ミッドガルのゲロ甘な完結編(6)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 9 月 03 日 10:43:52:

 ヴィンセントは黙っていた。シドはストレートを飲み干すと、
「・・・出るか」
「ああ・・・」
「勘定はオレがしてくから、外で待ってな」
 シドがカードをポケットから引っ張り出しながら言ったので、ヴィンセントは先にバーの外に出た。
 カードで勘定をすませ、さて出よう・・・としたら、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「え?・・・タークス!」
 レノの赤毛が目に入ったか入らないか・・・のうちに、レノの電磁ロッドが首筋に押し当てられた。
「・・・っ!」
 シドは音もなく倒れた。すかさずレノがその身体を支える。
「お客さん、どうしましたか」
 店のバーテンダーが、カウンターごしに身を乗り出してきた。
「なに、飲み過ぎたんだろう、と」
 レノはロッドを電光石火でしまいこみ、何食わぬ顔で言う。
「介抱したいんだが、と。裏口はどっちかな・・・?」

 
 5分待っても、10分待ってもシドは出てこない。・・・遅い。
 最初はトイレにでも寄っているのだろうかと思ったが、それにしても遅すぎる。気分が悪くなるほど飲んではいないはずだ。
 ヴィンセントは店の中に戻り・・・がく然とした。
 さっきまで自分とシドが飲んでいたテーブルに、スキンヘッドの巨漢が座ってウイスキーを飲んでいたのだ。
「・・・シドをどこへやった」
「オレの相棒が、裏口から連れていった」
「・・・!」
 足早に裏口へ向かおうとするヴィンセントの手を、ルードは掴んで引き留めた。ヴィンセントは黙ってその手を振りほどいた。無表情だが、振りほどく力の強さに無言の怒りがこめられていた。
「追っても無駄だ・・・レノは早業だからな。今ごろは」
「やめろ!」
「・・・どこに行ったか、教えてほしい・・・か?」
「・・・」
「きれいな髪だ」
 ルードの指が、ヴィンセントの黒髪を掴んで梳いた。ヴィンセントは身震いしそうになったが、耐えた。
「どうする?・・・何もきれいな黒髪はオマエひとりだけじゃない。オレは別に、どっちでも・・・いい」
 ヴィンセントは目を閉じてため息をついた。
「いいだろう。シドの居場所を教えると約束するなら・・・」


「ん・・・」
 意識を取り戻すと、自分が見知らぬ場所に連れ込まれていることに気づいた。シドは起き上がろうとしたが、身体全体が鈍くしびれていて、指一本動かすのがやっとであった。
「気がついたかな、と」
「レ、レノ」
 すでに自分はレノの腕の中にいる・・・逃げ出したくても身体が言うことを聞かない。
「ここは、どこだ・・・」
「気にしなくていいぞ、と。ホテル代くらいはオレが持つぞ、と」
「ちきしょう、身体が・・・言うことをききやがらねえ」
「これでも目盛りは最弱にしといたんだぞ、と・・・急いで済まさないと、いつあんたの相棒が来るかわからないからな」
「ヴィン・・・」
「もっとも、ヤツはオレの相棒とお楽しみ、かも知れないが・・・」
 レノは糸の切れたあやつり人形のようなシドの身体に、ゆっくり愛撫を加え始めた。身体は動かないのに、感じることはひどく感じてしまった。シドはびくっと反応しながら、
「や、やめ・・・!」
「思ったとおり、いい身体だな、と・・・。それに敏感だ、と。あいつに仕込まれたのか?それとも別の誰かに?」
「よせ・・・いやだ、やめろ」
「・・・いいじゃないかな、と・・・何も死ぬまであんたを束縛する気はないし・・・一晩やそこらお相手してくれたって、減るもんでもないんだぞ、と・・・」
 やばい、とシドはぼうっとした頭で思った。・・・レノ、うまい・・・。うますぎる。
 はっきり言ってテクニックだけなら、ヴィンセントより数段磨き込まれている。
 ヴィンセントは口達者というか、声美人というか、あの低くしめった声で耳元でささやくのが最大の武器で、シドは口説だけでもいかされてしまうことがあるくらいだ。ところがレノのほうは、身もフタもないと言えば身もフタもない愛撫で、的確にシドを攻め、じらし、緩急自在でシドを感じさせつつあった。
 かなり場数を踏んでいる、という感じがする。
「ああ・・・!」
 つい大きな声が出てしまう。レノはふっと冷笑した。
「態度のでかいわりに、だらしないぞ、と・・・」
「あ・・・」
「・・・しかしおいしそうな身体だぞ、と・・・それじゃそろそろ、食わせていただくとしますかな、と・・・」


