心の境界(その1)


投稿者 いかそーめん 日時 1997 年 9 月 07 日 20:37:58:

 お待たせしました(ってそんな人居るのかい((^^;)一週間後とか行ってたくせして書いちまいやした、やおいもの(爆)(何やってんだ自分……仕事しろよ(泣))
 前作の続き、しかもヴィン×シドでございます。
 あくまでもノーマルなシドをどうやってヴィンが押し倒すのか……作者もドキドキしながら期待しております(←おい!(^^;)
 ちなみに私、やおいは初挑戦だったりします(爆)どこまで書いていいのか加減がわかんないよ〜(爆)
 では、どこまで書けるかはわかりませんが、皆様どうかお付合いのほどを……。



 セフィロスの待つ大空洞へ突入した一行は、その敵の手強さに苦戦を強いられていた。
 このままではセフィロスに勝てるかどうかも危うい。こうなれば、世界の各地に隠されているマテリアや武器を捜すしかない。
 その為、彼らは一旦大空洞を抜け、付近の街へと戻っていた。

「シド」
 食事を終え、各自の部屋に戻ろうとしていたシドの背を、ヴィンセントが呼び止めた。何事かと振り返るシドに、ためらうような、微かにすがるような気配を滲ませたヴィンセントの姿が映る。
「おう、なんでぇ?」
「……後で、あんたと酒を呑みたい。いいだろうか」
「おっ、悪かねぇな。丁度良い骨休めだ。いっちょバレットにも声掛けて……」
「いや」
 踵を返し掛けたシドを、慌てたようなヴィンセントの声が遮った。
「……できれば、あんたと二人きりがいい。……大事な話があるんだ」
 一瞬ヴィンセントを見返したシドは、すぐにフッと笑みを浮かばせた。
「いいぜ。じゃあ酒の調達はてめぇに任せた。せっかくだ。いい酒買って来いよ」
 シドの返答に、ヴィンセントはほっとしたように柔らかな微笑みを浮かべた。すぐに戻ると言い残し、宿屋のカウンターへと去って行く。
 シドはその後ろ姿を見ながら、ちょっとした感慨に耽られずにはいられなかった。

 以前に比べ、ヴィンセントは随分自然に感情を表に出すようになった。それは、取りもなおさず、皆に心を許して来たという証拠なのだろう。
 初めて会ったころのヴィンセントは、むっつりと押し黙り、無表情な眼差しで、全身から他者を拒絶するオーラを発していた。初めてヴィンセントを見た時は、随分いけ好かない野郎だと感じたものだ。
 だが、彼の過去を知り、そしてその人となりを知るにつけ、その印象は変わって行った。
 ヴィンセントは、他者を寄せ付けないのではない。他人との付き合い方を知らないだけなのだ。
 恐らく、元から人付き合いが得意ではなかったのだろう。「あれだけお奇麗な面しときながら女に逃げられてんじゃ、甲斐性無しもいいとこだぜ」とは、シドがこっそり胸中に抱いている感想である。
 ともあれ、元の性格に拍車を掛けるように、忌まわしい経験が彼を襲った。彼にとって不幸な事に、自分を導いてくれる者は周囲に居なかった。彼は閉鎖された世界に生き、己の中に閉じこもるしかなかったのだ。
 だから、クラウド達が仲間になれと呼び掛けた時、彼は共に旅をする事を選んだのだろう。自分を救ってくれる者を無意識に求めて。
 ……だが、彼自身がその事を自覚していなかった事と元来の人付き合いの悪さが、ヴィンセントを仲間から孤立させていた。もとより、シドが加わるほんの少し前に仲間になったばかりだったのだ。
 正直、シドはよくヴィンセントと衝突した。他のメンバーと違って、ヴィンセントが何を考えてるか、一向に読み取る事が出来なかったからだ。
 だが、彼の本質を見抜いた時――それは、別の苛立ちにすり代わった。
 過去を見つめ、囚われている彼が、あまりにももどかしく感じたのだ。
 そんなもんは切り捨てて、とっとと前を向けばいい。自分ならばそうしている。
 むろんヴィンセントは自分とは違う事を良く知っている。だが……いや、だからこそ、いつまでも過去を見続ける彼の姿が歯がゆかった。
 それが自分ならどうとでも乗り越える事が出来る。だが、他人の身の上では、どうしてやる事も出来ないではないか。
 シドは、自分でも無駄な事と知りつつ、ヴィンセントに口出しせずにはいられなかった。もとより面倒見のいい彼だ。困っている奴を放っては置けない。
 それでも、普通の奴ならばそうまでしつこく手を出す事はなかった。相手には相手の生き方が有り、それをねじ曲げる事は出来ないからだ。
 だが、どうしてもヴィンセントには口喧しくなってしまう。それは、彼と性格が正反対であるが故に、決して理解出来ぬものがあるからなのだろう。
 それに、ヴィンセントは容姿だけは大人だが、どこか世間知らずな子供と変わらないところがあった。他者と極端に接触しない生活をして来たためか、驚くほど冷静な時もあれば、信じられぬほど情緒不安定な時もある。シドはそんな彼から、どうしても目を離せずにいた。

