告白…(10)
ついに10だよとほほ・・・


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 23 日 04:04:18:

 居酒屋「かめ道楽」で・・・。
 シドは、ヴィンセントを待っていた。
 ヴィンセントはなかなか来ない。相方の来るのを待って、「突き出し」だけでビールを飲んでいたら、すっかり酔いが回ってしまったシドだった。
 ヴィンセントは「何も気にするな。タークスがうまいこと始末するから、あんたはいつも通りにしていればいい・・・」と言ったものだが。
 だが、あの夜の、けだもののような、それでいて血の冷たい爬虫類のような、男たちの狂態を思い出すと・・・。
 シドは、胃が冷たくなるのを感じた。もっともっと酔わなくては・・・。ズブズブになってしまえば、その間だけでもつらいことは忘れられる。
 が、新しいビールを注ごうとした手を、誰かが背後からそっと押さえた。
「・・・そんな飲んだら、身体に毒ですよ」
「ジョン・・・」
 バトルブリッジ中尉が、シドの手を抑えていた。
「横に座っていいですか」
「・・・」
「そんなに長いことはお邪魔しません。ただ、返したいものがあるだけですから・・・」
 ジョンは、コートの内ポケットから、茶封筒に入った平べったいものを取り出して、そっとシドの前に置いた。
「これは・・・?」
 受け取りかけて・・・。
 シドの手が、止まった。
「ま、まさか」
「あなたの艶姿が映っています」
「・・・!」
「マスターテープです・・・さる場所から、ぼくが取り返して来ました」
「み・・・見たのか」
「最初の方だけ・・・。好奇心に負けて・・・でも、3分とは正視していられませんでした」
 シドの心臓の音が、こちらにも聞こえるようだと・・・ジョンは思った。
 何と言う美しいひとだろう。外見だけなら、この人より美しい人は何人もいるかも知れない。だが、こんなに熱いハートを持った男は、そうはいない。
 いや、外見だってそうだ。透けるような金色の髪、輝くばかりに美しい、きめの細かい黄金色の肌、青空をそのまま持ってきたような瞳・・・。十代の少年のままの瞳。
 抱きしめたい。そして自分のものにしたい・・・。
 泣くならば、自分の胸で泣いて欲しい。
 そんな熱いものを限りなくかき立てる男の姿だった。
「これを取り返すとき・・・所有者から聞いた話をしましょうか」
 ごくりと喉を鳴らしながら、ジョンはしいて冷静を装った。
「これを撮るように命じた男は・・・若い頃、神羅製作所に入ったばかりの頃・・・タークスのヴァレンタイン氏に陰ながら恋していたそうなんです」
「ヴィンセント・・・に」
「それは美しい人だったと聞きました」
「・・・」
「どうせ、あれから20なん年もたった今となっては、その想い人も同じように年老いているだろうとは思ったけれど、それでも、許せなかったのだそうです」
「許せない?」
「自分が人生で一番あこがれた相手の心を独り占めにし、その腕に抱かれる人間が」
「お・・・俺のことか、まさか」
 ジョンはうなずいた。
「もちろん、自分の野心もあるでしょうが、その動機も大きかったようですよ。まぁ、それを聞いたからと言って、あなたの受けた傷が少しでも小さくなるとは思えませんけれど」
「俺は・・・」
「許してやっては・・・いただけませんでしょうね」
「てめえの親父は、殴り殺してやりてぇけど・・・」
 シドは拳を震わせた。
「でも・・・お前がそこまで言うんなら・・・」
「・・・」
「俺は、残念だが、あんたのことは気に入ってるんでな」
 ジョンはふっとほほ笑んだ。
「僕になら、抱かれてもいいですか?」
「そ、それはちょっと・・・まだ」
「正直ですね。でも、いつかはあなたをぼくのものにします」
 その時、入り口からヴィンセントの長身が入ってくるのを認めた。ジョンは立ち上がった。
「ヴァレンタイン氏が来ました。僕はここらで失礼」
「お、おい、ちょっと待て・・・う、う」
 シドは目を白黒させた。いきなり身をかがめたジョンが、シドの唇に自分の唇を重ねて吸ったからだ。
 そばを通りかかった店員が、ビールをひっくり返した。
「・・・なっ、何しやがる!」
 シドは、力まかせにジョンを突き飛ばした。
 ジョンは悠々と笑いながら、立ち去った。