 ルードに案内されたのは、裏町の小さないかがわしいホテルであった。ルードはネクタイをほどき、シャツのボタンをはずしながら、
「酒でも飲むか?」
 と意外と優しい。だがヴィンセントはかぶりを振った。
「いや、いい。早くすませて、シドの居場所を教えてくれ」
「ムードのない話だ・・・まあいいだろう」
「一度だけだぞ」
 ヴィンセントは念を押し、自分からマントをはずした。服を脱いだり脱がせたりなど、はっきり言って時間の無駄だ。
 ルードがヴィンセントの細首を抱き寄せる。酒臭いルードの吐息を感じると、覚悟はしていたが、ため息が出そうになった。
 ・・・が、唇が触れそうになった時、ヴィンセントの人間離れした聴覚が、かすかに隣室の物音をとらえた。
「ヴィン・・・ヴィンセント・・・!」


 シドは乱れてしまっていた。燃えたくないのだが、レノの緩急自在のリズム運動にじらされ、燃えあがらされ・・・どうしていいかわからないくらい感じてしまった。
 しかし、だからと言ってレノの名前など、死んでも呼びたくない。そう思うと、ヴィンセントの名が自然に口から出た。
 レノはシドを揺り上げながら苦笑した。
「けなげなおっさんだぞ、と・・・ま、他の男の名前を呼び続けるような相手を泣かすのも、これがまたなかなか・・・」
「て、てめえより・・・ヴィンセントの方が、よっぽどいい・・・あああ!」
「・・・意地っ張りだぞ、と。ほらほら、こんなに感じてるくせに・・・と」
「く・・・!」
 壁を破ってヴィンセントが現れたのは、その時だ。変身していなかったが、怒りのガントレット・パンチで壁をぶっ壊したらしい。
 隣室で、ルードがぶっ飛ばされて気絶していた。
 ヴィンセントは銃を構えて、レノに狙いをつけた。
シドから離れろ
 静かだが怒りをこめた口調に、レノは舌打ちした。しかしそれでも動きはやめないし、離れようともしない。
「野暮なこと言うなよ、と。もうちょっとで終わるんだから」
「頭を撃ち抜かれたいか」
「ちっ」
 レノは最後の腹いせにか、シドの首筋に長いキスをくれてから、やっと身体を離した。シドはベッドにどさりと投げ出された。
 シャツを取り上げて羽織ったレノを、ヴィンセントはガントレットの手で殴り飛ばした。
「オレに・・・殴らせろ」
「もう気絶してるよ」
 ヴィンセントはシドを抱き上げ、シーツをかぶせながら言った。
「大丈夫か、シド。何をされたんだ」
「ロッドでやられちまった・・・油断したよ」
 ヴィンセントは仰天した。シドが・・・甘えるように、頼るように、自分の胸に頭をもたせかけて来たからだ。
 ヴィンセントはシドの頭を抱きしめた。
「・・・わたしの名を呼んでいたな」
 胸をいっぱいにさせながらヴィンセントが言った。
「ふ・・・」
 シドはもうつべこべ言わなかった。自分の敗北なのだ。
 ただ、自嘲みたいな笑みが、口元にのぼって来た。


