陰謀の夜のつづき…(4) |
---|
前回までのあらすじ:再開したロケット計画に、複雑な感情を抑え切れないシド艇長。そんなある日、ロケット計画の新しい責任者ジョン・バトルブリッジが、酔いつぶれてシドのアパートに泊まり込んだ。そして、ちょっとジェラしいヴィンセントとシドの熱い夜をテープに録音してしまう・・・。
教訓:だ か ら 人のいるそばで××しちゃいけません・・・・(T0T)。
「うぅっ・・・ああ・・・」
ヴィンセントの腕の中で、シドは静かに力を失い、くったりと体重を預けた。
ヴィンセントも息を切らせながら、シドを抱きしめた。
「ふう・・・だいぶ大きな声が出てしまったな」
「・・・」
シドは返事をしなかった。屈辱だが、今はその屈辱さえ心地よい。そう仕込まれてしまったシドであった。
「・・・どれ、ちょっと中尉の様子を見てくるか」
まだぐったりしているシドに愛しげに接吻してから、ヴィンセントは衣装を直して立ち上がった。
シドの寝室で、ジョンは相変わらず大の字で眠っていた。
ヴィンセントはその寝顔をじっと見つめた。・・・確かに似ている、その父親の若い頃に。
だが父親のほうは、もっと思慮深いようなイメージがあった。ここにいるのは意志が強そうだが、うぶで純情な感じのする坊ちゃんである。
ヴィンセントが、寝室の扉を閉めると・・・。
ジョンはそっと目を開けた。
「・・・ヴィンセント、オマエ、あいつの親父を知ってるのか?」
シャワーを浴びて戻ってきたシドは、ヴィンセントに尋ねた。
「昔の同僚だ」
「ど・・・」
「同期入社のエンジニアに、バトルブリッジというのがいた。結婚式にも出たと思う」
「・・・」
ミネラルウォーターを飲みながら、シドは言葉をのんだ。
まともに年をとっていれば、ヴィンセントは・・・あいつと同い年だったわけか。
と、言っても今のヴィンセントは、長い黒髪、白いぬけるような肌の完璧な美青年である。どうもピンとこないのが本音であった。
「私もまっとうに行っていれば、あのくらいの子がいても何の不思議はなかったわけだな・・・」
自嘲的に言うヴィンセントは、正直、シドにもつらかった。
シドの同期の連中でも、結婚してとっくに子を作っているのは何人もいる。別にどうだっていいようなものだが、やはり、何となく気がさすと言うか、ひけ目であった。自分のこれまでの生き方を悔いたことはないけれど・・・。
「・・・まあ別にいいやな、人の人生だし」
ヴィンセントを慰めると言うより、自分に言い聞かせてしまうシドであった。
ヴィンセントはまた手を伸ばしてシドを抱きよせた。
「あ!・・・ダメだって、こんなとこじゃ」
「一度も二度もおんなじだ」
「どうせやるなら、気がねなくできるところのほうが・・・」
ヴィンセントの白い頬に笑みが浮かんだ。よくぞここまであの強情なシドを調教したものだ。
自分に抱かれて、身も世もなくもだえるシドが愛しかった。それと同じくらい彼は、強情そうに声をこらえるシドも愛していた。
「ち、ちきしょうめ」
シドはすでに熱く乱れながら、かぶりを振った。
「悪魔!・・・くっうう」
「悪魔はあんたのほうだ」
ヴィンセントは指と舌をひらめかせながら言う。
「私を迷わせ、狂わせる・・・あんたこそ、悪魔だよ」
「・・・はあああ」
ルードは重いため息をついた。盗聴器のスピーカーから、押し殺したような二人の睦言が絶え間なく響いてくる・・・。
「・・・どうした、感じちまったのかな、と」
相棒のレノがからかうような口調で言ったが、こちらも何となく精彩がない。
深夜のタークス本部であった。レノとルードはまたしても、懲りずにシドの部屋を盗聴していたのであった。
先日、どさくさまぎれにシドを二人がかりでいたぶり、ヴィンセントもなしえなかったほどグチャグチャにしてしまい・・・そのことがバレて、ヴィンセントにおしおきを受けたばかりの二人である。それでもやはりすけべな楽しみは諦められない。
