ロケット村の平和な日々(1)


投稿者 あぐり 日時 1997 年 8 月 30 日 06:32:14:

 さて、行き当たりばったりシリーズ第3弾、始めさせて頂きたいと存じます。いちおう構想はありますが、書いていくうちにどう転がるか、それは神のみぞ知る・・・。
 それでもよければ、読んでやって下さい。




 数カ月ぶりに戻るロケット村は、もう秋の気配が漂い始めていた。
 村を囲む平原も、その背後に連なる山々も、秋風をはらんで色づき始めている。
 村の入り口で、シドはため息をつきながら空を見上げ、バッグを足元に落として、とりあえずタバコを取り出した。
 ロケットが消えた村・・・なんだか落ち着かない風景・・・。もう十年近くも見続けてきた神羅26号・・・。
 年甲斐もなく(?)胸がドキドキして、まるで十代のガキみたいだ・・・と自分で思う。もう間もなく自宅に着いてしまうのだ。シエラはどんな顔をするだろう・・・。そして、ああ、俺はどんな顔をしたらいいんだろう。
 大空洞に突入する前、シドは決めていた。・・・セフィロスとメテオを片づけて、もし生きてここから出ることが出来たら、飛空艇を降りよう、そして村に帰ろう、と。それはシエラのため。自分の感情のやりばのないまま、十年近くも悲しい想いをさせてしまった償いをするのだ・・・。
 だからシドは、突入前、クラウドが「みんな、一度解散して心を決めてから戻って来てほしい」と言った時、あえてシエラの元には戻らなかった。大空洞に入ることは、彼は、誰が何と言おうともう決めていたことだからだ。なまじ顔を見せにでも戻って、もし生還できなかったら、シエラによけいな希望を与えてしまうだけではないか。それは、シドの美学からすると、とんでもないことだった。
 と、同時に・・・。
 シドはタバコの煙にまぎらせて、深いため息をまたついた。
 ここへ戻るために棄てて来てしまった、黒髪、赤目の美しい青年のことが、心の隅で針となって、ちくりとシドの胸を刺した。


 大空洞突入前の最後の夜、シドは、どこにも行き場のないヴィンセントと2人、近くの町の酒場で飲み明かして過ごしたのだった。
「なあ、この戦い、もし生きて帰れたら・・・オマエはどこへ行くつもりなんだ?」
 酒瓶を間に置いて問いかけたシドに、ヴィンセントは答えなかった。ただ、じっとシドの顔を見つめていた。
「・・・オレはもう決めてるんだ。村へ帰ろうって・・・前から言おうと思ってたんだが・・・」
「・・・シエラさんのもとへ・・・か」
「・・・」
「それもいいだろう・・・」
「おい、ヴィンセント・・・」
「・・・わかってる。あんたはそういう人だよ。だからこそ惚れたのだから・・・」
 ヴィンセントは顔をそむけた。その寂しげな横顔に、シドは胸がしめつけられた。・・・今までのいきさつからして、そんなことを切り出そうものなら、後で何を言われるか、どんな目に合わされるか分からない。そう覚悟していたのに、意外にしおらしい反応に、シドは面食らってしまった。
 この奇妙な人間力学。追えば逃げられるが、逃げられるとこちらが追いたくなる。
 だがシドは心を鬼にすることにした。男が一度決めた事、そんな簡単にくつがえせるものではないのだ。
「すまん・・・」
「何もあやまることじゃない。あんたに惚れたのは、私の勝手だ・・・」


 ・・・回想しながら歩いているうち、とうとう来てしまった、自宅の前。
 シドは襟を正した。村の入り口で会ったむかしの部下たちが、たぶん艇長の帰還を触れて歩いているだろう。シエラの耳にもそれは届いているはず。シエラはどんな顔して出迎えてくれるだろうか。何と言うだろう。そしたらオレは、何て言えばいいんだろう・・・。
 熱血漢だがひどい照れ屋のシドは、心臓をばくばくさせながら、ドアに手をかけた。そして、思い切って押し開いた。
「ただいま・・・」
「お帰り、シド。遅かったな」


