コスタ・デル・ソルの逆襲(6)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 06 日 20:29:45:

 いよいよ明日からですね。(←何が?・・・ってあれですよ、4年に一度の・・・) なんかちょっと気もそぞろ☆な「あ」です。
 それでも書く。いったいこの情熱はどこから湧いて出るのでしょう・・・。
 しつこく、しつこく続きます。もうちょっと遊んでやって下さいね・・・。




 コスタ・デル・ソルの熱い太陽が、今日もクラウド別荘にぎらぎら照りつけている。(メテオはどうなったとか、そういうような設定はこの際忘れていただきたい)
 ヴィンセントは、窓から外を眺めながら、もの想いにふけっていた。
 海岸に突き出した庭では、クラウドとティファが水着姿で日光浴をしている。
 前庭では、Tシャツ姿のシドが、故障した車を修理していた。ユフィが後ろでキャッキャ言いながら邪魔したり、見物している。
 どこからどう見ても平和なリゾート地の光景であった。


「・・・さ、これでいいや」
 シドは工具をボックスに放り込み、エンジンをかけてみた。威勢のいい音がして、エンジンがかかった。
「きゃ〜やった☆ さすがシド!」
「ま、ざっとこんなもんだよな」
「これでまたバイト行けるよお、嬉し〜!もう、おぢさん、さすがだよっ!惚れちゃうね!」
 ユフィは「口だけなら幾ら言ってもタダ」を実践するようにほめちぎった。シドは苦笑して、
「おじさんはないだろ、おじさんは・・・」
「ふふ☆だって外見はどう見てもおやじだよ」
「・・・」
「・・・あ、ゴメン、気わるくした?」
 シドが返事をしないので、ユフィはちょっと真顔になって、あわててシドの顔をのぞき込んだ。・・・と、シドがいきなり手首をつかんだではないか。
「!?」
「口の悪いねえちゃんだな」
「や〜ん☆」
「その悪い口、いただいたぜ」
 ユフィは目を白黒させた。シドがいきなり唇を押しつけて来たからだ。
 たばこのにおいが濃厚にした。
「・・・」
 シドが顔を離しても、ユフィはまだ鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしていたが・・・やがてそれがみるみるクシャクシャにゆがんだかと思うと、大きな目から大きな涙かのつぶがぽろぽろ、ころがり落ちて来た。
 これにはシドが面食らってしまった。別に舌入れたとか、そんなことはしていないのだが・・・。
「お、おい、ねえちゃん」
「キ、キス・・・あたしのファーストキッス・・・」
 ユフィは手で顔をおおった。
「ご、ごめん、別に泣かすなんて、そんなつもりじゃ・・・。あっあの、カルイ気持ちで」
「・・・ひどいよお、シドお・・・」
「な、泣くなよ、別に減るもんじゃなし」
「減るよぅ、確実に・・・ふえーん」
 シドはあわててユフィを慰めた。気の強そうな、明るそうな娘だから、まさか泣くなんて思わなかったのである。
「かるい気持ち・・・なんて、あんまりだあ・・・」
「ご、ごめん」
「・・・でも、嬉しいよぅ」
 ユフィはしゃくり上げながらシドの胸に抱きついた。今度はシドが目を白黒させる番だった。
「ねっ、ねえちゃん?!」
「・・・シドとヴィンセント、とってもおとなっぽくて、すてきだなって思って、いつも見てたんだあ・・・。でも二人とも、アタシみたいな小娘、ぜんぜん相手にしてくれなかったじゃないか」
「・・・」
「いつかアタシが船酔いで死にかけてたとき、助けてくれて・・・ほんとはとっても嬉しかったんだよ、艇長。ついつい口じゃ悪態ついちゃうけどさ・・・」
「・・・ごめんな、ユフィ」
 シドは、どうしていいか分からなくて、泣きじゃくるユフィを、なんと30分以上も抱きしめたままあやしていた・・・。
 ・・・一部始終を窓から見下ろしていたヴィンセントは、胸がぐっと重くなるのを感じたが、泣きじゃくるユフィとおろおろしているシドがあまりにも可愛らしくて、ついつい最後まで見守ってしまったのであった・・・。


