三角関係ラム×アグリ(1)


投稿者 浅木かいと 日時 1997 年 9 月 20 日 20:13:36:

あぐりさん、その節は有り難うございました。
というわけで、第一章始まり。


「また天気悪いのかぁ・・・・・・これで何日目だ?」
 何日も何日も続く悪天候に、流石に嫌気がさしてきたらしくラムザは1人、呟いた。
 元来、イヴァリースという大陸は、天気のサイクルが一定でそれが乱れることなどめったにない。今は丁度、乾季に当たるはずだが5日ほど前から霧雨が降り続け、時には豪雨になり、風が強くてとてもじゃないが外を歩けるような状態ではない。日光が差さないため、雨のなかの戦闘で汚れてしまった服がなかなか乾かず、洗濯担当の女性陣もかなりまいっているようだ。第一、この雨ではぬかるみに足を取られて転んでしまう。そのため仕方なく宿のなかでじっとしているわけだが、それがどうにも落ち着かない。気分がジメジメしてくるのがとてつもなく不快だった。それはラムザだけでなく、他の仲間とて同じ事だろう。
 天候の他にも湿った空気になる理由はある。
 この異常な天候になる前に、ラムザ達はベスラ要塞で戦いをした。
 その時に、1人の仲間が命を落としたのだ。
 ラムザとは年が同じで、2人は仲が良かった。その彼が死んだのだ。ラムザの気分の湿りも、天気の所為だけではないだろう。
 その、命を落とした彼の代わりに、と、味方に付いたオルランドゥ伯が、1人のナイトを呼んでくれるといっていたのをラムザは思い起こした。
「あ、そういえば今日来るんだっけ・・・・・・?」
 ふと、その事を思い出し、ラムザは向かいで銃の手入れをしている・・・・・・彼もよほどすることがないのだろう・・・・・・ムスタディオに問いかけた。
 ムスタディオは銃から目を離さぬまま、答えを返した。
「ああ、そうだよ。もーすぐ来るんじゃねーの?もう夕方だしさ」
 彼のいうとおり、気がついたらもう夕方だった。一日中厚い雲に覆われているから、昼間だの夕方だのといわれても実感はない。ただ時計の針を見ることしか、時間を感じる方法が今はないのである。第一、湿った暗い空など見たくもなかった。
 銃の手入れが終わったらしく、ムスタディオが面を上げた。
「伯に聞いたけど、そいつかなり腕が立つらしいぜ?将来アークナイトは確実だろうってくらいの、さ。でも、伯やアグリアスさんがいるからなぁ・・・・・・。どうだろ」
「でも正直言って今は人手不足だよ。来る者拒まず、ってね」
 何という現実的な話だろう、と2人は口にこそ出さないが心の中で思っていた。
 ラムザのいうことは真実ではあるが。
 しかし、彼らの年齢であれば、もう少し夢だの恋だの、と言った夢ある話をしたいものである。もっとも、ラムザには想いを寄せる女性はいるのではあるが。
 まあ、知っていても仲間達は口に出したりはしないし、ラムザ自身、余り自覚してはいないのだが・・・・・・。
 そういえば、とラムザは思い出す。その彼女は今、仲間の1人と一緒に街に買い出しに出かけている。今は天気も小康状態だ。といっても雨は降っているが・・・・・・。
 無事に帰ってきてくれればいいけど、とラムザは思う。
 無事も何も、今は大した天気ではないし、そう遠くへいっているわけでもないが、やはりそこがラムザらしいというべきか・・・・・・。
 と、そこに、扉をノックする音と共に、仲間の1人であるステラの声が聞こえてきた。
「ラムザ、伯が呼んだ騎士さんがいらっしゃったわよっ」
 その言葉に、ラムザとムスタディオは椅子から立ち上がり、
「さぁて、行くかラムザ」
「そーだね。・・・・・・どんな人なのかなぁ・・・・」
「会ってみりゃわかるって、な」
 そんな他愛もない会話をしつつ、呼びにきたステラの後を、2人はついていった。