 ・・・。
 ・・・。
 ・・・。

 
「な、何でオマエが、こっ、ここにいるんだああああ!」
 一瞬、何かの間違いじゃないかと思った。間違って、ハイウィンドに帰って来ていたのではないかと。
 なつかしい自宅には、色気のないメガネにひっつめ髪のシエラと向かい合って、なぜか、別れて来たはずのヴィンセントの長身がすわっていたのだ。
 バッグを取り落として詰め寄るシドを引き留めたのは、シエラだった。
「まあ艇長ったら、しばらくぶりに帰ってきた第一声がそれなの?」
「あ、う、う」
「迷惑だろうとは思ったが・・・。私には、行く場所がどこにもないのだ・・・」
「・・・」
 それを言われるとヨワい。それにしてもヴィンセントに先回りされるとは・・・何という不覚。
 シドがさんざっぱら迷い、ためらい、行きつ戻りつしながら帰ってきたのは何のためだったのか。まんまとヴィンセントに、ジャマされるスキを与えてしまっただけではないか。年甲斐もなく純情ぶったのが間違いのモトだった。
「いいじゃないですか、2階も空いてることだし・・・お世話になった方を放り出すのは薄情だわ」
「シエラよう、オマエは、そういう心がけだから・・・」
「でも帰ってきてくれて本当によかったわ、艇長。今夜は艇長の好きなもの、たくさんたくさん作りますからね☆村のみんなも呼んで、パアッとやりましょう!」
 シドはもう何も言わず、深いため息をついた。


 その夜は、村の英雄の帰還を称えて、村を挙げてのドンチャン騒ぎとなった。黙って黒い影のようにその片隅に出席していたヴィンセントにも、村人たちは温かかった。
「シド・・・艇長ったら、今だから言いますけど、本当にひどかったのよ」
 シエラはふふふふと笑いながら、幸せそうに言った。
「あたしに対するあてつけなのかしら、ずいぶん泣かせるような真似をしてくれたわ・・・。お酒は飲むわ、女の人は連れ込むわで」
「お、おいシエラ、もうその辺で・・・」
「でももういいの、何も言いませんわ、私は。こうして無事に帰って来てくれたんだもの・・・もうじゅうぶんよ」
「・・・」
 勝手にしろ、とシドは、やんやとはやしたてる村人たちの前で憮然とした。ふと見るとヴィンセントは、何かを考え込むようにしている。
 なぜかシドは、罪悪感に襲われてしまった・・・。


 同じ頃、ミッドガルの神羅本社ビルでは・・・。
「あ〜、おほん・・・」
 混乱が片づくまで「臨時社長」を名乗ることになったリーブが、社長室で、落ち着かない様子で部下たちを眺め渡した。
 ・・・部下たち?正しくは「元・部下たち」と言うべきだろうか。
 久しぶりに制服に袖を通した三人・・・レノ、ルード、そしてイリーナが、こっちをじーっと見ていた。
「・・・君たちにまたこうして集まってもらえて嬉しい。わが神羅カンパニーも、今度の一件で人手不足もいいところだ。君らのような優秀な人材に助けてもらわねば、社および都市の再建はとても・・・」
「能書きはいいんだな、と・・・」
 レノは痩せた肩をすくめた。
「早く用件に入ってほしいぞ、と」
「・・・君らには相応のポストを用意したいと思っているが・・・・」
「残念だが・・・、オレは根っから現場の人間だ」
 ルードが重い口を開く。
「今さら管理職になるつもりは・・・ない」
「あたし、タークスのお仕事もよく覚えてない新人だし・・・それにツォンさんのいない神羅なんて」
「甘いな、イリーナ、と」
 レノはちっちっと人さし指を振った。
「俺はそういうおセンチを言うつもりはないぞ、と。金になる仕事ならね」
「そういう事なら手っ取り早い。早速だが、君たちに頼みたい仕事があるんや・・・もとい、あるのだ」
 リーブはぐるりと三人の顔を眺め渡した。
「さっきも言ったように、都市の再建には人材が必要だ。そこで、ぜひとも呼び寄せたい人びとがいる」
「クラウドとその一味・・・かな、と」
「察しがいいな。話が早くて助かる」
 リーブは苦笑した。
「むろん、あの中の誰一人として、再び集まってくれるだろう人物がいるとは考えられん。わが神羅には恨みこそあれ、助けてくれるはずがない。・・・そこで君らタークスの出番だ」
「・・・何をすればいい」
 ルードが尋ねた。レノは肩をそびやかし、イリーナは緊張して身をひきしめた。
「彼らをここへ呼んできて、協力をよびかけてほしいのだ。タークスの復帰第一戦としてはいささか物足りないだろう任務だが、これには神羅と星の未来がかかっているのだ・・・健闘をいのる」



 ヴィンとシエラのシド争奪戦の行方や如何?
 タークスの活躍は?(こいつらでやの字があるのかどうか・・・)
 さあ、これからどうなるか・・・あぐり自身にもわからない。
 また腰折れにならないように、がんばります・・・。
 とりあえず、ここまで読んで下さった貴女に感謝・・・。


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