『故郷』


投稿者 血吸ねこ 日時 1997 年 9 月 19 日 11:30:07:

え〜、今回は、シドとシエラのお話です・・・


 めでたくクラウドも復活し、ジュノンから持ち出される寸前のヒュージマテリアも回収した。そし
て今、ロケットに搭載されたヒュージマテリアすらも手にし、彼らはロケット村に帰ってきた。

「おい、お茶」
 久しぶりに戻った家で、シドはなんとなく落ち着かなかった。他の仲間は、すでに宿に引き上げて
いる。
「・・・はい、艇長」
 いそいそとお茶を差し出し、側に寄って待つ。
 クラウド達と旅立つまで、繰り返してきた毎日。すでに、若いとはいえない、化粧気一つない顔。
だが、その笑顔はともすれば落ち込みそうになるシドを支えてきた。
「・・・もう、寝ろよ・・・」
 これまで、ねぎらいらしき言葉をかけたこともない。
「え?・・・でも・・・」
「いいから、寝ろよ。・・・疲れただろ?」
 ぶっきらぼうに言い放ち、照れくさくなったのか、シエラに背を向ける。
「・・・はい、艇長。」
 それに気づいたのか、くすりと笑って、シエラは自分の寝室へと引っ込んだ。

(ちっ、どうも、なあ・・・)
 あんなに気にかかっていたのに、目の前にいるとどうしても素直になれない。これまでも、何度か
直そうとはしたのだが、どうしてもダメだった。今度こそは・・・と思っていたのだが。
(・・・なんでだろーな・・・)
 一人、煙草をくゆらせ、グラスを傾ける。こんな時、目の前にヴィンセントがいれば、たちどころ
に分析してくれるのだろうが、彼と飲みたい気分でもなかった。
 気が付くと、すでに灰皿は一杯になっていた。吸いがらを捨て、新たに酒をついで座ったとき。
「・・・まだ、起きてらしたんですか?」
「・・・おめぇこそ、なんで・・・」
 寝間着の上にガウンを羽織り、シエラはそっと寝室からでてきた。
「だって・・・艇長がまだ起きてるんですもの。気になって寝られません。」
「けっ、ガキじゃねぇんだからほっといてくれよ」
 こんなことをいいたいのではなかった。なぜ素直に、シエラの気遣いを喜べないのか。
「・・・眠れねぇのか?」
「え、ええ・・・」
「・・・飲むか?」
「・・・じゃあ、少しだけ。」
 シエラがグラスを取りにいこうとするのを、「おめぇは座ってろ」と乱暴に椅子に座らせる。
「ほらよ」
 シドが目の前に、薄い水割りを置き、隣に座る。
 シエラは、少し戸惑っていた。ほんの少し、離れていただけなのに、シドが変わったような気がす
る。今まで、シドは自分に気を遣うことはなかったはずだ。だが、今のシドからはぶっきらぼうでは
あるが、優しさやいたわりが感じられる。嬉しかったが、その変化をもたらしたのは、自分ではない。
「艇長・・・」
「・・・酒飲んでるときまで『艇長』なんて呼ぶんじゃねぇ」
「・・・シド。・・・ずいぶん、変わった気がします。」
 シドは驚いてシエラを見る。どことなく、あきらめに似た表情を浮かべ、話し続ける。
「ずいぶんと・・・優しくなったみたいで・・・。」
「何言ってやがる」
「・・・本当ですもの。それは・・・ヴィンセントさんのせいかしら?」
 シドは飛び上がりそうになった。
「な、何を・・・」
「だって、見ていればわかります。・・・2人の間の空気、というかが。」
 シエラはグラスに口を付けた。
「・・・昔、空軍にいたときのお友達にも通じるような、でも、もっと強い、何かがあるのが。」
 女の勘、とでも言うのか、ズバリと指摘されてシドは真っ赤になった。
「・・・やっぱり、シドは動いているときが一番、いきいきしてますし。」
 そういって、くすりと笑う。艇長が−−−シドが赤くなるなんて、と思う。
「・・・まぁな・・・奴とは、特に、だろうな・・・」
 ぽつりと漏らす。シエラを相手に酒を飲むのは初めてではないが、シエラがこれだけ話すのは初め
てだった。
「ヴィンセントさんは・・・シドと一緒にいるのが自然だと思えるような・・・いえ、シドと一緒に
 いるべきなんだっていう感じがして・・・」
 ちょっと悲しそうな瞳。小さな溜息が漏れるのが聞こえる。
「・・・でも・・・お2人を見ていると、なんとなく元気がでて来るんですよ。」
 そうして、笑みを浮かべる。シドはいたたまれない気持ちで一杯になる。
「シエラ・・・」
 片手を伸ばし、その髪に触れる。本当は、抱きしめてやりたい。だが、今のシドにはそれが精一杯
だった。それでも、シエラの顔が喜びにほころぶ。
「・・・全部終わったらよ・・・ゆっくり話そうじゃねーか・・・」
 少量のアルコールで酔っぱらい、足許のあやしいシエラをベッドに送り届ける。
「・・・おやすみ」
 そして、軽く額に口づける。今までのシドならば、しなかったようなことばかりだ。
 シエラは、今の喜びを抱きしめるように眠りに落ちた。

 久方ぶりにロケット村で過ごし、心の重荷が一つ、はずれたかのように足どり軽く出かけていくシ
ドを見送り、掃除を始める。シエラの唇には、薄くルージュがひいてあった。


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