「・・・もうよさんか、レノ。これ以上あのおとっつぁんにちょっかいかけてる事がリーダーにバレたら・・・」
「・・・」
レノは何も言わず、ルードの厚い胸板に身をあずけた。
「・・・ほんと言うとオレ、あの“おしおき”が忘れられないんだな、と・・・」
「レ、レノ」
「たまには誰かにメチャクチャにされちまうのも悪くないぞ、と」
「レノ・・・」
こんなしおらしいレノを見たのは初めてだ。いつもいつも、ふてぶてしいくらい自信たっぷりで、多分に純情なところのあるルードを翻弄するレノなのである。
ルードは、身体のシンがかっと熱くなるのを感じた。
「ああ、レノ・・・」
「・・・めちゃくちゃに燃えさせてくれよ、と、ルード・・・」
その気になったこの二人組のセックスがどれだけ恥知らずでグチョグチョなものか・・・それは読者諸姉にご想像願いたい。
傍らのスピーカーからは、相変わらず、そめそめとした睦言とあえぎが流れてくる・・。
ふと、ルードが顔を上げた。
「・・・おかしいな、ヘンな雑音が入る・・・」
「・・・」
「なんか、細工してる奴が近くにいるかもしれん」
「ああルード、そんなことはもう・・・どうでもいいぞ、と・・・」
レノはルードの首ったまに抱きついて引き戻した。
「あああっ・・・あっ、ルードぉ・・・いいぞ、と・・・」
「レノ・・・ああ、可愛いレノ・・・」
あっちもこっちも燃えに燃えた夜が明けて・・・。
「いやあ、たいへん失礼致しました、艇長!」
ジョンは恐縮しながら、やけにすっきりした顔で帰っていった。シドはもう口をきくのもおっくうであったが・・・。
ジョンはそのまま出勤すると言っていたが・・・シドのアパートから出ると、まっすぐ向かったのは、神羅本社ビル、宇宙開発部長室である。
「・・・録って来ましたよ、父さん・・・」
ジョンの声は、別人かと思うほどに沈痛だった。
バトルブリッジも、別人かと思うほどに酷薄な口調で出迎えた。
「・・・うまく艇長を誘惑できたのか、ジョン」
「・・・それは無理でした。でも、かわりに」
ジョンは俯いて、
「・・・もうこんなこと、いやです」
「何だって?」
「あの人は、今時珍しいくらい心のまっすぐな、熱いハートを持った・・・尊敬に値する人です」
「・・・」
「その人を陥れるなんて・・・」
「・・・感傷だな、ジョン」
父親は、息子の迷いを断ち切るように・・・
わざと冷たく言い放した。
「私もオマエくらいの年の頃は、同じように純粋な考えを持っていたよ」
「・・・」
「が・・・この神羅という会社は、純粋なだけでは渡って行けぬところなのだ。お前も知ってるだろう、この20年、父さんと母さんがどんなに目に合って来たか」
「・・・わかってます、父さん」
「私はどうでもいい。が、お前に・・・お前や兄さんたちだけには、私と同じような冷や飯は食ってほしくないんだ」
父親の言葉は、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「それで、どうしたって?」
「・・・ボクは酔いつぶれたふりをして、艇長の部屋へ担ぎ込まれることに成功しました。・・・そしたらそこに、タークスのヴァレンタイン主任がいて」
「ヴァレンタイン・・・ヴァレンタインだって?」
バトルブリッジの顔色が、かすかに変化した。
「ヴィンセント・ヴァレンタインか?」
「はい」
「・・・」
バトルブリッジは視線を外にそらした。
「そうか、あのヴィンセントがか・・・」
わーいわーい、やっとこタークス登場だ。
レノが何だかいじらしくて可愛くなってしまいましたが・・・ま、今回だけです。次回(←まだ書く気らしい)からはまたあの不良レノに戻る・・・と思う。
こんなのでも、読んでくれた貴女には、感謝とよろこびのキッス☆