ダーネィ×ナナキ


投稿者 瀬尾さん 日時 1997 年 9 月 14 日 17:41:08:


「くそっ!なんで壊れないんだよっ!」
全ての物が眠りにつく時刻、静まり返ったビル内、研究室のガラスの檻の中で金色の獣がその身体を繰り返し、檻にぶつけていた。重い音が辺りに響き、獣の身体のあちこちからは赤い血が滲み出している。
「くそぅ・・」
しかし彼の努力とは裏腹に、檻は強固でびくともしない。何度目かに身体を弾かれ、獣は低い唸り声を上げて再び姿勢を低くした。その時、不意に後ろから彼に声がかけられた。

「やめておけ。それはおまえの力では壊せない。」
「誰だ!」
ニオイも気配しなかった・・
彼の檻の中にはいつのまにか一人の青年が立っていた。漆黒の髪と、全ての光りを吸収するような不思議な色の目。それは今まで見た事の無い人間だった。
「いつそこに来た!」
獣は精一杯の虚勢を現すかのように、威嚇するように身構えた。だがそんな様子を気にもせずに、青年は音もたてずに獣に歩み寄ってくる。その人間の身体からは殺気や闘気は感じられず、ただその虹彩の無い目のように不気味な感触が空気を震わせて伝わってくる。その姿に獣は恐怖を覚えた。
「妙なうめきが聞こえると思ったら・・」
「うるさい!」
遂に隅に追いつめられ、獣は吠えた。青年の手が自分に近づいてくる。獣が思わずその目を閉じたとき、青年はぽつりと呟いた。
「こんなところでコスモキャニオンの一族のものと会うとはな・・・・」

青年は、獣の傷ついた体にそっと手を当てると何かを唱えた。手から緑色の光りが現われ、獣の身体の傷を緩やかに埋めていく。その暖かな感触に、獣は身体の強張りを解いた。
「あんた、なにもの・・?」
恐る恐る獣が聞くと、青年は顔を上げた。黒い瞳が案外優しく獣を見つめる。
「私はダークネィションの一族のものだ。今宵はこんななりをしているが、もともとはお前と近い存在。お前に危害を加えるつもりはない。妙に騒がしいから来てみただけだ。」
「ダークネィション・・黒い森に住む人・・」
「そうだ。他に傷はないのか?」
獣の毛を指先で梳きながら、青年は聞いた。獣が気づけば傷はほぼ完治している。
それに安心して獣は青年の元にころりと横になった。
「ねぇ、あんたもサンプルとしてつかまっちゃったのかい?」
「いや。私は私の意志でここにいる。」
「その体は・・どうしたの?」
「私の種族は潜在的に変身能力を持っている。今日は月が出ているからな、それが過剰に反応するのだろう・・」
獣の脇腹の傷を治療しながら青年は言った。緑色の光りがその白い肌に反射して幻想的な効果をもたらしている。それを興味深げに眺めながら、獣はまた口を開いた。
「ふーん・・あんた・・名前は?」
「私の部族のものは名前を持たない。主人は時折、たまだのぽちだのと気まぐれに呼称を変えるが、この頃は大体ダーネィと呼んでいるようだ。お前の名は?」
「・・ナナキ・・」
「理解した。」
「ねぇダーネィ・・俺の一族を見た事あるの?」
「あぁ。あまり交流はなかったようだが、勇敢な部族だと聞いた。だが、何年か前のギ族との戦いでずいぶんその数が減ってしまったとも聞くが。」
「うん・・まぁね・・ところで、さ」
「私達にはものような檻は通用しない。質問が多いな。」
青年は、少年の周りを取り囲む強化ガラスに手を当てると、そのまますっと自分の腕を通した。その常軌を逸した行動に、獣の目が大きく見開かれる。
「すごい・・」
「そうでもない。これが普通だ。」
「ふーん・・いいな・・それ。」
「人のものをうらやましがるのは子供のする事だ。」
「おいら子供じゃない!もう48だ!」
「それは人間ならば、だろう。お前の部族のものは私達と違ってゆっくりと年を取る。まだまだ子供だ。」
「・・子供じゃない・・おいら、子供じゃないっ!」
「・・どうしてそうやってありのままの自分を否定するのだ?子供だからといって何も恥じる事はないだろう?」
青年は獣の背をやさしく撫でた?
手を通して、かすかな体温が伝わってくる。
「でも・・おいらは早く大人になりたい・・」
「生き急がずともよかろうに。」
「そうかな・・」
「そうだ。しかし・・お前は何故こんな所にいる?ここはお前がいる場所ではないはずだが・・」
「・・森で遊んでたら変な奴等が来て・・おいらをつかまえて・・実験サンプルだって・・」
腕に刻まれた刺青を見せる。青年は微かに眉をひそめた。それを見て、獣は今まで青年が表情を浮かべていなかった事に気づいた。
「そうか・・」
「ねぇダーネィ、あなただったらおいらをここから出せる?」
「物理的には可能だ。しかし、残念ながら私はお前を逃がしてはやれない。」
「なんで?!」
「君を出してしまえば周り回って私の主人が困るのでな。」
「そんなに人間が恐いのかっ!?」
「違う。恐怖などでは私は縛れない。私は今の主人が気に入っている。それだけだ。」
「そんなの、理屈じゃないっ!」
獣は一瞬にして立ち上がり、再び青年に向かって牙をむいた。しかし怒りは青年に向けられる事無く、金色の体を捩らせて悶え始めた。
「あう・・あうぅ・・」
「?」
青年の目の前で、金色の獣は低い唸りを漏らしながら徐々に人と化していった。やがて檻の中には獣の姿はなく、代りに赤い髪の一人の少年の姿が現われた。
「ナナキ・・」
「見るな!あ・・あぁあっ!」
「お前の部族にはそのような能力はなかったはずだが・・」
「んなことおいらにだってわかんないよ!ここに来て妙な薬を飲まされて・・それから夜になるとこんな体になって・・」
まだ変化に対応しきれていないのか、少年になった獣は時折うめきながら地面に転がった。痛みを和らげてやろうと近づいた青年の手を邪険に払いのける。
「お願い・・触らないで・・!」
少年の口から悲鳴が漏れる。
「・・これになるとおいら・・力がなくなって・・何もできなくなる・・なのにあいつら・・おいらに・・お願い・・おいら・・帰りたい・・ここは寒い・・」
最後は、悲鳴は鳴咽に代わった。少年は赤い髪を振り乱して泣きつづける。青年は、そっと少年の体を抱きかかえた。
「すまない・・でも、二人なら少しは寒くないだろう?」
「あ・・」
少年の体中を緑色の光りが満たしていく。冷たいガラスの檻の中で、二人はずっと抱き合っていた。
(完)



で・・これが伏線になってダーネィナナキの子供が産まれる、と・・(大嘘)
そういえば・・ダーネィって受けだったはずですが・・まぁいいか、書いちゃったんだし(こら)
ところで・・突発で書いたのに二時間かかったみたいです・・これ・・

[小説リユニオン「改」トップへ]