 その次の週・・・である。
 神羅本社ビルのロビーで、何年ぶりかに空軍士官の制服に袖を通したシド(ただしネクタイ、シャツの第一ボタンはゆるんでいる)煙草をふかしながら待っていた。
 やがてエレベーターが着いて、四人の男女が降りてきた。・・・いつもの赤マント姿のヴィンセント、そして何と、私服姿のタークス・トリオである。
 私服と言っても、三人ともスーツ(イリーナはスカート)だし、レノはいつもの調子でラフに着崩していたから、あまり印象は変わらないのだが・・・。
 シドは煙草を灰皿に投げ込み、立ち上がった。ヴィンセントはほほえんだ。
「見送りに来てくれたのか」
「・・・まあな」
「・・・後からすぐ行くから、先に行っててくれ」
 三人を振り返って言うと、なんと、イリーナはともかく、あの一筋縄では行かないレノとルードまでが、何も言わずに言う通りにした。シドは口笛を吹いた。
「大したもんだな、新リーダーさんよ」
「・・・」
「しかし、お上の目の届かないとこで、オマエに悪さしたりしねえかな」
「心配してくれるのか」
「・・・調子に乗るなよ。このくらいの心配、誰だってするんだからな」
 シドはまだ意地を張った。しかしヴィンセントはもう悲しそうな顔も、傷ついた様子も見せなかった。
「大丈夫だ、シド。・・・この先私を抱く者がいるとすれば、それはあんただけだ」
「・・・」
「シエラさんのことも・・・彼女を呼びたければ呼ぶがいい。私はもう気にしない。たとえどんな邪魔が入っても、あんたは私のものだ・・・と分かったから」
「・・・誤解かもしれねえよ、それは」
 ヴィンセントはもう何も言わず、温かくほほ笑んだ。そんな意地っ張りなシドが愛しかった。
「制服は着ねえのか?」
 シドはあわてて話題を変えた。
「ああ、コレルの人々は、神羅の制服をいやがるだろうから・・・ケット・シー・・・いや、リーブ社長に許可をとって、私服にしておいた」
「あのバレットが、神羅になんぞ協力するわきゃねえと思ってたけど・・・。オマエなら成功するかもしれんな」
「分かってくれるさ、新しい神羅は、以前の神羅とは違うと・・・あんたも復帰したことだしな、艇長」
「やれやれだぜ、せっかくのんびりしてたのにな」
 シドは口ほどにはこたえていない顔で言った。
 イリーナが戻ってきた。
「ヴィンセントさん、車が来てますよう」
「わかった。・・・じゃシド、行くよ。来週には戻るから・・・戻ってきたらまた飲もう」
「ああ。バレットによろしくな」
「ふ・・・次に戻る時には、彼もいっしょさ」
 ヴィンセントは、静かだがしっかりした足取りでイリーナとともに出ていった。それは、過去の悔恨から、呪縛から解き放たれた人間の自信が確かに感じられる足取りだった。
 それを見送ったシドは、シャツのボタンをしめ、ネクタイを結び直しながらつぶやいた。
「さて、オレも仕事だ。・・・忙しくなりそうだな」
 階段の上から、ユフィが「艇長〜」と呼んでいた。シドはもう振り返らずに、自分の新しい道に向かって歩き出した。




 おお、意外と明るい終わり方☆ よかったよかった。ほっ。
 暗くて陰気でストーカーなヴィンセントが好きという方にはごめんなさい・・・なラストかな?
 でもこれでみんな幸せになったのだ(シエラ、ごめん・・・)。
 やっぱり男性は(受でも攻でも)仕事、または何かの生きがい(人間関係以外の)に燃えるのが一番魅力的・・・と思う私らしい終わり方だと思います。
 
 でもやっぱりストーカーなヴィンもうちょっと書きたいんで・・・時間をさかのぼった話、また書こう・・・かな。書いてもいいですか・・・?

 今回も読んでくださってありがとう☆ さあ次は二回目の反省文・・・ダ。


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