哀しみのコスタ・デル・ソル(3)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 05 日 21:49:25:

 いつもわたくしのくさった小説を読んで下さって、ありがとうございます。
 全国の受シド愛好家の皆様(・・・全国にわし一人だけだったらどーしよー、孤独ダ・・・)、明日6日から“ボディ・バンク”のロードショーがはぢまります。
 主演はヒュー・グラント。何を隠そう、「あ」の字の受シドのイメージキャラクターというか、モデルになった俳優さんです。
 ちょこっと見に行ってやってはくれませんか・・・。(自分のイメージこわしたくない人は、やめておいてね☆)
 彼、熱血青年医師の役らしいです。共演ジーン・ハックマン。・・・ふふふ☆
 ・・て、げげっ、よく見たら新宿か有楽町行かないと見られない!がーーーん(なにこの上映館の少なさは〜っ!ぷんぷく)
 誰か、一緒に見に行きません?(笑;)
 ・・・と言うわけで続きです。がんばるじょ。




 コスタ・デル・ソルのぎらぎらする太陽の下で、シドは、タバコも吸わず、ただまぶしげに目を細めて波を見つめていた。
 その横顔を見つめながら、ヴィンセントは胸に北風のようなものが吹き抜けるのを抑えられなかった。・・・あのシドの頭の中には、自分はいないのだ・・・。


「あなたの名前は?」
 ティファの質問に、シドはおびえながらも答えた。
「シド・ハイウィンド・・・あんたたちこそ何なんだよ?」
「お仕事は何してるの?」
「神羅飛空艇隊の士官候補生」
「・・・」
 ティファの背後で、みんなが目まぜした。
「年は、おいくつ?」
「・・・18。もうすぐ19・・・か」


 シドがタバコの味を覚えたのは、20歳前のころだと聞いていた。それは・・・正しかったわけだ。
 目覚めたシドはタバコを吸わなかった。
 そして・・・。
「シド」
 ヴィンセントは、おびえたように声をかけた。
「・・・?」
 シドはまぶしげに顔を上げた。そのしぐさは、いつものシドととても似ていたが、やはりどこかが微妙に違っていた。
「本当に忘れてしまったのか、私のことを・・・?」
「・・・ごめん、思い出せねえんだ」
 シドは頭を振った。
「おれ、18から後のこと、みんな忘れちまった・・・らしいな」
「・・・」
「32?32・・・って。まさか自分がそんなオヤジになるなんて、思ってもみなかったけど」
 シドはいまいましげに呟いた。
「それから、俺の夢だった宇宙行きが、ほんとにかなっちまったなんてよ・・・。なんか、わけわかんない・・・」
「シエラ・・・という女性のこと、覚えてるか?」
 ヴィンセントはそっと尋ねてみた。が、幸いにも、シドはかぶりを振った。
「・・・わかんねえ。何か、俺の大事な人の名前らしいけど」
「では、私は?」
「・・・ヴィンセント・ヴァレンタイン。だろ?」
 シドは顔をしかめた。その名だけは、みんなに説明されて知っていた。でも、自分にとってどんな存在であるのかは、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたのだ。
「あんた、俺の何だったんだ?」
「何だったと思う?・・・」


 ヴィンセントは、シドを抱きしめたかった。いつものように肩を抱いて、耳元にささやくだけで・・・いつものシドなら、それだけで腰も膝も砕けてしまって、ヴィンセントに身をまかせてくれるのに。
 しかし今のシドにそんなことをしたら、絶対に拒絶されてしまう。さげすまれてしまうような気がする。
 だからヴィンセントは、抱きしめ、押し倒したい衝動をじっと押し殺した。
 シドは黙ってまた海を見た。


 それにしても、シドが18歳にまで退行してしまったというのは、どういう訳柄なのであろうか・・・。
 ヴィンセントは眠れぬ夜を考え明かした。・・・やはり18歳までが、シドにとっては一番幸福だった時期なのだろうか。
 シドが士官学校の上級生たちに乱暴されたのは、18歳のときだったと聞いている。そして飛空艇隊に入隊してから、思い出すのも忌まわしい、プレジデントとのいきさつがあったのだろう。
 ヴィンセントも、もし戻れるとしたら、タークスに入ったばかり、あるいは入る前の頃に戻りたい・・・と思うだろう。その後の人生はつらく忌まわしいことばかりだったから・・・。
(つらい?忌まわしい?)
 ヴィンセントは身を起こした。
(・・・でも、そのことがあったからこそ、シドとめぐり会えたのではないか?)
 戻りたくはない。自分は、今の自分が一番幸せだったはずだ。
 それもこれも、シドの熱いハートのおかげではなかったのか。
 ・・・ヴィンセントはため息をついた。どんなことをしてでも・・・たとえ命と引き換えでも、シドを元に戻したかった。あの頭の中のどこにも、自分という人間が、自分と過ごした時間がなくなってしまったなんて、考えたくなかった。
(考えよう・・・何か方法はあるはずだ)
 ヴィンセントは、傍らのベッドで寝息をたてているシドの寝顔を、薄暗い中、そっとすかし見た。無防備で、美しい寝顔だった。
 抱きたい。
 でも、それだけはしてはならない。
 今力ずくでそれをしたら・・・自分はやつらと同じになってしまうではないか。かつてシドを傷つけはずかしめた連中と・・・。それは言いかえれば、自分がかつて受けたのと同じ苦しみであり、屈辱だったはず。この世で一番愛しいひとに、自分が受けてつらかったのと同じ痛手を与えることは、許されない・・・。
 だが、シドの唇、無防備な首筋、そして鎖骨のライン・・・。毛布と寝巻きにつつまれていても、ヴィンセントにはわかる、それから先の肢体・・・。しなやかな、なめらかな、だがオトナの重さをたっぷりと秘めた筋肉におおわれた身体、それから・・・。
 ヴィンセントはため息をついた。・・まあいい、自分はルクレツィアのことで20数年同じ苦しみをなめてきた・・・今さら少しくらいのことで動じたりはしない。
 それでも、やはり、ヴィンセントはつらかった。




 この後は、おそらく(・・・おそらく!)なまいき少年に逆戻りしたシドを、ヴィンがどうやって落としてモノにするかという展開になっていくでしょうが。
 ・・・しかし、はっきり言って「あ」はつらい。やっぱりわし、イキのいい、でも照れ屋さんの不良オヤジのシドが書きたいの☆
 早くシドが元に戻ってくれることを祈ります。
 とりあえず、ここまででも読んでくだすった貴女にチュッ☆


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