陰謀と真実のはざまで…(5)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 15 日 18:39:26:

 タークス本部に朝が来た。
 いつものように朝一番に出勤したヴィンセントは・・・一歩部屋に入るなり、かすかに顔をしかめた。
(またレノとルードが、ここで悪さしていたな)
 他人には分からないかもしれないが、人間離れした感覚を持つヴィンセントには分かってしまうのである。
「・・・あ、ヴィンセントさん。おはようございま〜す」
 イリーナが続いて登場した。
「今、お茶いれますから・・・あれ、どうかなさいました?」
「いや・・・何でもない」
 イリーナはうれしげにお茶を入れ、いそいそとヴィンセントの前に出した。
 ヴィンセントはそれをすすって、
「・・・ありがとうイリーナ。美味しいよ・・・」
「きゃ☆嬉しい!」
「レノとルードが来たら、ここへ呼んでくれ。頼みたい仕事があるから・・・」
「はあい、わかりました!」
 使えないことではタークス一かと思っていたが、ユフィに比べればよっぽど役に立つイリーナであった。
 最近のシドを見ていると、それが本当によくわかる・・・。仕事のことではお互い口出しはしない二人であったが、ヴィンセントも、実のところはシドに同情してしまう・
 まあ、ユフィはそこが可愛いので、もし有能でキャリアなユフィがいたとしたら、そんなのは全然ユフィじゃないぞ、と思うヴィンセントである。
 やがて、遅刻ぎりぎり時間に、レノとルードが入ってきた。
「・・・お早うございます、と」
「来たか」
 新聞を読んでいたヴィンセントは、新聞を閉じて、二人に向き直った。
「二人に頼みたい調査がある」
「・・・?」
「新しい宇宙開発副部長・・・バトルブリッジという男を、調べてもらいたい・・・」


 その夜・・・。
 仕事(と言ってもほとんどデスクワークだが)を終え、疲れきってオフィスを出たシドは、背後から呼び止められた。
「シド艇長」
「・・・あぁ、ジョン・・・バトルブリッジ中尉」
「・・・ちょっと、よろしいですか」
「・・・」
 シドはどうしようかと考えた。昨日の中尉の酔態を思うと、ちょっとつきあう気にはなれない。
 だが今日のジョンは、何となく昨日とは違うような気がした。昨日はただの単純な若者・・・という感じがしたが、今日は何だか違う。
「・・・どこかに飲みに・・・行くのか」
 ジョンはかぶりを振った。
「いえ・・・。今日は真面目な話なんです。アルコール抜きで行きましょう」
「そうか・・・」
 シドは何となく胸騒ぎがした。何かが警告を告げていた・・・。
 が、新しいロケット計画の責任者であるジョンに対する興味も抑えられないシドだった。まるで虫がみずから炎に惹かれ、身を焼き尽くすその炎に巻かれるように・・・。


 シドの窓の下にじっと立っていたヴィンセントは、いつまでたってもシドが帰宅する様子がないのに苛立っていた。
「シド・・・」
 単なる嫉妬ではない。何となく、それ以上の危険がシドを・・・そして自分を待ち構えて飲み込もうとしているような気がした。