 だが……そのヴィンセントも、最近は打ち解けた様子を見せるようになっていた。特筆すべきは、今夜のように、シドに相談を持ち掛けて来る事だろう。
 大空洞突入の前夜以来、ヴィンセントはシドを頼るようになっていた。
 いい傾向だとシドは思う。以前は自分のマイナス面を認めるのが恐くて他人とは触れ合おうとしなかったヴィンセントだ。それがこうして自分の否を認め、どうすれば良いか前向きに考えるようになった。色々と世話を焼いて来たシドにしてみれば、成長した子を喜ぶ親の心境にも似ている。
 シドは自室に戻りながら、今夜はどんな事を語るのだろうかと思いを馳せた。


 ヴィンセントが調達して来た酒は申し分の無いものだった。何度かこうして酒を酌み交わす内に、シドの好みにも詳しくなったらしい。
 相談の相手といっても、シドは特に偉そうに説教をたれたりする訳ではなかった。ヴィンセントの話を黙って聞き、最後には「そんなもん気にすんな」と一蹴するのだ。
 答えは自分で見つけなければならない。だからシドの役割は、ヴィンセントが胸の内にため込んだ鬱積を吹き払ってやる事だった。それだけでも、心は随分と軽くなる。ヴィンセントは苦笑しながら、「あんたが言うと本当にそう思えて来るから不思議だ」と決まってこぼした。
 だが――今日は、いつもといささか趣が違うようだった。
 ヴィンセントは黙ったまま、手の中のグラスに視線を落としていた。何かを思い詰めたような眼差しが、グラスの中で揺れている。シドは一口酒をすすると、わずかに身を乗り出した。
「どうした? 言いてぇ事があるんだろ? ……遠慮すんなよ」
 ヴィンセントは一旦顔を上げ、再び迷うように視線を落とした。これだけでも随分進歩したものだ。以前はこんな小さな反応さえ、押し殺して来た彼なのだ。
 だが今はその成長振りを喜んでいる訳にも行かなかった。相談相手としては、胸の内に抱える悩みをうまく引き出してやらなければならない。
「言いたくねぇんだったら、無理して今言う必要はねぇ。どうせ明日もあるんだ。また次の機会にでも話しゃいい」
 シドの言葉に、ヴィンセントはピクリと反応した。シドの顔を一旦見つめ、再び視線をグラスに落としてから、ポツリポツリと語り始める。
「……あの夜の事を、覚えているだろうか」
 戦う理由を確かめるため、各人が思い思いの地へと去って行った夜の事だろう。あの日、シドとヴィンセントは飛空挺に残り、互いの本心を語り合ったのだ。
「あの時……あんたは生きて帰ると言った。その強さが羨ましく……同時に、辛かった。私はあんたの言葉を恐れていた。あんたが私を引き裂き、取り込んでしまうように感じた……」
 ヴィンセントは淡々と語った。その声に、シドを責める響きはない。
「あんたに取り込まれたら、自分自身が消えてしまいそうで……恐かった。あの時は、私は自分の存在に自信がもてなかった。だが……今は違う。あんたのおかげで、私は自分の姿を見る事が出来た。地にしっかりと足を付けることが出来た。ここに存在してると、実感する事が出来た……」
 深い、宝石のような赤い瞳が、シドを捉えた。万感の想いを載せ、その瞳が揺れる。
「……あんたのおかげだ。あんたが私を救ってくれた……」
