コスタ・デル・ソルの悪夢(2)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 05 日 02:20:50:

 前回のあらすじ:深海の神羅飛空艇にお宝あさりに来ていたクラウド一行。だが、正体不明のモンスターに刺されたシドが、意識不明の重傷になってしまった!シドの、そしてそれを案じるヴィンセントの運命や如何・・・。
 教訓:だからゴミなんかあさっちゃいけません・・・って、そしたらあたしの小説(=ゴミ)の立場はあ〜




 潜水艇をとりあえず一番近い街に・・・と思ったら、近場はコスタ・デル・ソルであった。
 と言うわけで一行は、とりあえずコスタ・デル・ソルのクラウドの別荘に、意識不明のシドを担ぎ込み、医者を呼んだのであった。
「これは・・・一種の麻痺毒のようですな」
 医者はシドを診察し、かたずをのんで見守る一行にそう告げた。
「命に別状は?」
「それはないでしょう。安静にしてれば、数日で毒が抜けて、意識も戻るでしょうが・・・その間は点滴をしときましょう」
「そうか・・・」
「意識が戻っても、一週間くらいは安静にしておいて下さい」
 医者は言って、点滴の設備を取りに戻っていった。
 一同は目にみえてホッとした。
「よかったあ〜、艇長死んじゃったらどうしよーとか考えてたよ」
「おどかしやがるぜ、チッ」
「ま、ボクらもここらでひと休み、としゃれこみまひょか」
 みんなは口々に言いながら、ぞろぞろと部屋から出ていった。
 ずっと付き添うつもりでいたティファだが、背後からヴィンセントに肩を叩かれた。
「ここは私にまかせてくれないか・・・?」
「え、ああ」
 ティファは振り返った。
「そうね、艇長も、ヴィンセントに付き添ってもらったほうが嬉しいかも知れないわね・・・」
 と、いつの間にか(シドの思惑は置いておいて)公認の仲になっている・・・。
 ティファが席をはずすと、ヴィンセントは、ティファが座っていた椅子に腰をおろして、じっとシドの寝顔を見つめた。
 少し苦しげに眉をひそめた、だが無防備な寝顔・・・。こんな寝顔、二人きりの時にも見せてくれたことがあったろうか。
 外では波の音が寄せては返し、寄せては返し・・・。アンニュイな浜風もぬるく吹き抜けて来る。
 ヴィンセントはため息をついた。シドを眺めているだけで幸福だった。無防備な唇や、相変わらずヴィンセントの心をそそる首筋の線や、・・・そんなものを眺めているだけで呼吸がせつなくなった。
「シド・・・」
 唇が名を呼ぶ。むろん返事はない。
 思わず唇に唇を重ねると、「ん・・・」とかすかな反応があった。少しは毒が抜けているのだろうか。
 ヴィンセントはそれに勢いを得て、さらに深く、タバコのにおいのする唇をむさぼった。舌を差し込み、さらにさらに深く唇を味わおうとした。
「ああ・・・」
 シドがつぶやいたのはその時だ。
「もう・・・もう許してください・・・ああ・・・」
「シド」
「プレジデント・・・できません、そんなことは・・・」


 ヴィンセントは、胸に水のように冷たいものが広がるのを感じた。・・・プレジデント、プレジデントだと?
 あの男・・・あの助平親父。
 怒りで目の前が赤くなった。・・・かつてはタークスだった・・やつの部下だった自分に、一生忘れられないような屈辱を刻み込んだ男だ。ある意味では、宝条より憎い男だった。その男が、まさか、シドにまで手を出していた・・・と言うのか。
 シドのことなら何一つ見逃してはいないつもりだった。シドが若い頃に先輩たちに乱暴されたことも、何もかも、ヴィンセントはお見通しのつもりでいた。
 だが、まさかプレジデントが・・・。いや、ありうる話だ。やつは昔から、少し見目のいい部下なら、男だろうと女だろうと、無差別に手を出していたのだ。
 若かったシドは、どんなに美しかったろう。どんなに輝いていただろう。
 年齢を重ねて、さまざまな痛手や経験をのりこえて来たシドは確かに魅力的だ。ヴィンセントはそれを疑ったことはない。だが・・・だがその一方で、何の苦しみも汚れも知らずにいた若い日のシドの輝きを思わずにはいられなかった。
 そのシドを、あいつは手折ったというのか。そしてシドは、そのことを夢に見るほど苦しんでいるのか・・・。
「シド、私だ、ヴィンセントだ」
「う・・・」
 ヴィンセントは耳元にくちびるを寄せてささやいた。
「かわいそうに・・・私にはわかる。私もあんたの屈辱は・・・」
「・・・!」
 シドは息を引いた。いったい夢の中で、どんな目に合わされているのだろうか。
「私も・・・同じなのか?」
 ヴィンセントは悲しげに呟いた。
「私も、あんたを傷つけはずかしめて来た連中と同じなのだろうか・・・」
「あ・・・いやだっ・・・」
「シド」
 ヴィンセントは、思わずシドの身体の上におおいかぶさって、唇で唇をふさいでいた。もうこれ以上何も聞きたくない。
「・・・私は・・違う」


