三角関係ラム×アグリ(2) |
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れっつごー!!(笑)
落ち着かない。
アグリアスはそんな自分に気がついていた。
どうしてだろう。
自分に問いかける前から答えは判っている。
ラムザとセレック。この2人が何故か、気になって仕方ないのだ。
今までずっと一緒にいて、誰よりも信頼したからこそ自分はラムザについてきた。そして、ただの仲間以上の想いを自分に向けていてくれていることは気づいていたし、彼女自身もまた、仲間とは違う想い・・・・・・それが恋愛感情と呼ばれるものではないと思いつつも、そんな普通とは違う想いを向けていた。
が、しかし。
「・・・・・・セレック・・・・・・」
突然現れたこの騎士の存在もまた、彼女にとっては特別な存在だった。
目指す物、物事の考え方、彼の持つ物が、自分と似ている。自分と志を同じくする、心の近い人間だ。
これまで、そんな人間に出会ったことなどなかった。
目指す物が似ている人と過ごすことは、とても心地いい、とアグリアスは思った。
セレックもまた、自分を思ってくれていることも知っている。
だからこそ、彼女は落ち着かなくなってしまうのだ。
アグリアスはふと、カーテンの隙間から夜の闇に包まれた空を見上げた。
一時やんだ雨がまた降り出し、静かな夜に音を添えていた。
「また降り出した…。」
そのとき、この宿屋には、彼女と同じ言葉を発した者がいた。
「また降ってきた…。」
ラムザの部屋にその言葉を発した人間…セレックはいた。戦闘でのリーダーであるラムザと、主戦力であるセレックとの話し合いは、戦いの時に大いに影響する。そのため、次の目的地の地形などが判ったところで、この2人は必ず、話し合いをしていたのだ。そしてその途中で珈琲をとりにたったセレックが窓の外の雨音に気がつき、今の言葉をいった。
「最近おかしいよなあ、こんなに降り出してさ。お陰で戦闘の策が見当つかない」
「そうだよねぇ…よし、これでどうかなセレック」
ラムザの差し出した、作戦内容等のかかれた羊皮紙を受け取り、セレックはひととおり目を通した。
「ん、いいんじゃないか?これでいこう。じゃあこれはオレが預かっておくな」
「…・セレック」
「どうした?」
気がつくとラムザは、セレックの方をじっ、とまっすぐに見つめていた。その視線があまりにもいつもと違うので、セレックは戸惑った。
「セレック…君は…」
アグリアスさんが好きなの?
そう聞こうとしたが、言葉はのどの奥で引っかかり、口に出てくることはなかった。
自分から問おうとしたのに、答えの聞くのが怖かったのかもしれない。
「…何でもない。ごめんセレック。僕もう眠るよ」
いきなり態度を変えたラムザを不思議そうに、しかし何を問おうとしたかは判っている、といった複雑な表情で見てから、セレックは部屋の扉を開けざまに言った。
「…オレ、負けないぜ」
ぱたん、と扉を閉める音を聞き届けてから、ラムザはその身をベッドに投げだした。
「僕だって、負けたくないさ…」
それから数週間が過ぎ、三人の雰囲気はがらりと変わってしまっていた。
アグリアスは、以前とは比べ者にならないほど毅然とした態度ではいなくなり、どこかぼんやりとして物思いにふけっているようだった。
セレックはあまり性格の面では変わっていなかったが、前はよく一緒にいたラムザとは余り顔を合わせようとはしない。
そしてラムザは、普通に振る舞ってはいるが、その表情にはなにか、陰ったものがあった。
三人の間に何があったかは仲間達の知っている、または思いつく所であったが、やはりだれ1人として、口に出しはしなかった。
そんなある日…・。
「アグリアス、起きているか?」
夜が少し深まってきた時刻、セレックは何を思ったか、アグリアスの部屋の扉を叩いた。
