始まりはセフィクラで…(1)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 26 日 01:51:22:

 ガイアの絶壁の、そのまた向こうに大空洞がある。
 その中には、クラウドのかつて愛したひとが眠っている。
 いや、今でも愛している。
 セフィロス、孤独で寂しい魂を持った、でもクラウドには限りなくやさしかった、美しい野獣・・・。
 セフィロスをこの手で倒したとき、クラウドの魂も半分死んだのだ・・・。


「・・・そうよ、セフィロスを倒したときに、あの人も死んだのよ」
 ティファは、温かな湯気のたつティーカップを前にして、うつむきながら語った。
 ここはニブルヘイム。かつてティファの家があった場所に、もう一度神羅によって造られた、レプリカの家である。
 ティファは、今もここでひとりで暮らしていた。
 ひとりで・・・?
 ・・・初めは一人ではなかった。クラウドが一緒だった。
 メテオが発動して・・・エアリスの願いによるホーリーがそれを打ち消し・・・星は救われた。その後戦士たちは、めいめいの道に戻っていったのである。
 中にはまた、新しい世界を再建するため、神羅に戻ってきたものもいる・・・。
 ティファと向かい合っているヴィンセントも、その一人である。新社長リーブのもと、新しい世界を造ろうとしている神羅に、タークス主任として返り咲いたヴィンセントだった。思いがけず恋人も得、仕事も充実し、ヴィンセントは、彼の決して短からぬ人生の中で、おそらく初めて充実した時を過ごしていた。
 ヴィンセントは、確実に未来を見つめている。多くの者がそうだ。
 だが、ただひとりクラウドだけは違っていた。ヴィンセントが迎えに来たクラウドは・・・。
 ティファは顔をおおった。
「どうしたらいいの?・・・あたし、こんなにあのひとを愛してる・・・だのに、あたしには勝てない・・・誰にも勝てない。セフィロスには勝てないんだわ・・・!」
 大きすぎる愛は、いつかお前を打ちのめすかも知れない・・・。ヴィンセントはいつだかティファにそう言った。そしてまさに今、ティファは打ちのめされていた。
「エアリスが生きてたら、こんなこと・・・なかったかしら?」
 ティファは、涙を浮かべながらふっと自嘲した。
「エアリスなら勝てたかしら・・・」
「いや、それは・・・」
 ヴィンセントには何も言えなかった。あるいは、エアリスでも勝てはしなかったかも知れない。セフィロスと言うのは、それほどまでに凄い奴ではあった。
「・・・とにかく、そういうわけなの。せっかく来てくれて悪かったけど、クラウドはここにはいないのよ・・・ごめんね、力になれなくて・・・」
「いや・・・お前が気にすることはないよ」
「久しぶりに会えて嬉しいわ」
 ティファは涙をふいて、にっこりした。
 まじめすぎるところはあるが、やはり魅力的な娘だ・・・とヴィンセントは思った。と同時に、こんな娘にいちずに愛されながら、それでも満足しきれずに故郷を飛び出したクラウド・・・そして、死してなおクラウドにそうさせる、セフイロスといううつくしい魔物に、ヴィンセントは慄然とせざるを得ない。自分がクラウドなら、ティファの愛・・・そして死せるエアリスの思い出だけでもうじゅうぶんだろうに・・・。
「ユフィちゃんや艇長、元気なの?」
「ああ・・・あの二人は相変わらずだ。いろんな事件があったけれど・・・」
「そうね、あのひとたちは強いわ。生き方に迷いがないもの・・・」
「・・・」
「あたしたちみたいな人間は・・・迷いながら、もがきながら・・・ぶざまに生きていくしかないんでしょう・・・けどね」
 ヴィンセントは考え込んだ。・・・シドもユフィも、彼の暗い、つらい人生の中では、太陽のような人間たちである。どちらもかけがえのないものだ。
 むろん、彼らには、彼らなりの辛さや哀しみがあることは百も承知である。それでも、ヴィンセントは・・・彼らに惹かれる。殊に、数限りない痛手を被りながら、そのつど立ち上がっては自分の輝きを増してきたシドという人間には・・・。
「ねえ、ヴィンセント・・・」
「・・・」
「あたし・・・頑張るわ。たとえクラウドが戻ってこなくても、あたし、頑張るから・・・」
「ティファ・・・」
 ヴィンセントは、抱きしめてやりたいほどティファを愛しく、そして哀れに思った。
 だが、自重した。ティファが求めているのはクラウドだけなのだから・・・。


