれは、彼の愛したシドも同じに違いなかった。
クラウドにも、その違いは感じ取れたに違いなかった。クラウドは叫んだ・・・。
「あっちへ行け、妖怪・・・!俺は・・・俺は、ニブルヘイムへ・・・ティファのとこに帰るんだから・・・!」
瞬間、吹雪がしんとやんだ。
「ティファ、ごめん・・・俺、愛されることだけに夢中になってたよ・・・でも、俺はきみのこと、愛してる・・・だから、これからは、きみを愛して生きてくから・・・!」
「クラウド・・・それでいいんだ」
ヴィンセントは、胸を熱くさせてクラウドを抱きしめた。
(許さない)
魔ものが、ふたたび吹雪を激しく吹きつけながら叫んだ。
(クラウド・・・お前はわたしのもの。すなおにわがものになるがいい・・・!)
「いやだ・・・いやだ、いやだ・・・!」
また・・・短いけど。これでいいかな・・・?
皆さん、今回のアイシクルでのなりゆきより、ミッドガルへ帰ってからのすったもんだを期待なさっておられるらしい・・・。
そろそろ切り上げて、すったもんだへ突入・・・とほほほ・・・します。
次回あたりで終わるでしょう。もうすこし、おつきあいくだせい。
ここまででも、読んでくだすった貴女に感謝のチュ・・・☆