セフィロス可哀相物語


投稿者 しほ 日時 1997 年 9 月 25 日 18:59:04:

セフィ×クラでしー!
なぁんか、久しぶりに王道を書いたような気がします。
セフィが可哀相…というお話。たまにはこういうのもいいかな、なんて。


 夢なのだと、ずっと思っていた。ある筈がないと、思い込もうとしていた。
 力強い腕に押さえ込まれ、引き倒され、翻弄される夢。冷たい手、長い銀の髪のしなやかさ、碧の瞳がうすく笑う様、白い彫像のようなたくましい体躯−−−全てが、夢なのだ、と。
 抵抗は受け入れられることはなかった。全身の力をもって抗おうとしても、いつしかその腕に絡め取られ、自由を奪われる。そして、彼が与える残酷な快楽に、全てを委ねてしまうのだ。
 セフィロス。
 夜毎訪れる陵辱者の名が舌に苦くて、クラウドは己の体を抱き締める。
 彼は何故、自分を求めたのか。ミッドガルを出、彼を追う事を決めたその時から、彼は時折その姿を見せるようになった。まるで、クラウドを導くかのように。そして、クラウドが強い魔晄に晒されて自分を失った時でさえ、彼はクラウドの元を訪れ、執拗にクラウドに触れた。
 彼は一体、何を望んでいるのだろう。
 夜が闇の翼を広げ、全てを覆い尽くす時、彼はまた、クラウドの前に現れる。そして今夜、安息の眠りを拒絶し、クラウドはひっそりと息を潜めながら、彼を待ち続けている。