「ゆうべは大変失礼しました」
 “静かなところで話そう”と言って、ジョンがシドを連れ込んだ(・・・イヤな表現だなあ)のは、人気のなくなった暗いオフィスである。
「コーヒーでも入れましょう・・・ここはオフィスですから、残念ながら酒はないんです」
「俺は別に、酒はいらねぇよ」
 居心地悪い想いをしながらシドは、勧められた椅子に腰を下ろした。
 ジョンはずいぶん長い時間をかけて、手ずからコーヒーを入れ、運んできた。シドばべつにコーヒーなど好きではないのだが、さすがに口にしないわけには行かなかった。
「それで・・・話ってなぁ、何なんだい」
 ジョンは答えず、ただふところから小型のテレコを取り出した。
「・・・?」
 すぐに、シドの頬に血の気が上がってきた。スピーカーから流れ出したのは、昨夜の・・・シドとヴィンセントのあられもない睦言だったのだ。
 そしてまぎれもなく響く、みだらななまなましい音・・・。快楽にこらえきれず、声を殺し切れない自分・・・。
 ジョンは、すぐにスイッチを切った。
「ゆうべ、録音させて頂きました」
「て・・・てめえ!」
「すみません。でも、僕にはこうするしかなかった」
「だ・・・誰に頼まれた?」
 ジョンはそれには答えず、
「ほんとは、僕があなたを誘惑して、その音を録音する予定でした。まさかタークスのヴァレンタイン主任とこういう関係だとは思わなかったもので・・・」
「・・・」
「ぼくにこれを命じた人間としては、何だってよかったんです。こうすることで僕が・・・宇宙開発部が、軍事部の幹部であるあなたより優位に立つことが目的でしたから」
 シドは吐き捨てるように、
「もう、いい。聞きたくねぇよ・・・耳が汚れらぁ」
「・・・」
「公表したきゃするがいいさ。俺は別に、失うものなんざ何もねぇ」
「・・・」
「もしこれで神羅にいられなくなりゃ、それはそれで好都合ってもんなんだ。もともと来たくて来たトコじゃねぇし」
 言いながらシドは・・・少しは寂しかったし、多分地に落ちるであろう自分の名誉を思いやって暗澹としないでもなかったが・・・。それでも、いま言ったことも本音であった。
 シドは立ち上がった。
「話はそれだけか。なら俺ぁ帰る」
「・・・待って下さい!」
 ジョンも立ち上がった。
「いいんですか、ほんとに?こんなスキャンダルで、あなたの名誉が・・・キャリアも・・・地に落ちるんですよ!」
「落としたきゃ落としてみな」
 シドは、ジョンを鋭い目でにらみつけた。その青い光に、ジョンは撃たれたように立ちすくんだ。
「俺はなあ、寝たくてあいつと寝てるんだよ。それが悪いって言うんならよ、俺は明日にだっていなかへ帰ってやらぁ」
 かなりウソは入っていたが、もう後には引けない。騎虎の勢いというものだ。
 どうせこの発言も録音されているのだろうが、ここまで来たら言い放すしかない。
「てめぇのオシメはてめぇで洗う。それが俺の主義なんでな・・・まぁ残念だったな、中尉。そういう来たねぇやり口で誰かの優位に立ちてぇなら、ヨソを当たってくんな」
「・・・」
「あばよ、中尉。もう二度と会うこともねぇだろうがよ」
 こうタンカを切った時は、シドも完全に、ロケット村へ帰って、シエラと静かに暮らす自分の姿をイメージしていたのであった。
「待ってください!」
 ジョンは、シドの後ろ姿を呼び止めた。
「まだ、何か言うことがあんのかい・・・?!」
 シドは、がくっと膝をついた。
「・・・な、何だ・・・?!」
「身体に力が入らないでしょう」
 ジョンは、手早く自分のネクタイを解きながら、少し悲痛な顔でシドを見下ろした。
「さすがによく効きますね・・・」
「あっ、あのコーヒーに・・・まさか」
 またやられたのか、とシドは暗澹とした。
 ジョンはかがみこみながらささやいた。
「・・・これは陰謀でも何でもありません。僕の気持ちです」
「・・・!」
「ゆうべひと晩、あなたと一緒にいて、つくづく思いました」
「・・・」
「シド・ハイウィンド・・・あなたが欲しい。ぼくのものにしたい・・・と」




 ・・・モテるなあ、シド・・・まあいいけど。
 最近何となくシドをヴィン以外の人間に渡したくなくなってしまった「あ」です・・・。自分でまいたタネとは言え・・・ふっ。
 シドをヴィン以外の人間の腕に抱かせるくらいなら、まだシドヴィンのほうがいいやい!とか思ったりしてね・・・。(←シドヴィン至上の方、ゴメンナサイ)
 こんなのでも、読んでくだすった貴女には感謝の踊り・・・ネイムレスダンス☆


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