ためらいのコスタ・デル・ソル(5) |
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秋の気配ですね。でも舞台は常夏のコスタ・デル・ソル。
しかしよく考えると、くそ暑い中、これまたとりわけ暑苦しい二人のやの字・・・ってのもなかなか・・・イイですね(←結局何なのさ)
やはりやの字は、涼げな美青年と美少年の運命の恋が一番かも知れない。
しかし、しつこく続きます。暑苦しく陰気な(でも、前向きを取り戻しつつある)美青年と、暑苦しくにぎやかな(現在記憶喪失中)美中年のお話です。
「おれ・・・よく分からないけど」
しばしの沈黙のあと、シドは呟いた。
「あんたは、今までの連中とは違うような気もする」
「・・・」
「でも、どうして?・・・今の俺、ちっともキレイでも可愛くもねえのに」
「そんなことはない・・・、あんたは誰より美しいよ。その魂の輝きに、私は魅せられずにいられない・・・」
シドは目を閉じた。ヴィンセントの言葉を胸の奥で繰り返しているようであった。
「いつも、俺にそう言ってたのかい?」
「・・・ああ」
「俺、なんて言ってた?」
シドは信じられないほど素直であった。ヴィンセントは苦笑して、
「私がそんなことを言おうものなら、いつも照れて、怒っていたよ。何度も殴られそうになった」
「・・・俺、あんたの・・・恋人だったの?」
「・・・わからない。私はそう思っていたけれど・・・あんたが私のことをどう思っているか、まだ確信が持てずにいるんだよ・・・」
シドは目を開けた。澄んだブルーアイと、深いガーネットの瞳が合った。
「32歳の俺が、あんたをどう思ってたかは分からないけど・・・」
「・・・」
「今の俺は、あんたのこと・・・好きになりそうだ」
「シド」
「あいつらと会う前に、あんたと会いたかった。したら、俺・・・」
「シド、それは私も同じだよ・・・」
「あんたなら・・・しても、いいよ」
ヴィンセントは、シドの頬にそっと接吻した。シドは黙って受けている。
やがて唇が唇に触れると、シドは、わななきながらも、ヴィンセントの首に両腕を巻きつけた。
ヴィンセントもシドの身体を抱きしめた。しなやかな少年の身体ではなかったが、ヴィンセントにはどちらでもよかった。
「・・・あ!」
横たえられながら、シドは喉をのけぞらせた。
「なんか変・・・俺、感じてる・・・みたい」
「いいんだ、感じてくれ」
「ああ・・・いいよ、ヴィンセント・・・。もっと・・もっとめちゃくちゃにしてくれよ。俺にいやなこと全部忘れさせて・・・」
なんて素直なんだろう。ヴィンセントは感動せずにいられなかった。
「めちゃくちゃにしてくれ」だなんて・・・シドの口からそんなせりふが聞けるなんて。
別にヴィンセントが要求したわけではない。なのに予想以上の反応に、ヴィンセントも燃えてしまった。
シドは若いのだ。今よりももっと感性が若く、感情表現がストレートだったのだ。
「あ・・・もっと、もっとぉ」
「ああ、シド、愛してる」
「俺も・・・俺もだよ、ヴィンセント・・・激しくして、もっと・・・あああ!」
激情は数時間続いて、やがて、おだやかなひとときが訪れた。
また余韻にひたり、すすり泣きながら横たわるシドに、ヴィンセントはそっと接吻した。
「・・・すてきだったよ、シド」
「あんたも・・・最高」
「スープ・・・冷めてしまったけど、口にしたほうがいい。おなかがすいたろう」
シドは頷き、まだどこかふわふわした顔で半身を起こしかけ・・・ふと、ヴィンセントを見た。
「・・・食わせてくれるか?」
可愛い・・・。
ヴィンセントはシドの背中を支えて起こし、ベッドに腰かけさせた。それからサイドテーブルで冷えているスープ皿と匙を取り上げた。
ひと匙ひと匙、子どもに食べさせるようにシドの口に運ぶと、シドはおいしそうに味わった。
ヴィンセントは心からほっとした。
皿が空になると、シドは、口のまわりをちょろりと舌でなめてから、ヴィンセントの唇に唇を押しつけた。
「おいしかったか?」
「うん・・・。お代わり、したい」
「もう夜遅いから、明日の朝まで待ちなさい」
「ああ」
何だかびっくりするくらい素直なのであった。
どうしよう・・・
自分の胸で、安心しきったような顔をしてすやすや眠るシドを見つめながら、ヴィンセントはがく然としていた。
永遠にこのまま、シドの記憶が戻らないことを、心のどこかで・・・いや、心のかなりの部分で望んでいる自分に、気がついてしまったからだ・・・。
断じてそんなことはないぞ、ヴィン。
ああでも気持ちはわかる・・・照れやのおやじより数倍かわいい。きっと読者様(・・・ほんとにいるのよね、どきどき)もそうお考えだろう・・・。
このままずっとおとなしく甘えさせとくのがいいか、それとも何かショック療法をくれてやるか・・・迷ってしまいます。
このままがいいという人、お手上げ!
やっぱり戻してほしいという人、お手上げ!
・・・多数決取ってどーすんねん・・・。
こんなものでも、読んでくだすった貴女には感謝。心から、ね☆