ほどなく、きしむ音を立てて扉が開き、まだ普段の服のままでいたアグリアスが姿を見せる。
「セレック…どうしたんだこんな時間に…」
「…ちょっと散歩に行かないかとおもってさ」
2人がやってきたのは近くにある砂浜だった。
真っ暗な空には月や星が大きく瞬いている。そう。今夜は久しぶりの晴れた夜なのだ。
「気持ちいい……久しぶりの晴れた夜ね」
海に突き出た岩場に腰を下ろし、アグリアスはその身に海風を感じて呟いた。
波の音と風の音が、身体だけでなく耳にも心地よかった。
今は束ねていない、長い金の髪を風に揺らしながら目を閉じているアグリアスの姿を見て、セレックはふと、愛しさの衝動にかられ、丁度立ち上がったアグリアスの身体をぎゅっ、と抱きしめた。
「…セレック」
腕のなかの彼女は、普段の強さからはとうてい考えられない、これ以上強く抱きしめたらつぶれてしまいそうなくらい細く、抱いているという感覚のないほど儚い存在のように感じられた。
アグリアスは、自分が今どんな立場にいるかを、把握しかねていた。
無論、今まで男に言い寄られたことはある。こうして、抱きしめられたことも幾度かあった。
だがそれらのすべてを、彼女は持ち前の性格と意思で、突き放してきたのだ。
しかし、今は彼の腕をぬけることさえ出来なかった。
ふっ、と身体の力が抜けた。
アグリアスは自分が気づくその前に、セレックの胸に額を付けて身体を預けていた。
・・・・・私、何をしているんだろう。
その光景を、ラムザは自分の部屋の窓からまっすぐに見つめていた。
あまりにも衝撃が強すぎて、目をそらそうとしたが、それは出来なかった。
目を離したら、2人でどこかに消えてしまいそうだったから…。
しかし、正視するにはあまりにも耐え難かったのも事実だ。
セレックが抱きしめたのは良い。彼にだってその資格はあるのだから。
だけど、アグリアスがその身体を預けて、顔を埋めてしまったのはとうてい受け入れられるはずもない光景だったのだ。
このとき初めてラムザは、はっきりと、自分の思いを確認すると同時に、今見た光景が夢であって欲しいと願った。
ラムザは今まで、負けるのがいやとか、自分は必ず勝つなどという「独占欲」は持ち合わせていなかった。彼女を自分のものにしていたいという気持ちさえも。
しかしこのとき初めて、手放したくはない、自分と一緒にいて欲しいという気持ちが、彼の心の中に芽生えていた。
海の少し湿った風を身体に感じながら、どれくらい、2人は抱き合っていたのだろう。いつしかまた、空には雲がかかり始めているようだった。風が、冷たい。
辺りの空気の変化に気づき、2人は身体を離した。
アグリアスは、黙ってうつむいたままだった。
この場に誰か、他の仲間がいれば、彼女のその様子に、一瞬目を疑うかもしれない。
しかし、セレックは気づいていた。
これが、彼女の本当の姿なのだ、と。
「・・・一緒にウォージリスに行かないか?」
唐突に切り出したセレックの言葉に、アグリアスは意をつかれたように顔を上げる。その顔には、困惑の表情がありありと浮かんでいた。
「・・・どういう、意味・・・?」
「こんな血なまぐさい戦いなんかやめてさ、一緒に行こうぜ。ウォージリスはオレの故郷なんだ・・・。」
厚くなってきた雲の月光に映える白い頬を両手で包んで自分を向かせてから。セレックは言った。
「君はこんなに綺麗だ・・・戦いに身を置くにはふさわしくない。オレと一緒に・・・普通の生活、してみないか?」
その言葉が何を意味するのか、すぐに判った。
答えを聞かないまま、セレックは1人でその場を去ってしまった。
何を言えないままに1人取り残されたアグリアスの耳に、涼やかな波の音と、セレックの言った言葉が反芻して聞こえてくる。
綺麗だ。
その言葉を抱くように、自分で自分を抱きしめて瞳を閉じた彼女の瞼の裏に写ったのは、セレックではなく、ラムザの姿だった。
まだまだつづくぞおおおおっ!!後二回くらい!!