 闇に浮かび上がる長い銀髪が、白い焔のように見えた。緩やかなその足取りは、獲物に忍び寄る獣を思わせる。彼の獲物は、シーツの上にその身を起こし、彼の牙を待っていた。
「−−−クラウド」
 静かな声に、獲物はゆっくりと顔を上げた。澄んだ湖を思わせる青い瞳に、己の姿が映るのを認め、彼は満足げに微笑した。
 長い指が、白い滑らかな肌を滑る。その指の冷たさに、クラウドは一瞬、微かに身を竦ませた。けれどその細い体からはすぐに力が抜け、クラウドは無防備に彼の前に全てを晒け出す。−−−まるで人形のように。
 やはり夢などではなかった。確かにセフィロスは自分に触れていた。夜毎の逢瀬は、幻ではなかったのだ。
 セフィロスが低い声で嘲るように笑った。
「どうした、逆らわないのか? いつものように…」
 唇を彩る冷たい微笑。見る者を戦慄させるその笑みを張りつけたまま、セフィロスはクラウドの唇に触れる。紅い果実を思わせる小さな唇は、ためらうことなく自ら開き、セフィロスを導いた。
「クラウド…」
 セフィロスの声に、訝しげな響きが混じる。
 彼は、困惑していた。今まで力の限り抗い、無駄な抵抗を繰り返してきたクラウド。その抵抗を力ずくで押さえつけ、体を押し開き、幾度となく鳴き声を上げさせてきた。燃え上がる憎しみの炎をたたえた瞳が、次第に快楽に潤む様を見るのが、セフィロスの至上の喜びだった。
 そのクラウドが、全てを許すかのように、静かにセフィロスを受け入れている。
 あの憎しみはどこへ行った。あの悲しみ、苦しみは。人形であることを否定し、人間であろうとしたあの哀れな傀儡は。
 セフィロスの疑問に答えるかのように、クラウドの手がそっと彼の頬に触れる。
「セフィロス…」
 彼を呼ぶクラウドの声は、悟りきったように静かだった。
「俺は…見た」
 シーツに散る乱れた金の髪。額にかかる金糸の下で、蒼の瞳が細められる。
「あの時、ライフストリームの中で…俺が見つけたのは、俺だけじゃなかった。セフィロス、あんたの事も…」
 クラウドの手が、セフィロスの頬に触れる。まるで慈しむように。
「俺は…あんたの事、何も知らなかった。知ろうともしなかった。でも……やっと、わかったんだ」
「何を……」
 セフィロスの顔に、明らかな狼狽の色が浮かんだ。
「何を知っているというのだ。お前は、何を見たと…」
「あんたの事、全部……」
 静寂の中、クラウドの静かな声が、室内に染みわたる。あどけない、少年の面影を残した幼い顔が、セフィロスを淀みない瞳で見上げた。
「あんたの過去」
 父の名も知らず、母の温もりも与えられず。
 母の名はジェノバ。それだけが、セフィロスにとっての真実だった。だが、ライフストリームの迸る知識は、その過ちさえ残酷につきつけてきた。
「どんな風に育ったのか」
 冷たい壁に囲まれた研究室が、彼の幼少時代の全て。母の優しい腕に、父の逞しい腕に、一度として抱かれる事もなく。
 ここから出せと泣き叫びながら、手あたり次第に薬品の瓶や書物を、名も知らぬ研究員に投げつけた事もあった。だが、そんな彼を誰一人止める者はおらず、記憶に残るのは、彼を見つめる科学者達の、冷ややかな物言わぬ目だけ。
「どうして強くなれたのか」
 誰も助けてはくれなかった。頼れるのは自分だけ。自分自身の力だけ。
 他人は手を差し伸べてはくれない。強くなったのではない。強くなるしかなかった。それ以外に、自分を救う手だては存在しなかったのだ。
「…でも、あんたは、本当は……」
「だから、どうだというのだ」
 無機質な声がクラウドの言葉を遮った。セフィロスの全身から立ち上る、異様ともいえる冷たいオーラが、クラウドの体を硬直させる。
 不意に、その声に嘲笑が混じった。
「私を哀れむのか? 人形のお前が? ……とんだ茶番だな」
 喉を震わせ、セフィロスは笑う。笑い続ける。引きつった忍び笑いが、クラウドの耳を犯すかのように侵入を繰り返す。
 そして唐突に、その声が止まった。
「−−−その目をやめろ!!」
 慈愛に満ちた蒼の瞳を封じ込めるために、セフィロスはクラウドの頬を打った。背けられた顔に、乱れた金の髪がかかる。
 布の引きつれる音、散乱する夜着、むき出しの白い肌。セフィロスはクラウドの服を力任せに引き裂き、滑らかな肌を夜気に晒した。彼の両の肩を押さえつけ、かみつくようなキスで動きを封じる。思う様腔内を蹂躙し、クラウドの小さな舌を絡め取り、強く吸う。息苦しさに呻く声が口づけの合間に漏れるが、それでもクラウドは抵抗を示さなかった。
「私の全てを見たと言ったな」
 セフィロスは挑むような目でクラウドを刺し、低い声は、優しいとさえいえる響きで、クラウドを舐める。
「ならば今、私が何を望んでいるか、お前にはわかるのだろう…?」
 白い首筋にきつく歯が立てられる。噛み切らんばかりの強さで犬歯が食い込み、ぎりぎりとクラウドを追いつめる。クラウドの唇は、声を殺す為に強くかみしめられ、紅く色づいていた。
「……っあ…!」
 ついに耐えきれず、クラウドは声を洩らした。体がなじんでしまったセフィロスの愛撫。セフィロスは、クラウドの感じる部分を、知り尽くしたポイントを、執拗に責める。耳朶をすっぽりと唇で覆い、舌でやんわりと舐め上げ、手は胸元の突起を、痛みを感じるほどに強く摘み上げる。びくりとクラウドの腰が震え、彼は次第に上がり始める息を、隠すことなく吐き出した。
「セ…フィ……」
 記憶を取り戻した彼は、以前のようにセフィロスに囁きかけた。遠巻きに畏怖の目で眺めるだけの輩とは異なり、クラウドだけは、セフィロスを、親しみを込めてそう呼んでいた。
 クラウドが神羅に入隊したばかりの、まだ年端もいかない頃から、セフィロスはクラウドを愛玩していた。唇を重ねることも、肌を合わせることの快楽も、全てセフィロスから教わったものだった。セフィロスは、クラウドの無垢な純粋さを、飾りない心で自分を愛してくれるクラウドを、大切に思っていた。
 誰も、誰一人として、セフィロスの孤独を理解する者はいなかった。
 「特別な存在」であり続けた彼は、人々から尊敬され畏れられ、いつしか人間であることを忘れられた。だが、彼も紛れもない一人の人間であったのだ。怒りや悲しみや喜び、そういった感情を持った人間であることを、彼を崇拝する人々は忘れ去っていた。けれどクラウドは、人としてセフィロスに接した唯一の存在だった。
「あ…セフィ…っ……」
 密やかな喘ぎがセフィロスの耳元を擽った。
 小さな手がすがり、セフィロスを優しく抱き寄せる。新雪を思わせる純白の肌に、セフィロスが残した所有の証が、鮮やかな刻印となって刻まれている。艶めかしく絡みつく細い腕。しっとりと汗に濡れた前髪が額に張りつく。ただそれだけの光景が、ひどくそそる。
 一瞬、あの時に戻ったような気がした。階級も性別も越えて、ただただ愛し合い互いを深く重ね合ったあの時へ。
 だが、自分を見上げるクラウドの瞳に、それははかない夢だと気づく。
「そんな目で、私を見るな…」
 セフィロスの声が微かに震える。彼は、確かに恐れおののいていた。
「私を哀れむ事は許さない……お前が私にそんな感情を持つことは許されない」
「セフィ…」
 対照的に、クラウドの声は静かだった。まるで、二人の立場が逆転してしまったかのようだ。
「俺は人形じゃない…あんたと同じ…」
「黙れ…っ!!」
セフィロスは、力任せにクラウドをベッドに押しつけた。今までクラウドの肌を滑っていた手が、彼のほっそりとした首にかけられる。そのまま力をこめると、あっさりと折れてしまいそうな程細い首筋。
「…死にたいのなら、続きを言うがいい」
 歪んだ顔すらなまめかしい。苦しげに吐き出される息さえ嬌声に聞こえる。この少年の全ては己の手の内にあると、思い込まなければ−−−今まで築いてきたものがすべて崩れてしまう−−−そんな悲痛な表情が、神を望む男の顔に浮かぶ。
「私は神になるのだ……お前など手の届かない存在へ…星とひとつになり、私がこの星となる…人形のお前など…」
 憑かれたように、セフィロスは言葉を迸らせる。けれどクラウドは、彼の言葉に反応を示さない。ただ、悲しげに眉根を寄せ、静かにセフィロスを見上げるばかりだった。
 ゆっくりと、クラウドの白い両手が、セフィロスの頬を包み込む。優しい指が彼の肌を撫で、青く澄み切った瞳の奥で、慈しむような光が揺れていた。
 可哀想に。そう、その目は告げていた。−−−それを見取った瞬間、セフィロスは、クラウドの中に残酷な侵入を遂げていた。
「あ…あああっ!!」
 前戯も愛撫もない、ただ力で押し入るだけの侵略。襞が裂ける生々しい音がした。鮮血が、蒼白い太股を伝う。
「っ…く……ぅ…」
 痛みに呻く声、苦痛に歪む顔を、セフィロスはうすく笑いながら見下ろした。
 これこそがあるべき姿。これこそが、彼のよろこび。神である己の前に全てが跪き、支配されることを望む世界。セフィロスは、クラウドを陵辱することで、再確認しようとしていた。
 ゆっくりとセフィロスが動く。微かな振動にさえ、クラウドは痛みを耐えきれずに震えた。かみしめた歯の間から漏れる悲鳴が、悦びの声となってセフィロスの耳に忍び込む。
「あ、あっ……セフィ…セフィ……っ…」
 クラウドは譫言のようにセフィロスの名を呼び続けた。
 次第に激しさを増す動きに耐えきれなくなったのか、クラウドは目の端に涙を滲ませ、哀願するようにセフィロスを見た。構わず乱暴に突き上げると、クラウドの喉から絞り出すような悲鳴が放たれ、涙の粒がこめかみを伝った。それが金の髪に吸い込まれる頃には、小さな体からは力が抜け、クラウドは完全に意識を失っていた。
 ぐったりと横たわる細い肢体に欲望の証を放ち、セフィロスはクラウドから離れた。支えを失った力無い体は、深くシーツの海に呑み込まれ、糸の切れた操り人形を思わせた。
 そう、それでいい。お前は人形に過ぎないのだから。人間の感情など持たぬ、私の分身となりえる者。それは、お前だけなのだから。
 冥い微笑を唇に張り付けたセフィロスは、一度だけクラウドの寝顔を振り返り、そして、闇に冷たい光を放つ瞳を伏せた。