「よ……よせやい、んな大袈裟なもんじゃねぇよ」
 照れ臭さに襲われ、シドは顔を赤らめた。面と向かってこんな事を言われたのは初めてだった。どうにも落ち着かず、シドはグラスの酒を一気に煽った。
「あの日から、ずっと考えていた。なぜあんなにもあんたを恐れていたのか。最近になって、ようやく解った。私は……私はあんたに惹かれていたんだ」
 ヴィンセントの瞳が潤んだようにシドを見上げる。シドはドキリと心臓が脈打つのを感じた。それをごまかすように新しい煙草を取り出して火を付ける。
 あの眼差しには見覚えがあった。だが、しかし……。
「あんたと居ると、私は落ち着く。あんたが側に居ると思うだけで、決して負けたりなどしないと思える。あんたの存在が……私を強くさせてくれる」
「おい、よせよ。聞いてるだけでくすぐったくならぁ。それじゃまるで口説き文句だぜ」
 シドは冗談に紛らわせようとした。だが、ひたと彼を見つめた赤い瞳に、シドは言葉を失った。
「私は……私はあんたに惹かれている。ルクレツィアを想う気持ちとは、また別の感情だ。だが、あんたからは目が離せない。あんたを……手に入れたいと思う。これが愛という感情なら……私はあんたを愛してるんだろう……」
「……!」
 シドは思わず息を呑んだ。熱を持った瞳が、自分を捉える。シドはこの瞳を良く知っていた。欲情し、肌を合わせたいと望んでいる瞳だ。長い黒髪と白く抜けるような肌が、その血の色を思わせる赤い瞳を際立たせていた。巷の女どもよりよほど秀麗なその顔が眼前に迫る。不覚にもグラリと傾きかけた心を理性で押さえこみながら、シドは慌てて口走った。
「お……おい! ちょっと待て! いいか、俺たちゃ男同士だぜ、てめぇなら奇麗な姉ちゃんの1ダースや2ダース、平気で引っ掛けられるだろうが!」
「私が欲しいのはあんただけだ」
 一言の元に言い切ると、ヴィンセントはテーブルに手を突き、身を起こした。シドは思わず身を引いた。ヴィンセントの瞳が本気である事を悟ったからだ。
「待て、ヴィンセント。てめぇは勘違いしてるだけだ。そいつが恋愛感情かどうかも解ったもんじゃねぇ。てめぇはまだ経験が足んねぇんだよ。一旦頭冷やして……」
「私はもう、過ちは犯したくない。何もせず後悔するよりも、何かをしてから後悔した方がいい。……それを教えてくれたのはあんただ、シド……」
 ヴィンセントはシドの肩に手を突いた。逃げ損ねたシドの背が、背もたれに深く押し付けられる。
「おいっ! ヴィン……っ!!」
 上げ掛けた抗議の声は、最後まで言い終える事は出来なかった。
 柔らかく、しめやかな唇がシドの口を塞いでいた。逃れようとしたシドの頭を抱え込み、深く、深く唇を重ね合わせる。
 むさぼるようなその口付けに、シドは思わず怯まずにはいられなかった。よもやこのたおやかな美青年にそんな激しい一面があるとは思わなかったのだ。
 反応が遅れたシドの隙を逃さず、ヴィンセントの手がするりと上着の中に潜り込む。思わず身を固くしたシドの意識を逸らすように、唇を割ってヴィンセントの舌が滑り込んで来た。
「んっ……!」
 思わず喉の奥で抵抗の声を上げながら、シドの心にあせりが生まれた。