 18歳(あるいは21歳)のシドは、不良と言えば不良だったらしい。
 外に買い物に出せば、ケチャップひと瓶買うのに3時間もかかって、何をしていたやら皆の気を揉ませるし。
 それでも実に悪びれず、誰も憎めないのであった。
 ユフィが日記に「今日、ファーストキスをしてしまいました。相手はシドでした。びっくりして嬉しかったけど、何だか悲しくて、ぽろぽろ泣いてしまいました☆」と女の子文字で書きつけている時間帯、シドはタオル一枚でバスルームから出てきた。
「最高の夏休みだな、コスタ・デル・ソルの別荘生活なんて」
 ヴィンセントは黙ってシドを眺めている。
「・・・何だよ、不機嫌そうだな、ヴィンセント」
「・・・」
「俺のこと、嫌いになっちまった?」
 ちょっとふくれながらこちらを睨む目つきが、たまらなく少年っぽかった。が、ヴィンセントはかぶりを振った。
「・・・いいんだ、別に・・・。あんたがこういう人間だってのは、ちょっと考えれば分かることだったのに・・・」
「何だよ、いいじゃないか、ちょっとくらい遊んだってサ・・・」
 ヴィンセントはもう何も言わず、自分のベッドに横になった。
「ちぇっ」
 シドは髪の毛をタオルでごしごしやりながら、つまらなそうにふくれた。
 ・・・シドがヴィンセントの背後に抱きついて来たのはその直後だ。あまりのことにヴィンセントはびっくりしてしまった。
「シ、シド!?」
「・・・抱いてくれねえんなら、俺があんたを抱いてもいいか?」
 シドはヴィンセントの長い黒髪を掴んで、
「・・・いい匂い。あんたってほんと綺麗だな。俺、男は初めてだけど・・・」
 ヴィンセントは脳髄がくらくらしてしまうのを感じた。・・・駄目だ、もう理性がもたない・・・。
「・・・生意気を言うんじゃない」
 ヴィンセントは難なくシドを振り払い、自分の下に敷き込んだ。シドは嬌声を上げながらくすくす笑った。
「大人をからかうとどうなるか、教えてやる」
「・・・へへ、どうなるんだよ?」
「・・・まずその生意気な口から調教してやろう」
 ヴィンセントは“振り回される自分”というものを感じてしまっていた・・・。駄目だ、これは・・・。
「あとで、抱かせてくれる?」
「あんたが?この私をか」
「ああ。ちょっとやってみたい・・・」
「・・・」
「抱かせてくれるって約束したら、好きにしていいよ。何しても・・・許すぜ」
「シド・・・」
 ヴィンセントが、どうして逆らえるだろう。完全に自分はつかまってしまった、と想いながら、ヴィンセントはつい頷いてしまっていた。
「・・・そのかわり、まず私の言うことをきくんだぞ・・・」
「うん・・・。何すればいいんだ?」
「まずは・・・」


 シドの柔らかな髪に指を差し込みながら、ヴィンセントは白い喉をゆるやかに反り返らせた。
 シドのたどたどしい舌使いが愛しい・・・。いずれ、この舌ももっと上手に使えるように教えてやらなくては・・・。
「ん・・う」
「ああ、シド・・・上手だよ」
「・・・これでいいのか?」
「・・・ああ、もういい。今度は、こっちへおいで・・・」


 ヴィンセントは幸福だった。が、同時に、「何か違うな」という気がだんだん強くなって来たのも事実であった。
 これが本当にシドだろうか。
 いや、シドだな・・・。シドがそのまま若い頃に戻ったら、こうなるのだろう。まさに。
 しかし・・・32歳のシドにない魅力があるのは確かだが、同時に、32歳のシドにあった魅力がなくなってしまったような気がする。
 それは、なんというか・・・大人の男だけにできる心づかいとか、思いやりとか・・・数限りない痛手を乗り越えないと人間に備わって来ない輝き、とでも言うか。
 自分たちはどうなってしまうのだろう・・・。
 闇の底で身を寄せあって眠りながら、ヴィンセントの胸は、昨夜とまた違うとまどいにきしむのであった。




 おいおい、また続くのか・・・。とほほ。
 まあ、そろそろ終わります。
 こんなのでよろしかったら、また読んでやって下さると嬉しいです・・・。
 ここまででも、読んでくだすった貴女にありがとうの言葉を・・・。


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