Happy Birthday To MAMI(1)
壮大なる(?)プロローグ


投稿者 しほ 日時 1997 年 9 月 01 日 18:25:50:


 はっぴばーすでぃとぅMAMIちゃん!
 あなたとのつきあいの長さを表すかのように、気合いが入りまくって長くなってしまいました(笑)。よって、前後編に分けさせていただきます。
 前半はヴィン×クラ、後半はセフィ×ヴィンと、二つの味が楽しめます。しかし内容はやりっ放し(汗)。MAMIちゃんにふさわしくてイイかも。ははは…


 ひそやかな夜の帳が辺りの景色を覆い尽くす。そうして訪れた闇は、すべての者に平等に、眠りをもたらそうとする。その静かな闇の中、秘められた息遣いが、冷たい空気を震わせていた。
「…っ…あぁ……」
 甘い吐息が、紅い唇の間から漏れる。乱れた金の髪の下、閉じられた瞼が、疲れたように蒼く染まっている。その瞼にそっと口付け、ヴィンセントは自分の下で喘ぐ細い体をしっかりと抱きしめた。
「ヴィンセント…っ!」
 切なげに呼ぶ声をに応えるように、ヴィンセントはクラウドの中で己を解放した。その瞬間、クラウドは、糸の切れたマリオネットのように、がくりとベッドに沈み込む。荒い呼吸を整える間、ヴィンセントはクラウドを腕に抱いたまま、少し癖のある金髪を何度も優しく漉いた。
 クラウドは、気怠い体をヴィンセントに摺り寄せる。潤んだ青い瞳がヴィンセントを見上げ、縋るように視線を据えた。
 行為の後、クラウドは決まってこんな風に、頼りなげな子供のような表情をする。普段の彼ならば決して見せないこの顔に、ヴィンセントは魅せられたといっていい。他の誰にも見せない、自分にだけ見せてくれるこの幼い表情を、誰にも渡したくはなかった。
「ヴィンセント…」
 甘えるように囁く声。他の仲間といる時には絶対にこんな響きの声など出さない。それが、他でもない、自分だけのものなのだと思うと、ヴィンセントの胸に愛しさが込み上げる。
「疲れたか?」
「ん…」
 ヴィンセントの胸に頬を寄せ、安心しきったように目を閉じるクラウドを、ヴィンセントは優しく、けれど強く抱き寄せる。
 いつのころからだろう、こんな関係に陥ったのは。きっかけは単純なことだったのかもしれない。けれど一つだけいえるのは、クラウドとヴィンセントが、互いにその行為を必要としていたという事だ。それは、慰めでも同情でもなく、ただ、互いが相手を必要としあっていた、それだけの事。
 単なる欲望の処理だけの行為では、決してない。そこには確かに快楽も存在する。しかし、もっと深いところで触れ合う事を、彼らは望んだ。
「…クラウド? 眠ったのか…?」
 腕の中の小さな寝息を聞き取って、ヴィンセントはその頬にキスを送ると、体を起こした。ようやく眠りにつく事ができたクラウドを起こさないように注意を払いながらベッドを降り、手早く服を身につける。今夜は満月。あまりに降り注ぐ月光が美しすぎて、すぐに眠ってしまうにはもったいない夜だ。
 クラウドは眠る事をひどく怖れていた。夢の中に身を委ねる事を、いつからか拒絶するようになっていた。眠りは安息をもたらす。だが、その安息を貪る間、人はこの上なく無防備になる。クラウドは、そんな無防備な自分を晒す事を、何よりも恐れているのだ。
 誰に? ―――あの男に。
 ヴィンセントは、だからこそクラウドを抱いた。素肌を合わせ、強く引き寄せて、孤独を癒し、決して一人ではないのだと語りかけ。そしてだからこそクラウドは、行為そのものでなく、ヴィンセントの腕を欲した。肌の触れ合いが、彼を再び眠りへと誘った。こうして抱きしめられ、囁かれて、そうしなければクラウドは、眠る事すらできないのだ。
 あの男をその手で葬った時、クラウドは眠りを手にすることができるのだろうか。例えそうだとしても、ヴィンセントはクラウドを手放すつもりはなかった。呪縛から解放された彼を、この腕に抱きしめて、共に眠りにつきたい。あの男はもういないのだと、寝物語のかわりにその耳に囁きかけて。
 クラウド以上にあの男―――セフィロス―――の戒めに囚われているのは、ヴィンセントの方なのかもしれなかった。