 ヴィンセントの行動が、やけに手慣れているのだ。過去、女をモノに出来なかった男とは到底思えない。世間知らずと見くびっていたシドは、そのギャップに驚き、暫し縛られたように身動きが出来なかった。
 ヴィンセントの舌が巧みにシドの舌を絡め取る。上着の中に差し込まれた手はシドの厚い胸板の上を滑り、筋肉のラインをなぞるように這った。そのまま、肩先から上着を滑り落とそうとする。
 事ここに至って、シドはようやく呪縛から解き放たれた。
 ヴィンセントの肩を掴み、力任せに己から引き剥がす。
 引き離された唇から舌が引き抜かれ、唾液が糸を引いて落ちた。
 シドは乱暴にそれを拭い取ると、荒い息を付いた。
 引き離されたヴィンセントは、驚きと戸惑いと悲しみの入り交じった瞳で、傷ついたような表情を浮かべた。
「シド……私を受け入れてくれないのか……」
「そういう……問題じゃねぇだろ!」
 息を整えながら、シドは叫んだ。心臓が激しく脈打っている。頭がごちゃごちゃと混乱していた。よもやヴィンセントにこのような事をされるとは思っていなかった。相手は男だし、なにより仲間だ。当然の事ながら肉体関係を結ぶだなどとは思いもよらなかったし、ヴィンセントが自分に想いを寄せている事にさえ気付かなかった。
 シドは思わず頭を抱えた。様々な感情が一度に押し寄せ、オーバーフローしそうになる。
 不意に背後から抱きすくめられて、シドは思わず身を固くした。反射的に振りほどきそうになるのを、微かに残った理性が引き止める。
「例えあんたに拒絶されても、私はこの想いを止める事は出来ない……」
 ヴィンセントの声が耳に滑り込み、シドの思考をかき乱す。混乱する意識の中、微かに働く理性が、ヴィンセントをただ突き放すだけではいけないと告げていた。彼は何かを思い違えているだけなのだ。もしここで突き放し、シドに見捨てられたと思えば、彼はまた心を閉ざしてしまうだろう。
 そんなシドの思いに気付いてか気付かずか、ヴィンセントはシドを抱く腕に力を込めた。
「私は……こんな形でしか愛し方を知らない……すまない、シド」
「? ……おいっ!?」
 ヴィンセントから漂う不穏な気配に、シドは思わず声を上げた。
 だが、既に遅かった。ヴィンセントの体が緑色のマテリアの光に包まれたのだ。
「なんっ……!?」
 何をするつもりなのか、問いただす暇はシドにはなかった。
 急速な眠気がシドの体を襲ったのだ。
「ヴィン……て…めぇ……」
 振り返ろうとしたが、体は言う事を聞かなかった。頭の中が重くなる。シドは自分の体が大きく傾ぐのを感じた。
 急速にソファのシートが眼前に迫る。全身が重力に捉えられる感覚を最後に、シドの意識は吸い込まれるように闇の中へ沈んで行った。



 第一話完……っていいのかこんなとこで区切っちゃって(爆)
 しかも続きは多分一週間後……(汗)

 すみません、次回こそは本番です。でもって鬼畜入っちゃうかも……(爆)
 こんな作品でも続きを待って下さる方が居たら感謝の踊りを(笑)(←いら無さ過ぎ)
 苦情でもなんでもいいから感想下さると嬉しいです。ではっ。


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