ヤケ酒な夜の艇長(2)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 13 日 02:07:55:

 みなさんお元気ですか。「あ」は最近フィットネスに通ってるので、元気元気です。
 とか言って、今日はウィークエンドなんで飲んでしまうけど。
 オフ会までに少しでもスマートでナイスバディになれるといいなあ・・・。
 



 シドは案の定、飲みに飲んでぐでんぐでんになって眠ってしまった。
 ヴィンセントはため息をつきながらシドをベッドへ運んでやった。
 面白くないことがあるとすぐに飲む。飲んで前後不覚になることで、憂さを晴らそうとする。
 酒に逃げるくらいなら、自分の胸で泣いてくれればいいのに・・・。まぁ、そこがシドらしいと言えばシドらしいのだが。
 一度でいいから、シドが誇りも何もかなぐり棄てて、自分の胸で泣いてくれることを・・・祈らずにいられないヴィンセントであった。
 ヴィンセント自身は、泣きたい時があれば、遠慮なくシドの胸で泣いているからだ・・・。
「シド」
 声をかけたが、返事はなかった。
 ヴィンセントはため息をついた。
 シドが呟いたのはその時だ。
「てやんでぇ・・・ロケットが・・・ロケットが何だってんだ・・・!」
 

 バトルブリッジ・・・ヴィンセントはその名には覚えがある。
 かめ道楽でシドに「私も、居酒屋で友だちや同僚と飲み食いしたことがある」と言ったが、まさにその仲間の一人にいたのがバトルブリッジという名の男であった。
 同期入社で神羅製作所に入った仲間で、何度も皆で飲みに行った。でも、二人きりで話をしたことはない。いつもみんなと一緒だった。
 だから、他の同僚と記憶がごっちゃになっているかもしれないが・・・。ヴィンセントの記憶では、あまりにぎやかなことを好まず、はめをはずす他の連中と少し距離を置いて、いつもいつも自分の考えにふけっていたような気がする。
 バトルブリッジの結婚式にも招待された。花のようにほほ笑む女性と並んで幸せそうにしていたバトルブリッジの記憶が、にぶく重いヴィンセントの胸に甦ってきた。
 その頃すでにルクレツィアという美しい女性を知っていたヴィンセントは、どうしても二人の姿に自分たちの姿を重ねずにいられなかった・・・。
「そう・・・か」
 ヴィンセントは俯いた。・・・無為に費やしてしまった長い、長い年月を想わずにいられなかった。
 自分が棺桶の中で、甘い悔恨に胸を噛ませつつ過ごした年月の間にも、その同僚は着実に仕事をし、その子までがいま社会的に認められようとしている・・・のか。
 それは、何もかもうまく行っていたら、自分のものになっていたかも知れない幸福の果実であった。ルクレツィアか・・・さもなくとも他の女性を妻に得て、子をなし、その子を育てて・・・。おだやかな家庭の幸せを手に入れて、充実した老境を迎えようとしていてもおかしくない・・・。
「う・・ん」
 シドが寝返りを打った。ヴィンセントははっとした。
 こんな基本的なことにすら、今この瞬間まで気づかなかった・・・。そう、シドと出会うまでは。
「シド」
 ヴィンセントはシドの唇にそっと自分の唇を重ねた。
 後悔はしない・・・するものか。
 自分は、シドを得ることができたのだから・・・。
「ん・・・」
 シドがふっと目を開けた。
「・・・泣いてたのか、ヴィンセント」
「いいや・・・なぜ?」
 シドはかぶりを振った。
「いや、多分夢を見てたんだ」
「シド・・・」
「・・・!」
「・・・抱いて、いいか」
「・・・」
「私には・・・あんただけだ。あんただけが私のすべてなんだ」
 シドは、おおいかぶさって来るヴィンセントをとまどったように抱きしめながら・・・
「俺は誰のもんでもねえし・・・お前だってそうじゃねえのか」
「・・・」
「魂は、自分自身のもんだ・・・だろ?」
「・・・」
「誰かにすがりつかなきゃ、自分自身さえ確かめられねえなんて・・・そんなの、俺はイヤだ」
 でもシドは、ヴィンセントの抱擁を拒みはしなかった。やはり彼も寂しかったのかも知れない。
 だからヴィンセントは、久しぶりにめちゃめちゃに燃えてしまった。
「シド・・・燃えてくれ、あんたも」
「はぁ・・・あ」
「私に何もかも忘れさせてほしい・・・」
「ああ・・・あ、ヴィンセント・・・ヴィンセントおおお!」