 土の上に足を降ろした時、湿った音がした。夜露のせいかもしれない。少し水気を含んだ土が、ヴィンセントのブーツから足音を奪う。
 足元に落ちた影が、長く伸びている。不意にその影が周囲の闇と溶け合った。月が雲に隠れたのだ。
「…いつまで隠れているつもりだ」
 低い声で、ヴィンセントは問いかけた。星の光だけでは、その姿を捕らえることは到底不可能だ。それでも彼は、迷いもなく、立木の蔭に鋭い視線を据えた。マントの下の右手で愛用の銃を構え、ヴィンセントは侵入者の出現を待つ。
「まさか気配を読まれるとはな…いつから気づいていた?」
「最初から」
 男は少なからず驚いた表情を作ったらしい。が、闇の中ではその顔をはっきりと読みとることはできなかった。
 一陣の風が吹き抜けた。その風は、月を隠す雲を払い、月光が向かい合う男達の姿を照らし出した。一人は黒髪、そしてもう一人は、月明かりによく映える美事な銀の長い髪―――
「…セフィロス…」
 ヴィンセントのうすい唇から、苦痛を伴った呟きが漏れた。その名を口にすることは、彼にとって―――彼とクラウドにとって、既に苦痛だったのだ。
 セフィロスの銀の美貌に薄く笑みが浮かぶ。
「人の情事を覗くとは、悪趣味極まりないな」
「私が見ていることを知ってもなお行為を止めないのと、どちらが悪趣味かな」
 くっくっと喉を鳴らすセフィロスを、ヴィンセントは真正面から睨み付けた。燃えるような紅い瞳が、冷めた碧の瞳を射る。決して相容れず混じり合うことのない、対照的な色の眼が、無言の威圧を互いに与えあっていた。
「…ひとつだけ、聞きたいことがある」
 沈黙を破ったのは、ヴィンセントの方だった。彼は、マントの下で銃を静かに構えたまま、セフィロスと向き合う。
「何故、クラウドの前に姿を見せない?」
 セフィロスは、唇を微かに歪めた。確かに先刻とは違う表情、だがそこからは、何一つ読みとれない。
「…それを聞くのか? お前が」
 何かを含んだ物言いに、ヴィンセントの眉が密かに寄る。
 本当ならば、こんなことは、心に思うことすら憚られることだった。ヴィンセントに抱かれながら、クラウドが誰を思っているのか、彼は知っていたから。ヴィンセントを求め、縋り付くクラウドの腕が真に欲しているのは、目の前のこの冷え切った眼を持つ男なのだと、ヴィンセントは初めてクラウドを抱いた時から知っていた。それでも彼は、クラウドを突き放すことはできなかったのだ。それは、クラウドの為というよりは、自分のエゴのため。もう二度と愛しい者を失いたくないという恐れからだった。
 それ故に、クラウドに求められながら、彼の前に現れないセフィロスが憎かった。
 自分を見失い、操られるがままだったクラウドを、何度も己の都合の良い方向へ誘っていたくせに、彼が自分自身を取り戻した途端、セフィロスは姿を消した。全てを思い出したクラウドが、どれほどセフィロスを、憎しみの感情以外の強さで求めていることを、知っているに違いないのに。
「答えろ。何故だ」
 きつい眼差しを微笑でかわし、セフィロスはヴィンセントの背後の建物の2階―――クラウドが眠りを貪っているであろう部屋の窓を見上げた。
「あれは、放っておいても私の元へやって来る。そういう運命なのだ」
 運命。
 以前は信じていた。だが今は、運命は変えられるものだと信じている。それを教えてくれたのは、クラウドであり、共に旅を続ける仲間だった。軽々しく運命などという言葉を使うのは許せない。ましてそれが、クラウドを導くものならばなおのこと。
「あの子は私のものだ。私だけの、可愛い人形なのだよ」
 セフィロスの静かな物言いに、ヴィンセントは言いしれぬ違和感と怒りを覚えた。それ程に所有を主張するならば、何故迎えに来ない。何故、クラウドが他の者の手に抱かれることを許すのだ。
 ヴィンセントの視線から、彼の思惑を感じ取ったように、セフィロスは再び唇の端に微笑を―――わずかな苦笑を―――浮かべた。
「今日のところは、お前に挨拶をしに来ただけだ。あの子が随分と世話になっているようだからな」
 答えずに、否、答えられずにいるヴィンセントを後目に、セフィロスは彼に背を向ける。まるで、ヴィンセントなど眼中にないのだと言わんばかりに。
「あれがお前の腕を望むならば、くれてやるがいい。そうして、確実にあの子を私のところまで導くのがお前の役目だ」
「……」
「忘れるな。お前もまた、ただの人形にすぎない…」
 振り向きもせず、セフィロスは歩き出す。自分にに背中を晒すセフィロスを、今ならば倒せるだろうか。―――しかし、ヴィンセントは動けなかった。無防備な筈の背から発せられる、逆らい難いオーラの前に、彼は屈したのだ。今のままの自分では勝てない。ヴィンセントは、素直にセフィロスの強さを、そして同時に自分の弱さをも認めた。
 去って行くセフィロスの静かな忍び笑いが、いつまでもヴィンセントの耳の奥にこびりつき、消えることはなかった。