「そうか、バトルブリッジが、私のことをな・・・」
 ヴィンセントはため息をついた。
 ここはヴィンセントの部屋である。「かめ道楽」で腹ごしらえと最初の飲みをすませた二人は、本格的な「大人の時間」をここで迎えるのがいつものコースであったから・・・。
「少しも気づかなかった・・・」
「・・・お前も、そういうことがあるんだな」
「妬ける・・・か?」
 ヴィンセントは流し目でシドを見た。シドはあわてて目をそらした。
「だが、残念ながら・・・当時の私は、彼のような純粋であった人間に愛されるような・・・そんな資格のある人間ではなかったのだ」
「・・・」
 ヴィンセントは、ガントレットに包まれた、自分の左手を握りしめた。
 むかしの、弱くはかなく、情けないばかりだった自分・・・。その自分のからだを、幾人の男たちがむさぼりはずかしめては去ったことか、ヴィンセントにももうしかとは思い出せない。
 あのころの自分に美しいものがあったとすれば、それはからだと顔だけである。今のヴィンセントは痛切にそう思う。あのころの、軟弱で後ろ向きだった自分・・・思い出すだけでヘドが出そうだ。
 宝条に強い身体をもらった時も、自分はまだ醜かった。
 シドに出会うまでは・・・。その黄金のハートを少しでもわけてもらうまでは。
「だがな、シド・・・。どっちにしろバトルブリッジはもうおしまいだ」
「・・・?」
「やつは、汚職をはたらいている。ロケット関係の機器の納入業者からな・・・」
「な・・・!」
 シドは息をのんだ。何となく見当はついていたが・・・。
「部下が、探り出してくれたのだ。これを公表すれば、やつの社会的地位は終わる」
「そ、そうだとしても・・・息子のほうは関係ねえだろ?」
「それは、私の知ったことではない」
「あいつは、そんなヤツじゃ・・・」
 言いかけたシドは、びくりとして動きを止めた。
 ヴィンセントのガーネット色の瞳が、じっと、見透かすようにこちらを見ている。
「やけにかばうな、シド・・・まさか、惚れた・・・?」
「ち・・・違う、そんなんじゃねえ」
「本当に?」
「俺が・・・俺が抱かれてもいいと思ってるのは・・・」
 言いかけて、シドは顔を真っ赤にしてそむけた。
「・・・言わなくても分かるだろ」
「シド、それは・・・それはほんとか?」
「・・・」
「最後まで言ってくれ・・・誰になら抱かれてもいいと?」
「ヴィン・・・セント・・・」


 ヴィンセントの胸に、暖かいものが広がった。
 と、同時に・・・。
 何だかいつになく従順なシドに、やや疑わしいものを感じてしまうのも事実であった。
 ヴィンセントは、内ポケットから、さっきの茶封筒を取り出した。
「て、てめえ、それは・・・いっ、いつの間に!」
 あわてるシドを制して、
「ここで、一緒に見てもいいか?」
「やっ、やめろよな、そういう冗談は・・・んっ」
「もう一度、聞くが・・・」
 耳元にささやかれて、シドは目をぎゅっとつぶった。
「・・・いいだろう?ここで見ても・・・」
「あ・・・あ・・・ヴィンセント・・・」


「あっ、あああ!」
 ビデオの中のシドと、現実のシドの鳴き声がシンクロする。
 いつにない刺激に、シドはかつてない興奮を見せていた。それがヴィンセントをまた燃え上がらせ、駆り立ててしまう・・・。
「はぅ・・・ああ、ヴィンセント・・・」
「綺麗だ、シド・・・」
「あ、あ・・・お前も、ヴィンセント・・・はっあああ!」
 ビデオの中のシドが、男たちの身体の下で、耐え切れずに身をのけぞらせて喘ぐ。
 現実のシドも、それ以上に快楽に耐え切れずに啼く。
 からだをヴィンセントに・・・そして、こころをビデオの中の男たちに犯されて・・・シドの身も心も炎になった。
 ヴィンセントは、絶え間なくシドをゆすり上げ続ける。白い肌に汗をにじませてシドを攻め立てるヴィンセントは、この上もなく美しかった。
「私の・・・私だけのものだ、シド」
「ああ・・・お前も・・・お前もだろ、ヴィン・・・はぁああ」
「もちろんだとも・・・私の髪の毛の一筋、血の最後のひとしずくまで・・・すべてあんたのものだ、シド・・・」
「ヴィンセント・・・あああ・・・愛してる・・・!」
 シドは、すべての誇りも意地もかなぐり捨てて、ヴィンセントの腕の中で燃えた・・・。




 ・・・と言うわけで、ついに身も心も結ばれたふたり・・・と、思う?(にやり)
 まだ、もちょっと続きます。
 次回はヴィンとバトルブリッジ父の対決編!・・・だといいなあ。
 こんなのでも、読んでくだすった貴女に感謝・・・☆


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