コスタ・デル・ソルの濡れた太陽(4)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 06 日 01:33:38:

 ブタもおだてりゃ木に登る。「あ」もおだてるとつけ上がる。
 意外なご好評をいただいたので(・・・ホントなのかナー、何だか、未だに“ドッキリカメラ”の文字がちらつくよー、だってこんなにいろんな人から小説ほめてもらったの、2*年生きてきて初めてだもん)、調子にのって続けます。
 無我夢中で書いてます。乱文乱筆はご容赦のほどを・・・。
 



 眠れぬ夜を明かしたヴィンセントが目をさましたのは、日が高くなってからであった。
 隣のベッドは空になっていた。
(シド、もう起きたのか)
 空のベッドを見たとたん、よみがえってきた現実・・・。
(もしかして、シドも、元に戻らぬほうがいいのかも知れない)
 ヴィンセントはため息をついた。
 その時、ドアをノックする音がして、ユフィが顔を出した。
「ヴィン、おそ〜い。みんな待ってるよ、ごはん。アタシもうぺっこぺこ!」
「・・・すまない、ゆうべよく眠れなくて・・・」
「れれ、シドは?」
 ヴィンセントは顔色を変えた。
「いないのか?」
「いないヨ、いるわけないじゃんか・・・」


 シドは、ふらふらと街をさまよい歩いていた。
 コスタ・デル・ソル・・・こんなとこ、生まれて初めてだ。何度か来ているとみんな言うが、ぜんぜん、何も思い出せない。
 こんな高級リゾート地とは、はっきり言って縁のない暮らしをしてきたシドだった。・・・5人兄弟の長男で、オヤジもおふくろも、弟妹の世話にてんてこ舞い。シドは小さいときから自分のことは自分で始末しながら成長した。ほしいものはこづかいを貯めたり、アルバイトして手に入れて来た。空を飛びたいと思ったのも自分の夢だし、そのために神羅に入社したのも自分の選択である。だから18になった今だって、甘ったれた野郎、メソメソした女なんか大嫌いだ。
 18?・・・違う、32・・・か。
「・・・あははは」
「こっちこっち、パース!」
 子どもたちが、街角で、強い日差しを避けながらサッカーに興じている。シドはふと立ち止まってそれを見つめた。
 ・・・自分がこうやって友だちと街角でサッカーボールを蹴って遊んだのは、何年前のことだったか・・・。ついきのうのことのような気もした。ずっと遠いむかしのようにも思えた。
 子どもたちが振り返って、いぶかしげにシドを見上げた。シドはあわててその場を立ち去った。
 もう戻らなければ、道がわからなくなってしまう。迷子になったら、みんなが、ヴィンセントが心配する・・・。
 でもシドは戻りたくなかった。ことにあの、女みたいな顔した、わけ知り顔の陰気そうな男・・・出来たらもっともっとやつを心配させてやりたい、とあまのじゃくな気持ちで彼は思った。
 たとえ迷子になっても、奴は俺を探し出してくれる・・・そんな気もする。
 32歳のシドなら絶対にそんなことは考えなかったろうし、万が一考えたとしても実行したりはしない。いくらガキっぽくても、32歳のオトナは、わけもなく他人を困らせるようなことはしないし、できない。
 だが18歳のシドは、ふらふらしているうちに、いつしか裏町に迷い込んでいたらしい。
 急に家並みがくすんだ色調になり、人通りが少なくなった。
「・・・!」
 細い悲鳴が上がったのはその時だ。シドはほとんど反射的に、そっちに向かって駆け出していた。
「・・・イヤだっ、やめて!」
「おとなしくしろ、このガキ!」
「誰か!誰かあ!」
 ・・・まだ声変わり前の可愛い男の子を、数人の男が、寄ってたかって乱暴しようとしていた。
「・・・てめえら、何してやがる!」
 シドはカッとなった。何と言うことを・・・!
 と、同時に・・・。
 何か頭の中で“チカッ”とフラッシュするものがあった。
(・・・あ?)