 確実にカウントダウンは進んでいる。メテオがこの星に衝突し、世界を暗黒で覆い尽くすまであと―――
 それでも、クラウドはまだ迷いを隠せずにいた。
 進む事しか道は残されていない。セフィロスが待つ、あの大空洞の奥深くへ。一度は突入した。これで全てを終わらせる、そのつもりだった。けれどクラウドは戻ってきてしまったのだ。すぐ側で手招いている筈のセフィロスに背を向けて、彼は大空洞を後にした。
 畏れている、と言われれば、否定できない。
 仲間は誰一人その事を責めない。それどころか、もう一度大空洞へ行こうと、クラウドの口からその言葉が発せられるのを待っている。クラウドには、それが辛い。
 逃げることはできない。わかっている。行かなければならない。それもわかっている。あそこへ行かなければ、この星を、エアリスの想いを救えない―――
 そして、今日もその言葉を言えないまま、夜が来る。


 部屋のドアを閉めると同時に、ヴィンセントはクラウドを後ろから強く抱きしめた。戸惑いを隠せず、息を呑むクラウドの項に唇を寄せ、手はクラウドの服越しに、体のラインをゆっくりとなぞる。
「…ヴィン…セント…」
 ヴィンセントの手がベルトにかかった時、クラウドはやっとの思いで抗議の声を上げた。けれど彼の手は止まることなく、クラウドの体を覆う邪魔なものを取り去って行く。
「んっ…」
 頭だけを後ろに捻られて、苦しいキスを交わす。右手はシャツの下に滑り込み、クラウドの胸を飾る突起を弄んでいた。そしてガントレットを外した生身の左手は、押さえる必要のなくなった項を解放し、脇腹から細い腰へ、腰から更に下を目指して蠢く。深い口づけを外した紅い唇からは、既に掠れた喘ぎが漏れ始めていた。
「…や……ヴィン…いきなり、こんな…」
 ヴィンセントは無言でクラウドをベッドへ運ぶ。柔らかなクッションに埋もれるように沈み込むクラウドの上に覆い被さり、彼の白い顔を見下ろした。既にうっとりと閉じかけている青い瞳を、愛しげな眼差しで見つめ、瞼に軽く口づける。そして、反応し始めた若い体に、存分に手を、唇を這わせた。
 早急な愛撫は、クラウドにとっては辛いものになるかもしれない。けれどヴィンセントには急ぐ理由があった。
 セフィロスはきっと今夜もやって来る。
 それは、予感でしかない。が、ヴィンセントにとっては、確信よりも確かな予感だった。
「あ…ヴィンセント…っ…」
 自分の名を呼ぶクラウドが愛しい。今、彼を抱いているのは確かに自分なのだと、クラウド自身が認めてくれている。そう思うことは、ひどく淋しい事だけれど。
―――セフィロスには渡さない―――
 クラウドと触れあっていた頃のセフィロスが、どんな風だったか、ヴィンセントは知らない。けれど、今のセフィロスは違うと言い切れる。そんなセフィロスをクラウドに会わせたくはなかった。
 クラウドをこれ以上傷つけたくはない。今までも充分傷ついてきた。悩み、苦しみ、自分を捜し求めて、自らを追いつめて。そのクラウドが、今セフィロスと出会ってしまったら―――?
「ヴィンセント…もう…っ……!」
 クラウドの声に誘われ、ヴィンセントが己を解放すると同時に、クラウドも張りつめた精を放ち果てた。
 力の抜けた体を優しく抱き寄せ、クラウドの金髪をそっと撫でる。クラウドは髪を梳かれるのが好きらしく、ヴィンセントの胸に頭を寄せて、彼の手をねだった。
「…びっくりした…いきなりだったから…」
 ヴィンセントは答えず、クラウドの汗ばんだ額にそっと口づけた。
「何か、あった…?」
「何もない」
 まっすぐに見上げてくる瞳に笑いかける。クラウドはようやく安堵したように、ヴィンセントに体を擦り寄せ、眼を閉じた。
「今は、何も考えずに眠ることだ」
「うん…」
 腕の中の温もりを確かめるように、クラウドの細い身体に腕を回す。程なく、静かな吐息が、寝息に変わり始めた。
 夜が静かに帳を降ろし、静寂が辺りを支配する。この世のものならぬ者が目覚め始める気配。
 ヴィンセントは、クラウドの寝顔を確かめ、そしてゆっくりと体を起こした。


 はいっ、お楽しみいただけましたでしょーか。後半へ続くっ!!


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