引き分けその後…(8)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 21 日 02:19:08:

 前回までのあらすじ:再開したロケット計画からハズされ、ちょっと面白くないシド艇長。しかも、新しい計画の責任者であるバトルブリッジ父子は、何かわけありげ。それでも息子のほうとは和解したシドであるが、その帰り道、父親のほうの手の者に誘拐されてしまった。さあ、シドの運命や如何に・・・。
 教訓:ああ疲れた。オフ会帰りでこんなこと書いてるあたしって一体・・・(^0^;)。




 神羅本社ビルの地下、兵士たちのトレーニングルーム・・・。
「はぁぁぁぁぁ!」
 気合一閃、カラテ着姿のイリーナが、同じくカラテ着姿のルードの持っているカワラを蹴りで叩き割った。
「きえぇぇぇぇ!」
 続いて、脇に並べられたビール瓶を、拳で、蹴りで、次々ぶっこわして行く。
 そばでレノが腕組みしながら眺めていた。
 すべての瓶を粉みじんにしてしまうと、イリーナは呼吸を整えながら、深々と先輩たちにおじぎした。
「・・・ありがとうございましたっ!」
「・・・ウデを上げたな、イリーナ」
 ルードが言い、レノも、気がなさそうにだが拍手した。
「・・・先輩たちは、やんないんですか」
 イリーナはタオルで汗を拭いた。
「あとでな。ここんとこ、つまんない仕事ばっかで、ちと身体がなまってるかもしれんからな、と・・・」
「そんなこと言って、さぼってるんじゃないですか〜」
「うるさいぞ、と。お前はいっつもひとこと多いんだぞ、と」
 イリーナはふくれた。いつものことなのだが・・・。
「リーダー、今日はまだ出勤してないみたいだな・・・」
 ルードは、やはりヴィンセントが気になるようであった。レノは肩をすくめた。
「どうせまた、飛空艇のおとっつぁんに何かあったんだろ・・・と」
「・・・あの二人、まじでラブラブですもんね・・・」
 イリーナはちょっとくやしそうだった。彼女もほんとはヴィンセントが好き・・・というか、あこがれの人なのである。
「ラブラブ・・・と言うのとも違うと思う」
 ルードのような巨漢から「らぶらぶ」なんて言葉・・・。はっきり言って聞きたくない二人であった。
「どっちかと言うと、リーダー・・・あの親父に振り回されてるような・・・」
「うん、それはあるな、と。おとっつぁんは自分勝手なヤツだし、あの人ははっきり言ってストーカー体質だからな、と・・・」
「多分、惚れたら命がけで・・・」
 ルードはせつないため息をついた。
 それを言われると、レノも何となく呼吸がやるせなくなってしまうのである。・・・いかん、こんなことでは。男女受攻何でもオーケー、ただし主導権は自分が握る、というのが自分の表看板だったはず・・・。
「あ〜あ、もう疲れたぞ、と・・・ルード、シャワー浴びてオフィスに戻ろう」
「・・・あー、そんなこと言って、シャワー室でヘンなことする気でしょ、先輩たち・・・」