 ねっとりと絡みつく闇の中、クラウドは重い瞼を上げた。かの人の姿は既になく、疲れた体を横たえる自分だけがそこにいた。
 セフィロス。
 彼は、先刻までこの肌に、体に、奥底に触れていたひとの名を唇に乗せた。
 セフィロス、貴方は−−−
 彼の孤独。彼のこころ。彼の感情。人間である彼の、人間であるが故の苦悩。
 知らなければよかったかもしれない。知らなければ、憎んでいられた。ただ憎いだけの存在でしかなかった筈の彼が、全てを知ってしまった事で、クラウドを追いつめる存在へと変貌を遂げた。
 −−−貴方は解放されたがっている。救いを求めている。
 彼を、たすけたい。
 彼を、赦したい。
 彼のもとへ行かなくては。
 かつて彼と全てを許しあい、彼と交わっていた頃、クラウドは彼を知っていたように思う。超人的な力を持つ伝説のソルジャー。ただそれだけなら−−−ここまで惹かれはしなかった。クラウドは、彼の人間の部分を知っていた。だからこそ、こんなにも魅かれ、そしてその想いは強い憎しみへと変化したのだ。
 セフィロス。
 唇に乗せる名は、甘い。
 下肢の痛みはまだ消えていない。押さえつけられた腕に残る、彼の指の跡。この体を押し開かれ、弄ばれ−−−それでも、彼を恨む気にはなれなかった。
 彼は望んでいた。もっとずっと以前から、彼は救いの手を待っていた。クラウドは、そのことに気づく事ができなかったのだ。
「待っていて、セフィ……」
 小さな呟きが、冷たい空気に溶ける。
 彼が待っている。だから、行かなくては。彼を解き放つ為に。彼を−−−救うために。それができるのは、自分だけだから。
 胸の奥の痛みを自らの腕で抱きしめて、クラウドは静かに、ゆっくりとその目を閉じた。


いや、あまりにも本編でのセフィの扱いがひどいから(汗)。
彼もかわいそうな人なのよね…うっ…(涙)
クラウドが彼を救ってあげるのよね(←かなりドリー夢入りっぱなし・汗)


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