「・・・ちきしょーめ、腰がガクガクしやがる」
 翌朝、出勤してきたシドは、何となく冴えなかった。
 昨夜・・・と言うか、今朝まで夜通し、ヴィンセントにいじめられてしまったのである。おかげで何となく歩く姿にも精彩ないし、声は夜通し泣かされたおかげでガラガラだし。こんなの、見るヒトが見れば、何をされたかすぐわかってしまう。
「いやあ、お熱いこって。シド、身体ホントにだいじょうぶ?」
「・・・」
「ヴィンセント、口数すくない分激しそうだもんねー・・・」
「・・・」
「テクニックもありそうだしねー・・・あ、そうでもない?雰囲気で押しまくるタイプかな?シドなんか、ささやき声だけで昇天!だったりしてー・・・って、じょーだんだよう、何そんな顔してるんだよう」
「・・・^_^;」
「・・・いやいや、うらやましいよっ!」
 ユフィにまで、わけ知り顔に同情されてしまった。はっきり言って屈辱である。
 ユフィが口でこんなこと言うのも、実はうらやましさの裏返し・・・なのだと分かっているからいいのだが。
 でも、ヴィンセントの抱擁自体は、実は嫌いでもなくなっているシドだった。自分の心がくじけそうになっている時、ヴィンセントの迷いのない愛撫は、すべてを忘れさせて酔わせてくれる効用がある。
 まあそんなこと、死んでも認めたくないシドであったが・・・。
「午後から、昨日のバトルブリッジ中尉が来るよ」
 吸われすぎてひりひりする胸の突起を揉んでいるシドに、ユフィは告げた。
「うっとおしいな・・・何しに来やがるんだって?」
「新しいロケットの設計図持ってくんだとよ。ぜひぜひシドにも見てほしいんだってサ」
「・・・」
 自分が乗れない乗り物なんざ、はっきり言って興味も何もないシドである。しかしそれを正直に言うのは、やはり人生の先輩としてはしてはならない事であろう。
「わあったよ、相手すりゃいいんだろ」
「あ〜シド、ひょっとしてヤキモチ?」
「・・・るせえ、放っときやがれ!


 こうなったらもうオトナの分別もへったくれもありはしない。ぶすくれた顔で出迎えたシドに、若いバトルブリッジ中尉は屈託がなかった。
「ごらん下さい、ここが画期的な部分でして、エアロックにも新技術が・・・」
「・・・」
「・・・どうしました、艇長?」
「・・・」
「あ、艇長なんてなれなれしかったですか。すいませんでした、ハイウィンド大佐!」
「いや・・・いいんだけどよ」
 バトルブリッジ中尉は目をキラキラさせながら、
「というわけで、ご意見を叩きたいと存じますが、いかがでしょうか艇長」
「・・・」
「失礼ですが、胸が痛まれるとか?」
「う・・・いやこれは別に大したことはない」
 シドはあわてて威厳をとりつくろった。まさか、ヴィンセントにいじられた乳首がまだ痛むなんて言えない。
「それに、ご意見ってもなぁ・・・俺は、はっきり言って最新鋭のメカニックにゃ弱いし」
「さようでありますか・・・」
 バトルブリッジはふっとため息をついて、くるくると設計図を丸めた。
「・・・何だかご迷惑だったようですね。申し訳ありません」
「い、いや、気にしないでくれ」
「・・・」
「あ、あ・・・と。そうだ、お前さん、なんか今夜は予定があるのか?」
 シドはうっかり口を滑らせた。言ってしまってから「しまった」と想ったのだが・・・。
 しょげていたバトルブリッジは、みるみる顔を輝かせた。
「いえ、自分は今夜はヒマであります!」
「そ・・・そんならどっかで酒でも飲まねぇ・・・か」
 どんどん悪い方へ悪い方へころがっていくなあ・・・と自覚しつつ、シドももう後には引けない。
 ことわってくれ、中尉・・・という期待もむなしく、バトルブリッジは元気に答えたのであった。
「はっ、光栄であります!」




 ああ、なんかどんどんやばげな方向に行く(T0T)。なりゆきで男を(しかも若い)誘うか、シドよ・・・。まさに魔性の受様。
 ヴィンセントと、バトルブリッジ父との関係も気になるし・・・。
 一体どうなってしまうのでしょー。「あ」にも・・・わからない。(ラストシーンだけは構想してるけど、そこまでどうやってもっていくか・・・)
 皆様のご意見ご感想お待ちしています。
 こんなんでも、読んでくだすった貴女には感謝☆


[小説リユニオン「改」トップへ]