 ニブルヘイムはまだ春には遠い。ティファの家を辞しながら、ヴィンセントはため息をついた。
 ニブルヘイムでさえこんな冷えるのに・・・クラウドはアイシクルエリアだと?よりによって・・・。
 これはもう、自分一人の手には負えない。
 ミッドガルに置いてきた部下・・・レノやルードを連れて、もう一度出直しだ・・・。


 クラウドは、アイシクルエリアの、大空洞に近い雪原の山小屋にひとり起居していた。ヤマスキーの小屋よりなお奥地である。
 大空洞に“近い”と言っても、ほんとうにそこまで行こうと思ったら、何時間も何時間もかかってしまう。それでも、一歩でもセフィロスに近くにいたかった。
 月に何度か、食料や生活必需品を得るために人里に現れるだけで、クラウドは、ほとんどの時間を一人で過ごしていた。
 この地は、エアリスがいのち終えた地にも遠くはない。
 セフィロスと、エアリス・・・この二人の、いわば菩提をとむらうことだけが、クラウドの残された人生唯一の目的であった。
 ティファには申し訳ないと思う。今でも、生きている人間の中では、一番愛しいのが彼女だ。だが、セフィロスへの想いはそれに勝っていた。
 ティファはまだ若くて美しい・・・まだやり直しはきく。
 せめて俺は、セフィロスのそばにいてあげよう・・・。
 びょうびょうと吹きつける雪風が、セフィロスの声に聞こえる。
 クラウド・・・クラウド。俺のかわいいクラウド・・・。
(セフィ)
 クラウドは、薄暗い山小屋で、ひとり毛布にくるまりながら、声をしのばせて泣いた。
(今でも、一番愛してる。貴方に抱いてもらったこと・・・貴方の愛撫のひとつひとつ・・・何人の男に抱かれたかもうわからないけど、俺、あんたのことだけは・・・忘れられないよ)
 ・・・小屋の扉が開いたのは、その時である。
 吹雪まじりの風の吹き込む中に、セフィロスが立っていた。
「・・・セフィ!」
「クラウド・・・」
 クラウドは、無我夢中でしがみついた。数カ月ぶりの他人の肌のぬくもりに、クラウドはあえいだ。
「・・・生きてたんだね、セフィ・・・」
「お前をひとり置いて、死んだりするものか」
「ああ、セフィ・・・」
 クラウドは、ひしとセフィロスを抱きしめた。
「・・・待ってたよ。迎えに・・・来てくれたの?」
「いいや」
 セフィロスは、にっこり笑ってクラウドを抱いた。
「それはまだ・・・もう少し先だ・・・」


「はぁぁぁぁ・・・セフィ・・・セフィ!」
 もしも、この光景を眺めている者がいたとしたら・・・。
 何のあやかしか、妖怪のしわざかと、目を疑うに違いなかった。
 誰もいない小屋で、クラウドは、ひとり吹雪になぶられながら、あられもない姿で、身も世もない快楽にうち震えていた。
「セフィ、もっと強く・・・あああ・・・もっと、もっとぉ・・・!」




 魔に魅入られ、この世ならぬ快楽にもてあそばれるクラウド・・・。果たしてヴィンセントの救出は届くのか?
 シドの登場はも少し後になりますが、まぁ、ご容赦を・・・。たまにはこーゆーのもいいでしょう(よくねぇ?)
 ここまででも、読んでくだすった貴女に感謝★


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