 宿の一階の、酒場兼食堂の隅のテーブルで、彼はオルランドゥと話をしていた。
 年齢は22、3歳といったところか。短く切った金色の髪に、紫水晶の切れ長な瞳。
 身につけている物はごくごく普通の男性用ライト・メイルと紋章のはいった白いマントといった、普通のナイトの装備をしていたが、どことなく、普通とは違う雰囲気をあたりに漂わせていた。
 剣を扱った者なら判る、剣気・・・・・・とでもいうのか。かなりの技量の持ち主であることは、戦いになれたラムザにはすぐに判った。
 階段を下りてきたラムザ達の姿を認めると、その彼は立ち上がり、自分から彼らに近づいていった。
「君がラムザ君・・・・・・かい?」
 目の前の青年・・・・・・無論、ラムザのことだ・・・・・・に片方の手を差しだし、彼はにこやかに笑った。
「オレはセレック。近衛騎士団の騎士だ。オルランドゥ伯の命で君たちに力を貸すことになり来た。よろしくな」
「僕はラムザ。こちらこそ、よろしく。」
 差し出された手を握り、ラムザも笑みを浮かべた。
 彼らが自己紹介をしあっている最中、宿の入り口の扉が開いて、2人の女が入ってきた。1人は時魔導師のレベッカ、そしてもう1人は、ラムザが思いを寄せるその人、騎士アグリアスだった。雨足は今は途絶えているようで、2人は全く濡れてはいなかった。
「お帰りなさい2人とも」
 ラムザがそちらに近づいて、持っていた荷物を受け取る。女の腕で持つには少々重たそうな荷物だったからだ。・・・・・・まあ、ラムザもそう力がある方ではないが。
 とりあえずそれを、空いていた近くのテーブルに置くと、ラムザはセレックを紹介しようと、2人を彼の元へいざなった。
 セレックの姿を目前にして、アグリアスの瞳に驚きの色がうかんだ。彼女も騎士だ。セレックの持つ剣気に驚いたのだろう。と、いってもおそらく、アグリアスの方が実力は上なのだろう。彼女は、ホーリーナイトなのだから。
「そちらは?」
 セレックがアグリアスに気づき、ラムザに聞いた。ラムザはアグリアスを手招きで呼び寄せる。2人の元へ寄ってきたアグリアスは、本の少し微笑みを浮かべて、
「貴方が伯の呼んだ騎士か。私はアグリアス。ホーリーナイトだ。よろしく」
「ホーリーナイト!?」
 セレックは驚きの声を上げる。
 無理もないだろう。ホーリーナイトといえば騎士としてほとんど最高位に値する地位なのだから。
 教会から神の洗礼を受けた聖なる騎士。信仰心と驚異的な剣の腕をもってして初めて受けることの出来る尊い地位。男でもなるのは難しいとされ、目指す夢となっているその騎士が目の前にいて、しかも、目の覚めるような美しさを備えた女性なのだから。
 セレックはしばらく放心状態でアグリアスに見とれていた。
 体を動かす度に柔らかく揺れる金色の髪、強い意思と、女性らしいたおやかな光を備えた美しい蒼の瞳。化粧っ気はないが、それでも十分なほどの肌の白さだった。
 なんて綺麗な人なんだ・・・・・・と、セレックは思った。
 そこにいるだけで周りが光に包まれるような、そんな神々しさ・・・・・・とでもいうのか。常人とは違う・・・・・・おそらく、「騎士」と「女性」という二つの要素が重なり合って初めて生み出される、高潔で気高い美しさだ。
 その姿に、一瞬にしてセレックは惹きつけられる。
「セレック?どうした?」
 ラムザの言葉で、セレックは我に返り、アグリアスに自己紹介をした。
「・・・・・・あ、すまない。オレはセレックだ。いや、驚いたよ。貴女がホーリーナイトだなんてさ。なんせ、オレみたいな騎士のあこがれだからな」
「君もそのうちなれるだろう。見たところ、かなり腕が立ちそうだ」
 アグリアスのその言葉に、セレックは照れた笑いを浮かべた。
 
 雨はやまない。待っていても仕方がないと、次の日からラムザ達はまた、旅の道を進み始めた。
 
 「セレック!後ろだ!」
 アグリアスの発した警告に、素早く身を翻したセレックは、後ろから討とうとしていた敵の騎士の腹部を、振り向きざまに横に切り裂いた。断末魔の悲鳴を上げて倒れた騎士の血が付いた剣を布で拭き取りながら、セレックはアグリアスを振り返り、笑みを浮かべた。
 戦闘でのセレックの活躍ぶりはすばらしかった。
 剣の部類では男が持つにも少々重いとされる騎士剣を、まるで羽でも扱っているのか、と思うほどに軽々と使いこなし、なおかつ素早い動きで敵陣に入り打ちのめしていく。聖剣技をのぞいた剣の腕前では、おそらくアグリアスと同等であろう。そして魔法や戦術等のあらゆる面でもかなりの才能を持っていて、仲間入りしてからそう時もたたないうちに、セレックは戦闘の主戦力になっていった。
 「ありがとう、助かったよ」
 敵を全て討ち戦いが終わった後、セレックは剣の手入れをしていたアグリアスの所へ行き、先ほどの警告の礼を言った。彼の顔を見上げ、アグリアスは微笑みを浮かべつつ当たり前のことだ、と言った。
 「・・・そのままだと風邪ひくぜ、ほら・・・」
 雨で濡れたアグリアスの頭に水を吸収する質の布を掛けてやり、セレックは笑みを浮かべてその場を立ち去った。・・・が、少し離れたところでもう一度、なんとはなしに彼女の方を振り返っていた。
 見ると、アグリアスはラムザの方に走り寄っているところだった。
 ラムザの側により、先ほど自分に向けた微笑みとはまた違う表情をして笑いながら何かを話している。2人はそのままセレックが見つめている事には気づかず、背中を向けて街の方へと肩を並べて去っていった。
 ラムザがアグリアスに想いを抱いていることは、セレックも知っていた。出会ってから余り日は立っていないが、元々思ったことが顔や行動に出てしまう素直な性格のラムザを見ていれば、そのくらいはすぐに判る。
 そして、それと同じくアグリアスの方もなんとなく、そんな気持ちを持っているように見える。彼女の方はラムザと違い、あまり顔に出ない方なのだろうが、他の誰より・・・・・・ラムザをのぞくが・・・・・・アグリアスのことを見つめているセレックには、それが判った。
 2人の去った方向をぼんやりと眺めてから、セレックは一つ大きなため息をついて自分も街の方へと歩き出した。
 すでに雨はやんでおり、雫に濡れた草原が太陽の光を受けて、まぶしいくらいに、輝いていた。


大した進展しとらんのう・・・。
続きはホームページでの公開になるかも・・・?


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