 ヴィンセントは、シドを探して町中を歩き回っていた。
「・・・誰か!」
 裏町にさしかかったところで、ヴィンセントをつかまえたのは、顔中を涙でよごした半裸の少年だ。
「おじさんを助けて!ぼくを助けようとして・・・」
「・・・シド!」
 ヴィンセントは駆け出した。
 シドは、数人の暴漢相手に、一人で果敢に戦っているところだった。こういう熱さは、昔も今も少しも変わらないシドだった。
 が、多勢に無勢、形勢は不利だ。
 ヴィンセントはデスペナルティを抜き、天に向かって発砲した。
「ヴィンセント・・・」
 逃げていく暴漢たちを、シドは追わなかった。かわってヴィンセントの腕にしがみついた。
 その手が、恐ろしいほど震えている。
「シド・・・!どうしたんだ?」
「オレ・・・オレ・・・あの子は・・・」
「・・・何かイヤなことを、思い出してしまったのか」
「・・・あああ!」
 シドは、次の瞬間、ヴィンセントの腕を振り払って逃げ出した。錯乱したように叫びながら・・・。
 ヴィンセントはシドを追った。どこまでも、追い続けるつもりであった・・・。 


 別荘に連れ戻されたシドは、食事を取ろうともせず、ベッドの上にうずくまって、子どものように震えていた。
「シド」
 ヴィンセントが、ティファから託されたスープの皿を手にして、静かに入ってきた。
 とうに日は落ちている。シドは朝から何も食べていなかった。
「・・・つらいだろうが、何か口にしないと・・・。あんたは病み上がりだ、身体がもたないよ・・・」
 ヴィンセントの声はあくまで優しかった。
 シドはベッドにうつぶせに横になり、両腕を組んで、その中に頭をうずめていた。哀れを催すほど無防備な姿であった。
「ほっといてくれ・・・食いたくなったら止めたって食うんだから。今はいらねえよ」
「シド」
 ヴィンセントは皿をサイドテーブルに置き、シドのそばに腰かけると、そっと背中に手をやった。別によこしまな気持ちはなく、慰めてやりたいと思っただけだった。
 が、シドはびくっとして身を固くした。
「・・・思い出したのか」
「・・・あんたのことは、まだだけど・・・」
 シドは顔を上げた。頬が涙にぬれている。
「前に、士官学校の先輩たちに部屋に連れ込まれて、一晩中やられたことがあったんだ。あの子見てたら、残らず思い出した。・・・痛かった。えれぇ苦しくて」
「・・・」
「それだけじゃねえ」
「・・・プレジデント、とも?」
 シドは半身を起こしてヴィンセントを見た。
「なんで知ってるんだよ・・・」
「あんたのことなら何一つ見落としはしない。・・・わかるさ、私も、だから」
「あんたも、あのヒヒジジイに・・・?」
「私の時は、プレジデントも老人ではなかったけれどね」
「・・・」
 シドはうつむいて唇をかみしめた。そんな表情は、32歳のシドは一度も見せたことがない。ヴィンセントはこんな時なのに、見とれずにいられなかった。
「どんなふうにされたんだ、あんたは?・・・」
「それは・・・私だって、思い出したくないことはある」
 ヴィンセントは静かに、ガーネットのような深い色の瞳をシドに当てた。
 シドはかぶりを振った。
「俺、最低だ」
「・・・」
「どうしてもロケット造りたかったんだ。宇宙へ行きたくて・・・。言うこと聞いたら予算を出すって脅されて・・・」
「・・・そうだったのか」
 ヴィンセントは目を閉じた。・・・なんという残酷な。シドの夢につけこんで、その輝く魂をけがしたのか、あいつは・・・。
「何もかも、あいつの言いなりになっちまった・・・。しろって言うこと、全部してやった。声出せとか言いやがるから、ぶん殴ってやりたかったけど、・・・」
「・・・もう、いい、シド」
「あんたは抵抗したんだろ?」
 シドは顔を上げた。ヴィンセントは、黙って頷いた。シドは大きく息をついた。
「だろ・・・。俺、抵抗できなかった。しなかったんだ。上級生の野郎どもの時は、抵抗したし、後で全員叩きのめしてやったけど・・・」
「・・・」
「最低だな・・・」
 シドは顔を手でこすった。
 そうだったのか。シドがつらがっていた思い出は、何もけがされたこと、はずかしめられたことだけではなかったのだ。むしろロケットのために、身も心も売ってしまったこと・・・。それがシドを苦しめ続けていたのだ。
 ヴィンセントは、ますますシドに惹かれてしまう自分を感じていた。・・・なんというプライドだろう。これこそ、自分の求めていた人間の強さというものではないか。
「シド・・・」
 ヴィンセントはそっと手をのばし、シドの顔から涙をぬぐってやった。シドはされるままにしている。
「私が、今ここであんたを欲しいと言ったら・・・それは、やつらと同じことになるのだろうか・・・?」




 ・・・長くなりそうなんでここらで切ります。
 さて、次回はやおいか・・・。真面目にやんなきゃね。
 こんなのでよろしいでしょうか・・・?(プレジデントネタ出してくれたいかそーめん様、綾ちゃん☆に感謝しなくては・・・どきどき)
 こんなのでも、読んでくだすった貴女には、心から心から・・・ありがとうを捧げさせていただきます。


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