ロケット村の平和な日々(2)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 8 月 31 日 03:50:23:

 タークスの3人が、「上海亭」(ロケット村唯一の酒場兼宿屋)に宿をとった時には、村は、そろそろ冬支度を始めようという頃であった。
「・・・やっぱり田舎はいいですね。こんな季節の移り変わり、ミッドガルにいたら、全然わからない・・・」
 イリーナは、どっちにしろ返事してもらえないか、笑われるかを承知で呟いた。ところがレノは肩をすくめて、
「冬に入る前に、こんな仕事は終わらせたいぞ、と」
「んもう・・・」
 イリーナはプンとふくれた。
「あたし、偵察して来ます」
「テキに気取られるなよ、と」
「分かってます」
「気取られてもいいが、また余計なこと喋るなよ、と」
「・・・」
 イリーナはもう何も言わず、宿屋から出ていった。
「さて、どうする?」
 ルードが重い口を開いた。
「どうもしない、と。イリーナの偵察待ちだぞ、と・・・。メテオが消えてからそろそろ3月か4月になる。飛空艇のシドが、そんなにいつまでも何もしないで村にくすぶっていられるわけがないぞ、と・・・」


 ・・・レノの言った通りであった。
 平穏な日々であったが、シドはそろそろしびれを切らせていた。
「・・・艇長、はい、お茶」
「おう」
 食後、煙草をふかしながら新聞を読んでいたシドの前に、シエラが紅茶を入れて運んできた。
「・・・平和だなァ。いや、平和すぎる・・・。このままじゃ体も心も腐っちまいそうだぜ」
「平和が一番じゃないですか」
「そうなんだけどよ、確かによ・・・。しかし、こう何にもするコトがなくなると・・・」
「あら、することなら一杯ありますよ。庭の木の雪囲いでしょ、それから、二階の棚吊りでしょ・・・」
 シドはもう言わずに深ーいため息をついた。
 むなしすぎる・・・。確かに平和のために戦ったけれど、そして、シエラのためにここに戻って来た自分だけど・・・。
 平和になってしまうと、自分みたいな男は、ほんとに世に無用になってしまうのかも・・・とシドは少し、いや、かなり寂しかった。以前はそれでも「いつかロケットを飛ばすんだ」という目的があり、そのためにする仕事は幾らでもあったのだが、今はもうそれさえもない。当分生活には困らないようにはなっているが、こうも何もすることがないと、本当に腐ってしまいそうだ・・・。
 顔こそおやじくさいが、まだシドは若いのだ。隠居してしまえる年齢ではなかった。
「ヴィンセントの奴はどうしてる?」
「庭の方、手伝ってもらってますけど・・・」
 世が世であればタークスの凄腕ガンマンが、庭木の雪囲い・・・。まあ、そこが平和のいいところなのかも知れないが・・・。
「どれ、それじゃ俺も少し体を動かして来るか」
「お願いしますね」
 シドは新聞をたたみ、庭に出た。
 タイニィブロンコが壊れてから、見違えるようにすっきりしてしまった庭で、ヴィンセントが黙々と雪囲いを作っていた。マントなんぞは邪魔になるので脱いでしまって、ずいぶん身軽な格好である。シドがそばに来ると、ヴィンセントはちらりと顔を上げた。
「荒れたなァ、お前も・・・」
 シドは苦笑した。
「そんなことはない、私は幸せだ・・・。今は毎日あんたのそばにいられる」
「・・・」
 最近シドはヴィンセントを見るたびに「すとーかー」という不吉なコトバを思い浮かべてしまうのだが、それは言わないでおいた。
「がっかりしたんじゃねえか、平和になるとぜんぜん役立たずな男だからな、俺はよ」
「・・・それは私も同じことだ・・・」
「あああ・・・。みんな、どうしてるんかね?それとも俺らだけだろうか、こんなに体をもてあましてるのは・・・」
「シド」
 ヴィンセントは、手を止めて呟いた。
「二人でどこかへ行かないか」
「どこかって・・・温泉にでもか」
「そういうことじゃなく」
「・・・」
「あんたも私も、いつまでも一つ所にとどまれるような人間ではないらしい・・・。何かを探しに旅に出ないか」
「お前と、か」
「私と。いやか」
「・・・」
 いっそそうできたら、とシドはかなり心が動いた。しかし・・・。
「・・・やめとくよ。シエラが可哀相だ」
「・・・ここにとどまって、彼女とともに平穏な毎日を過ごす・・・それが本当にあんたのしたいことなのだろうか・・・」
「・・・」
「待ってるよ。あんたはいつか必ずその気になるだろう・・・」


