過去への回帰(その2)

*注:「過去への回帰(その1)は"リーブ×シド"のコーナーへ展示しています。

投稿者 いかそーめん 日時 1997 年 9 月 13 日 04:17:17:

 お待ちかね(?)禁断のプレジデント神羅×20代のシドでございます(笑)
 あ、その前に訂正とお詫び……黙っといて誰かに指摘されんのも恥ずかしいんで自分から白状します。私今までリーブさんのこと「リーヴ」だと思ってました……(笑)
 てなわけで前回の作中に出て来る彼のお名前は、各自心の中で「リーブ」と変換して読むよーに(笑)以上、業務連絡でした。(恥ずかしい奴……(^^;))



 10年前……シド・ハイウインドは、神羅の若きエースパイロットとして、人々の関心を集めていた。
 その類希なる操縦技術と、エンジニアとしての優秀な技術力、そしてなにより、先の大戦で幾多の敵を屠った実力が、22という若さで彼を伝説と呼ばれるまでの存在にしていたのだ。
 だが、彼の飽くことなき情熱は、更に高みを目指した。
 神羅カンパニーが新たに乗り出した、宇宙開発計画。そのロケットに乗り込むパイロットに志願したのだ。
 神羅カンパニーの新事業だけに、パイロットの選出には厳格な審査が行なわれる。シドは正規の軍人ではなく、金で雇われた傭兵だった。伝統と格式を重んじるならば、シドが選ばれる事はまず無いだろう。
 だが、彼には自信があった。子供のころから機械に慣れ親しみ、13の頃からいっぱしの飛行機乗りとして大空を駆けていた彼である。温室育ちの士官共には無い、経験と実践力が彼にはあった。
 何より、社長であるプレジデント神羅は革新的な事業を推し進める事で有名だった。魔晄炉によって維持されている、このミッドガルがその最たる例だろう。
 魔晄をエネルギー化し、活用する技術を実現化させた神羅カンパニーは、その技術でもって世界を席捲し、著しい台頭を果たした。現在も各地に魔晄炉を建設予定であり、その勢力は留まるところを知らない。
「そんな大社長が細けぇ事気にするかよ」……というのがシドの考えだった。事の真偽はともかく、格式や形式にこだわっていては新しいことなど出来ないのは事実だ。プレジデントなら常に役立つ方を選ぶだろう……と、シドは考えていた。
 それは、間違いではなかった。
 そう――プレジデント神羅は、役立つ物は必ず手中にし、約立たぬ物は容赦なく切り捨てた。
 そして役立つ物は、最大限に利用し尽くす男だったのである。