 意識がないときのシドというのは、これだけ素直に感じてくれるのだろうか・・・。ヴィンセントが驚くほど、シドは従順で、素直だった。
 さっきまで悪夢にうなされていたシドは、今は無意識にもヴィンセントの背に両手を回し、肉体の感じるままに動いていた。
 熱い吐息も、体温も、いつものままのシドだ。
「シド・・・」
「・・・」
 シドは、ヴィンセントの名を呼ばない。ただわけのわからない叫びやあえぎをくり返すだけだ。
 それはそれでとても美しく、色っぽかった・・・が。
 不意にヴィンセントは、身を離し、顔を上げた。
「違う・・・違う!」
 ヴィンセントの声は悲痛だった。
「魂を持たぬ人形・・・そんなものはシドじゃない。私のほしいシドじゃあない・・・!」
 あの、誰より熱く、輝きを失わない黄金のハート・・・それがないシドなどは、ほしくない。
 ヴィンセントは今こそそう思った。自分を絶望と悪夢から救ってくれたシド・・・それはこんなシドじゃない。どんなに感じて、燃えてくれたとしても、そんなものは要らない・・・。


 それでもヴィンセントは、別荘から一歩も出ず、一睡もせずに、シドのそばに付き添い続けた。ティファやクラウドが心配して交替を願い出た時も、ヴィンセントは黙って首を振った。
 日一日と、シドの苦痛がやわらいでいくのが目に見えた。カーテンを開ければ光に反応するし、人の声やその他の刺激にも反応するようになって来た。
 いつしか、ティファも、ヴィンセントの背後の椅子に腰かけて、付き添いを手伝うようになっていた。
 3日目の明け方・・・である。
 一晩中起きていたティファは疲れ果てて、いつの間にか後ろのソファで眠っていた。ヴィンセントはティファに毛布をかけてやった。
 人間離れしたヴィンセントにも、そろそろ体力の限界が近づいているのがわかった。それでも彼は、さいごの体力を振り絞り、シドのかわききった唇を湿してやろうと、湯冷ましの入った吸い飲みを取り上げた。
 シドがゆっくりと目を開けたのは、その時である。
「・・・!」
 ヴィンセントは声を出さなかったが、表情に安堵と歓喜が広がった。
「・・気がついたか、シド・・・!」
 ぼんやりとヴィンセントを見上げる澄んだブルーアイ・・・。だがシドの表情には、いぶかしさと警戒だけがあった。
「シド、どうした・・・?」
「・・・誰だ、あんた?」
「え?」
「わからねえ・・・ここ、どこなんだ?」
 ヴィンセントの手から、吸い飲みが滑り落ちた。それは音をたてて割れ、床に水たまりを作った。




 ・・・意識のないシドを、鬼畜にやっちゃおうか・・・ともたくらんでたのですが、ヴィンちゃん、やってくれませんでした・・・どうも好みじゃないらしい。ストーカー君としては、意識のない身体を相手にするより、抵抗するシドを言葉と実技で燃え上がらせる方が(←退場!)。
 それはさておき。
 白雪姫転じて、やの字の王道・記憶喪失ネタに移行してしまいました。
 いったいどうなるんでしょう・・・(^_^;)。
 こんな作品でも、読んでくれた貴女には感謝のチュッ☆


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