「飛空艇のシドが、庭仕事とは・・・お笑いだぞ、と」
 イリーナの報告を聞いたレノは、にやにやと相棒の顔を見た。
「しかも、あのタークスの大先輩まで一緒とは、おあつらえ向きだな、と。探す手間が省けたぞ、と」
「・・・」
「どうします、先輩たち?」
「明日にでも接触してみるか、と・・・。とりあえず今夜は疲れたから寝るぞ、と・・・いいよな、ルード?」
「・・・」
「けど、あんまりぐずぐずしてて、いいんですか?」
「相変わらずせっかちだな、イリーナ、と・・・。田舎はいいって言ったのはお前さんだぞ、と」
「・・・久しぶりに何かうまいものを食って、ゆっくりするか・・・」
「んもう、ルード先輩まで。ほんっと、先輩たちって、変わりませんよねー」
 イリーナは余計な一言を言い、それでも休めるのは嬉しいのか、自分用にとった部屋へ戻っていった。
 部屋に二人になったレノとルードは、わけありの視線をからませ合った。
「・・・久しぶりだな、と」
「・・・二人きりになりたかった、レノ」
「俺もだぞ、と」
 コトバの割に軽々しい口調で二人は言い、抱き合って唇を交わした。
 二人が恋人同士になったのは、いつ頃からだろうか・・・。タークスの同僚として、パートナーとしてつきあううち、いつしか二人はこういう仲になっていた。レノにとっては、初めは数多くのベッドの相手の一人・・・にすぎなかったルードだが、仕事でいっしょのことが多かったせいか、気が合ったのか、中でも特別の男であった。
 タークスに抜擢されてすぐ、当時まだ健在だったプレジデントのお相手をおおせつかったのは、もう何年前のことになるか。
 もともとの素質があったのか、レノはすぐに味を覚えてしまった。それと同時に、もともと希薄だった貞操観念や道徳観は、どこかへ消えてなくなってしまったらしい・・・。なにしろプレジデントと来たら、乱脈もいいところで、レノが唯一信頼していた上司のツォンをはじめ、ルードも、その他も、男でも女でも、若くても中年でも、とにかくちょっと見てくれや体のいい部下には、かたっぱしから手をつけていたからだ。
 ツォンまでがプレジデントのお相手の一人だったことを知った時は、それでもショックだったレノだった。少しは、あのときは道徳観というものが残っていたらしい。あの物静かで冷静で、タークスでも唯一尊敬に足ると思っていた人物だったから、衝撃はひとしおだった。それでレノの道徳観は完全に崩れてしまった。
 それからのレノは、プレジデントにかなり似た恋の生活を送るようになった。プレジデントほどの絶倫ではないが、やっていることはほとんどその縮小版という感じである。ルードとのつきあいも、要するに、数ある遊び仲間の一人ではある。ただ、その中でもかなり親密で長く続いているだけのこと・・・。
「・・・今夜は俺が上だぞ。いいな、レノ」
 レノの細い体をベッドに押し倒しながら、ルードが言った。
「好きにしな、と・・・」
 ルードのシャツを脱がせながらレノは、誘うように喉をそらして笑った。


「・・・どうした?ヴィンセント」
 急に仕事の手を休めて立ち上がったヴィンセントを、シドはけげんそうな顔で見つめた。
「タークスが来てる・・・」
「え?」
「わかるんだ・・・、前にあいつらから感じたなまぐさい空気が・・・」
「まさか!」
「・・・いや、本当だ」
 そういえばヴィンセントは、敵の出現には敏感だった。モンスターがひそんでいる時、誰より早くそれに気づいて警告を発したのもヴィンセントだし、海底に沈没した飛空艇でも、神羅ビルの地下道でも・・・タークスがいることをいつもまっ先に感じ取ったのは彼だった。
 やはりヴィンセントには、ふつうの人間にない特殊な能力や感覚があるのだろう・・・。シドはすぐに信じた。
「だとしたら、奴らいったい・・・」
「わからんが・・・。とにかく、身を隠したほうがよさそうだ」
 内心(大らっきー)と思ったかどうかは分からないが、ヴィンセントは提案した。だが、シドもそれに異議を唱える気はないようであった。



 今夜はここまで。さあ、いったいどうなっちゃうんだろう・・・(ここまではとりあえず構想通り☆)。
 読んでくださった貴女には、感謝感謝の雨アラレ、です。ありがとうございました。


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