「……どう言うことですかい、こいつは」
 シドの低く押し殺した声を受け、高級なスーツに身を包んだ壮年の男は、深く椅子に腰掛けたまま、ゆっくりと顔を上げた。
「……とは、どういうことかね?」
「なんのくだらねぇ冗談かって聞いてるんですよ」
 シドは押さえ切れぬ怒りを込めた声で低く唸った。彼は今、神羅ビルの最上階にある、社長室に呼ばれていた。宇宙開発計画のパイロット選抜についてという名目でである。
 だが、今彼の目の前に置かれているのは普段では滅多にお目にかかれないような高級酒の満たされたグラスであり、そして奥にある開け放たれた扉からは――およそ社長室には似つかわしくない、キングサイズのベッドが置かれた寝室が、覗いていた。
 プレジデント神羅は、幾つかの指輪がはめられたその太く短い指を組み合わせ、シドの顔を見返した。
「言わなければ解らない……という訳ではあるまい」
 何事でもないように言い放たれたその言葉に、シドの顔は見る見る紅潮していった。吐き捨てるように言い放つ。
「はっ、パイロットに選ぶ代わりに一晩お相手しろって訳ですか」
 侮蔑を込めた瞳でプレジデントを睨みつける。辛うじて敬語で取り繕っているものの、既にその態度からはプレジデントをものとも思わぬ不遜な気配が見え隠れしていた。
「不満かね? 君にとっても悪い取り引きではあるまい。君の長年の夢と名声が、手に入るのだから」
 その言葉に、シドの頭にカッと血が上った。
「ふざけんな! んな薄汚ぇ手で俺様の夢を汚すんじゃねぇ!!」
 激しく言い捨て、プレジデントを睨みつける。だが、その炎のような眼差しをどこか楽しむ目つきで眺めながら、プレジデントは静かに言葉を続けた。
「短慮な行動は控えたまえ、シド・ハイウインド。……私に陳腐な台詞を言わせたいのかね」
 怒鳴り散らしたいのを、シドは辛うじて堪えた。宇宙へ行きたいと願う心は、彼の長年の夢だった。だが、だからと言ってこんな方法で手にいれた夢など、意味が無い。
 だが、今ここで全てを蹴りつけ、神羅を後にしたら、二度と宇宙に行けない事は明らかだった。
 シドは僅かに逡巡した。己の夢。己のプライド。どちらかを秤に掛ける事など出来ない。
 だが……それでも――
「はっ! こいつのどこが陳腐じゃねぇってんだ。クビにしてぇんなら好きにしやがれ。俺様はてめぇの体売るほど零落れちゃいねぇんだよ」
 シドは不遜に言い放った。元々傭兵として神羅に雇われた身だ。相手の機嫌を伺い、こび諂うなど彼の性には合わなかった。
 結局、彼はまだ若かった。夢と引き換えにしても譲れ得ぬものを、未だその身に宿していた。
 その様を目を細めて見つめ、プレジデントは微かな笑みを浮かべた。
「若いな……己自身で全てが出来ると思っているのか?」
「けっ、勝手にほざいてやがれ!」
 吐き捨て、シドは踵を返した。だがその背に、プレジデントの冷たい声が突き刺さった。
「君は何かを思違いしているようだな」
「……何ぃ?」
 振り返ったシドに、微かな笑みを浮かべたままプレジデントは続けた。
「神羅を敵に回す愚か者はこの世には居ない。仕事は愚か、機体を整備するための備品すら差し押さえる事も出来るのだよ。君一人で空を飛べると思ったのかね? ……シド・ハイウインドと言う伝説のパイロットは、神羅の中でしか生きられないのだよ」
「何だと……!?」
 シドの頬が怒りによって紅潮して行く。プレジデントは冷ややかにそれを見つめ、言葉を続けた。
「君は一人で伝説の名を手に入れたと思っているのかね? ……違うな。私が与えてやったのだよ」
「――っ!!」
 シドは鋭く息を呑んだ。怒りに言葉すら失う。その様を楽しげに眺めながら、プレジデントは言葉を続けた。
「世の人々は偶像を求める。より強いものに、より優れたものに憧れ、惹かれる。だから私が作り上げてやったのだよ。……英雄セフィロスのように」
 怒りに震えるシドを満足げに見つめ、残忍な笑みを口の端に上らせる。
「君は伝説のパイロットとして宇宙へ飛び出す。人々の期待を一身に背負ってね……。素晴らしきことではないかね? 君の望みを果たし、そして我が神羅カンパニーにも多大なる貢献を果たすのだから」
 シドの歯が音を立てて軋んだ。固く握り締めた拳が怒りに震える。
「ふざけるな……」
 怒りに燃えた瞳がプレジデントを射貫く。
「俺様の人生は俺様のもんだ……てめぇに踊らされるためのもんじゃねぇ!」
「ほう、では君に何が出来るのかね。私を殴り飛ばし、神羅を後にするか? それもよかろう。ただし、君が空を飛べぬ人生を善しとするならば、だが」
 酷薄な笑みを浮かべ、告げるプレジデントの言葉に、シドは言葉を失った。畳み掛けるようにプレジデントの残忍な囁きが耳に滑り込む。
「無駄な意地を張るのは止めたまえ。所詮この勝負に勝ち負けはない。君は私の掌の上から逃れる事など出来ないのだからな……」
 シドはきつく唇を噛み絞めた。色を失うほど固く握り締めた拳が細かく震える。
 プレジデントは深く椅子に座りなおすと、嘲るような静かな声音で告げた。
「さあ、選択したまえ。君の人生を……」
 選択など、ありはしなかった。
 導き出される答えは一つしかない。どちらを選んでも、プレジデントの思うように事が運ぶだけだ。
 彼はただ、仮初めの選択を与え、苦しみもがくシドを見て楽しんでいるだけなのだ。
 シドは固く拳を握り締めた。腸が煮えくり返る程の怒りが湧きあがる。
 だが、全てが解っているからこそ――彼は、逃げ出す訳にはいかなかった。
 シドは顔を上げた。燃えたぎる瞳がプレジデントを射貫き、殺しかねないほどの気迫が噴出する。
 だが、シドはテーブルの上のグラスを引っ掴むと、一気に煽った。
 呑み切れぬ液体が口の端から零れるのもかまわず、一息に飲み干す。
 空になったグラスをテーブルに叩きつけ、シドは乱暴に口元を拭った。
 そして、挑戦的な眼差しでプレジデントを睨みつけた。
 プレジデントはその口の端に満足げな笑みを浮かべた。わざとらしいほどの優しい声音で言葉を発する。
「……よかろう。契約成立だ。君をパイロットとして正式決定しよう」
 そして、椅子を回し、彼はシドに向かって両手を広げた。
「さあ、来たまえ……」



 という訳でようやく次回から本番です……(笑)
 いかがでしたか? プレジデントって単なる助平ジジイじゃなくて結構したたかな奴だと思ってたりするのですが。その片鱗が少しでも伺えたでしょうか?
 この作品に出て来るプレジデントは、プレジデントファンのぽぽんさんにささげます☆

 さて次回は……多分連休中には出来るでしょう。
 でも用事が立て込んでる俺。しかも仕事持ち帰ってるし(爆)こんなん放っといて仕事しろ自分。
 ……でも止められない(爆)だって楽しいんだもの〜(笑)(←終わってるらしい)

 ではまた。続きを待っていて下さる方には感謝の踊りを(笑)(←いらねぇっちゅーねん(^^;)


[小説リユニオン「改」トップへ]