完結しました! 皆さんのおかげです(12) |
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下で、パトカーのサイレンの音がする・・・。
バトルブリッジは、覚悟を決めたように、部屋に立ちつくしていた。
あのビデオが手元にあれば、最悪こうなることは免れたかもしれない。いかにタークスのヴィンセントと言えども、愛する人のあんなビデオが世に流出するくらいなら、こちらの要求をのんでいたであろうから。
が、彼は、あえて息子にそれを渡してしまった。
(僕はもう、お父さんをこれ以上軽べつしたくないんです)
ジョンはそう言ったのだった。
(お父さんの孫たちがいつか大きくなった時、ぼくら、何て言えばいいんです?お前たちのお祖父さんは、富も名誉もある人だったけど、目先の利益のために、人を踏みにじるのが平気な人だった・・・お前たちもそうなれ、と?)
鈍く重くなり果てていたバトルブリッジの感受性にも、その言葉はグサリと突き刺さった。これは堪えた。
(シド艇長・・・ぼくはあのひとの誇り高さを愛してる。もしぼくがいつか父親になるとしたら・・・お父さんの孫は、ああいう人に育てたいんです)
正義の神のような視線に射抜かれて、バトルブリッジは、息子の請うまま、例のビデオを渡したのだった・・・。
だが、それだけではなかった。ほんとは、それだけなんかじゃない・・・。
ドアが、背後で開いた。
「・・・バトルブリッジ!」
タークスの制服を着たヴィンセントが、あの美しい姿がつかつかと早足に入ってきた。手に持っているのは、逮捕状だろうか・・・。
「残念だ・・・」
ヴィンセントは、かつての同期に手をさしのべた。それが手錠をかけるためだということはわかりきっている。だが・・・。
だが。
バトルブリッジは手を伸ばして、ぐいとヴィンセントの手首をつかんだ。ヴィンセントはされるがままにしている。
「ヴァレンタイン・・・一度・・・一度でいいから・・・こうしてみたかった」
「・・・」
バトルブリッジに抱きしめられながら、ヴィンセントは逆らわなかった。
ほっそりとしなやかな体つき、黒髪の冷たい手触り・・・。
何もかも、かつて夢想したままの美の神そのものであった。
「私は逮捕されてもいい。身をほろぼすのも、ヴァレンタイン、あんたのためならばかまわない」
「・・・私には何もしてやれない」
「一度でいいから・・・抱かせてくれ」
ヴィンセントは、ガーネット色の深い瞳を上げた。
「ああ、愛してる・・・若いころからずっとだ」
ヴィンセントの身体が、やわらかく、そばのソファに横たえられた。
バトルブリッジはその唇を・・・首筋を、自分の唇でむさぼった。
ヴィンセントは、大理石の彫像のように反応しない。
それでもよかった。なん十年夢見ていた恋が、つかのまでも成就しようとしているのだ。
カチリ・・・
やがて、部屋に、冷たい音が響き渡った。
バトルブリッジは動きを止めた。・・・手首に、いつの間にか、冷たい手錠が食い込んでいる・・・。
「・・・哀しいな、バトルブリッジ・・・」
ヴィンセントは、バトルブリッジの身体を押しのけて立ち上がり、髪をととのえた。
バトルブリッジが、泣き始めた。・・・すべてを失ったものの、今はなりふりをかまわぬ歔欷の声であった。
「どうして・・・どうしてだ、ヴァレンタイン」
ヴィンセントは、衣服を直しながら、冷たく言いはなった。
「お前がもし、私のシドをあんな無残な目に合わせていなければ・・・もしかしたら一度くらいは抱かれてやってもよかったかも知れないが」
「・・・」
「残念だ、バトルブリッジ・・・」
ヴィンセントは部屋から出て、部下たちを呼んだ。
もう、未練も同情もなかった。彼は心の中で呟いていた。
(シド・・・これが私にできる、せいいっぱいの復讐だ・・・)
「・・・やりきれねぇ事件だったな」
すべてが片づいた夜の、「かめ道楽」である。
シドは、いつも以上に早いピッチで酒をあおっていた。
当然のことだが、ロケット計画は一時頓挫となった。副部長が逮捕され、責任者であるバトルブリッジ中尉も、責任を取るために進退伺を提出して謹慎している。
リーブ社長がどう出るかは、まだまだ誰にもわからなかった。シドは・・・もし計画が本式に中止になった時、シエラの身の振り方をどうつけてやろうか・・・と考えていた。
ヴィンセントも、珍しくぐいぐいと飲んでいた。彼は、もうじきクラウドをミッドガル呼ぶために、ニブルヘイムへ旅立つことになっていたのだが、正直、次の仕事など考えたくなかった。しばらくどこかに閉じこもっていたい気がひしひしとしていた。
まぁそんなことを言ったら、またシドにバカにされてしまうだろうが・・・。
「おい、大丈夫かよ、そんな飲んで・・・」
「・・・私だって人間だ。たまには酔いつぶれたい日もある・・・」
「困るぜ、お前がつぶれたら」
「・・・」
「誰が、俺をかついで帰ってくれるんだよ、ええ?相棒」
シドは、コツンとヴィンセントの額を叩いた。
ヴィンセントの頬に、やっと笑みが戻ってきた・・・。
「シド・・・」
「ああ?」
「・・・あのこと・・・信じていいんだな?」
「あのこと?」
「私を、愛していると言った」
「・・・」
シドはばつの悪そうな顔をした。
「・・・大事にするよ。このいのちの続く限り、もう二度とあんなつらい思いはさせない・・・」
「あ・・・あれは、あの時は、言葉の綾で・・・」
「ふ・・・困った照れ屋さんだ」
ヴィンセントは、くすくすと・・・彼にしては珍しいほど、笑い出した。シドが困った顔でこちらを睨みつけるのがまた愛しくて・・・。
「思い知らせてやろう・・・誰がこの世で一番あんたを愛しているかを・・・今夜一晩かけて、じっくりと・・・な」
・・・ふううう、終わった、終わった☆
よかったよかった・・・一時はまじでどうしようかと思ったですから・・・。
さて、次は、ヴィンクラです。シドを得たヴィンセントが、さっそく浮気をする・・・わけではないけれど。ミッドガル・ヒーロー番外編であります。
基本はヴィンシドなのですが・・・。こちらのほうも何とぞよろしゅうに・・・。
今回も、読んでくだすった貴女と、会長さまに愛と感謝のチュッ☆