「副部長」
 朝、重役時間で出勤してきたバトルブリッジに、秘書が告げた。
「タークスのヴァレンタイン主任がお見えになっております」
「タークスの・・・ヴァ、ヴァレンタイン?!」
 なんで、と心臓がドキンとした。20年以上前に、ひそかに胸を焦がした美しい青年の面影が、一瞬にして、あざやかに胸に甦ってきた。
「いかがなさいます、お会いになりますか?それとも・・・」
「会おう」
 数瞬ためらってから、バトルブリッジは答えた。
 すぐに、ヴィンセントの長身が入ってきた。バトルブリッジは目をみはった。
 ・・・何と言うこと・・・。あれから20年以上もたつのだ。なのに、あの時、若いバトルブリッジの胸をやるせなくしめつけたきゃしゃな肢体や、白いぬけるような肌・・・少しも変わっていないではないか。
 いや、何となく印象は変わっている。むかしは短かった髪は、今は膝に届くほど長く、後ろでリボンで結ばれている。あの時夜のように暗かった瞳は、今はガーネットのような赤い輝きを放っているし・・・、
 それに、見るからに暗くものうげだった表情は、今は失われて、無表情ながらもしっかりとした意志や感情を感じさせる、一人前の男性のそれになっている。愛する者、守るべきものを得て、それを張り合いに日々を生きようとしているひとりの男の姿であった。
「ヴァレンタイン・・・ほんとにきみか?」
 バトルブリッジは泳ぐように立ち上がった。
 ヴィンセントは、何となし悲しげに、かつての同期を見つめた。
 ヴィンセントが見たのは、一見美しく老いた男であった。理性的でおとなしく、堅実な人生を築いてきた男である。
 だが、超人的な感覚をもつヴィンセントには、彼の、一見おもてに出ない疲れと言うか、人生の澱のようなものが見える。それは長年の間に少しずつたまって、良質のワインを腐敗させてしまったものであった。
「・・・そうだ、私だ。よく覚えていたな」
「忘れるものか・・・」
 きみは僕にとって特別なひとだった、と言いたいのをぐっとこらえて、バトルブリッジは、
「突然行方不明になったりするから・・・。一体どうしたのかと・・・ずっと心配していたんだ」
「そうか・・・それは、ありがたいな・・・」
 バトルブリッジは目を閉じたかった。ずっと聞いていたい。無口だったヴィンセントだが、その声もようく覚えている。むかしのままの、低いがなめらかな声だ。
「・・・わたしはおかげさまで元気だ。この通り、なりゆきでだが、タークスにも復帰した・・・」
「・・・」
「・・・今日ここに来たのは他でもない」
 ヴィンセントは、ガーネットの瞳にちからをこめた。
「シドを・・・わたしのシドを、返してもらいたい」
「・・・何の話だ?」
「とぼけるな」
 ヴィンセントは、片手を上げた。ガントレットにおおわれたほうの手である。
「貴様はゆうべ、シドを誘拐させた。ネタは上がっているんだ」
 いつのまにか「貴様」になっている。あの優美な口元からそんな乱暴な言葉をきく日が来ようとは・・・。平静を装いながら、バトルブリッジの顔が青ざめた。
「・・・」
「きさまと言い、息子と言い・・・これ以上シドに何をするつもりだ」
「私は何も・・・」
「バトルブリッジ」
 いいざま、ヴィンセントは、鋭くとがったガントレットを、ガシン!とデスクに突き立てた。
「ひっ・・・!」
「・・・貴様は、いや、きみは私の同期だ。出来ればきみをこの手で殺すようなことだけは、させないでほしい」
「な、何のことだかさっぱりわからんな。シド・・・ハイウィンド大佐が行方不明だって?それは一大事だが、どうしてそれが私の仕業だなどと」
「・・・」
 炎のように燃えていたヴィンセントの目が、哀しみと苛立ちに、ふっと曇った。
「そうか・・・あくまでしらを切るのだな」
「誤解だろう」
 バトルブリッジは言い切った。
 ヴィンセントは、かぶりを振ってくるりときびすを返した。
「邪魔をしたな」
「・・・」
「もう二度と会うことはないだろう」
「・・・」
「次に会うときは・・・私の手で、あんたを殺す時だ」
 ヴィンセントの捨てぜりふは、静かだが、まさに人を殺すような迫力にみちていた。
 バトルブリッジは・・・崩れるように椅子に座り込んだ。
 

 夜、ヴィンセントは、多分駄目だろうと思いながらも、シドの部屋の窓の下で、明かりがつくのをずっと待っていた。
 だが・・・。
 夜更けになってもシドは帰る様子がなかった。ヴィンセントはため息をつきながら、自分の部屋へ戻ることにした。
 明日になっても戻らなかったら、今度は、バトルブリッジの息子に接触してみよう・・・。
 父親はすっかり汚れてしまったが、息子はまだ望みがあるような気がした。20年前の父親に、シドのような熱さとロマンチストさを合わせたような・・・そういう青年なのだ。
「・・・シド!」
 ヴィンセントは目を疑った。
 自分の部屋の前に、シドが・・・傷だらけでぼろぼろになりながらも、シドが立っていたのだ。
「シド、無事だったのか!」
 喜びと安堵に胸を熱くしながら駆け寄ると、シドは、そこで緊張の糸が切れたらしく、崩れるように倒れた・・・。




 と言うことで・・・すいませんめしこさん。まだ続いてしまいます。(あ・・・あきれてる?)
 ほんとに終わるのだろうか。
 ラストシーンまでの道のりは・・・たぶん、も少しですが。
 こんなのでも、読んでくだすった貴女に感謝のチュッ☆


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