浅木かいと先生 |
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難産だった・・・。2日間かかりっきり・・・。
最初に注意をしておきます。
1.この組み合わせが好きではない方。
2.ちょっとしおらしいお姉さまを見たくない方。
3.オリジナルすぎるパロディ(何それ)は嫌!っていう方。
・・・・・・以上に当てはまる皆様は即刻引き返して下さい(爆)。
当てはまる人、いないかも・・・。
あ、長いの嫌いな人も引き返してね(笑)
シャンデリアに彩られ、光り輝く華やかな場所。
タキシードの男と、美麗な音楽にのせて、軽やかに、優雅に踊りを踊る女達。
そこにはいつも、自分の居場所はなかった。
王家や貴族というのは、豪華絢爛な晩餐会をよく開くものだ。それは、アトカーシャ王家とて例外ではなかった。毎夜のように上流貴族の者たちが招かれ、その度に騎士団は警備にかり出される。それは王家に使える騎士としての正当な務めであるのだが、ほとんどの人間は、何か疎外感のようなものを味わうという。無論、アグリアスとてそれは同じだったようだ。
彼女がアトカーシャ王家近衛騎士団に入団したのは17歳の時だった。
その頃の彼女には、想いを寄せる男がいた。年は彼女と同じくらいだろうか。
彼は、毎度のように晩餐会に呼ばれる名門貴族の息子だった。飾り気がなく、いつも1人で、決して踊りの輪には入ろうとしない、細面の優しそうな青年だった。元から知り合いだった2人は、たまに会ったりもしていた。
騎士団の中では男と対等に渡り合うアグリアスも、彼の前に出れば普通の、年相応の女性に返る。そんなに影響力があるほど、彼女の想いは強かったのだ。
彼が出ている。毎晩のように開かれる宴の様子を窓の外から見ながら、自分も入ってみたいと、何度思ったことだろう。あの人と踊ってみたいと、何度思ったことだろう。
そんな彼女に、その機会が訪れたのは17歳も終わりに近い時。普段は着ないドレスを身にまとい、期待と不安に鼓動を早くさせながら彼の元へと急いだ。
彼は、他の女と踊っていた。
いつもはだれとも、踊らなかったのに。
時がたつに連れ彼女の位は上がっていき、警備どころではなく、盗賊団の殲滅等、遠く離れた地への派遣が多くなってくる。それに伴いだんだんと彼への気持ちは薄れていく。いや、思ったところでどうにもなるまい。もう終わったことなんだ、と、自分に言い聞かせるように何度も、何度も繰り返し思った。
忘れられた。
自分が思う限りには。
そして、ある青年に出会ったのは、それから4年後のこと・・・。
貿易都市ドーターの西側に位置する赤い煉瓦の敷き詰められた広い道には、様々な物を取り扱う店が所狭しと並んでいた。
必要な武器防具や仲間達から頼まれた物がかかれたメモを片手に、ラムザはその道の人混みをさけながらすすんでいった。
ふと、ラムザは立ち止まる。後ろにいるはずの人の姿が見あたらなかった。
「あ、あれ?」
急いで・・・といってもとてつもなく人が多い。走るに走れなかったが、それでも出来るだけ早足で、今来た道を逆戻りしていった。
彼女を見つけたのは、人通りのやや少ない、服飾店街の一つの店の前だった。
「あ、みつけ・・・・」
ラムザは言いかけた言葉を思わず飲み込んだ。
声をかけては、いけない様な気がした。
ショウウインドウを見つめる彼女の横顔が、今まで見たことがない、悲しそうで、辛そうで、何かに押しつぶされそうに苦しそうな顔をしていたから。
ラムザはいつも、彼女を見ていた。
自分のこの手で、抱きしめたかった。
彼女の全てが大切で、守りたくて。愛している。
一緒に旅をして解った、時折現れる、騎士ではない普通の女性の表情・・・柔らかく微笑む顔、悲しみに暮れる顔、困っている可愛らしい顔。
普段のしっかりした表情の裏にはそんな一面があった。そして、ひとたび心に刃を受ければ、途端に崩れ去るような弱さがあることも、ラムザは知っていた。
追っ手に深手を負わされ、言葉の刃を受け、彼にさらした弱い一面。
それを目の当たりにしたとき、ラムザは彼女の何もかもすべて、抱きしめて、包んで、愛してあげたい、と心から思った。
むやみな言葉は、毒にはなれども薬にはならない。
そう思ってラムザは、しばらく少し離れたところで彼女が気がつくのを待っていた。
少しの時間がたってから、アグリアスがこちらを振り向いた。
「ラムザ・・・ああ、ごめん。わざわざ戻ってきてくれたのか?」
途端に普段の表情に戻った彼女に優しい笑みを向けながら、ラムザは言った。
「日、暮れてきましたね。早く買い物済ませて戻りましょう」
くるりと身を翻したラムザの後を追いながら、アグリアスは今まで見ていたショウウインドウをもう一度、振り返った。
(今更私は何を・・・何を思っているんだ・・・)
そこには、美しいドレスが飾られていた。
仲間達が取っておいてくれた宿に2人が戻ってきたのは、それからすぐ後だった。買ってきた物をそれぞれに渡し、暖かい湯気の登る紅茶を皆で飲みながら夜の一時を過ごしていた。双魚の月の夜は冷える。アグリアスは立ち上がり、部屋にあった暖炉に火を付けた。揺らめく炎に照らされて、彼女が赤く染まる。炎を写したその瞳には、何か曇った物がかかったように見えて、ラムザは、座り込んで火の調節をしている彼女の背中をじっと見つめた。
何があったのか解らない。でも問いただす必要は・・・きっとない。
僕が干渉できるような事じゃないんだ。
僕が口出ししても、逆に傷つけるだけなんだ。
そう、自分に言い聞かせ、ラムザは冷めかけた紅茶のカップを口に運ぼうとしたが、いつの間に横にいたのか、アグリアスが彼のカップを取り、言った。
「冷めてるじゃないか。新しく入れよう」
暖炉の上にかけたポットを取り上げ、葉の入ったティーポットに湯を注ぐ。アグリアスはそのまま、出来るまでの間じっと動かなかった。ただ、ポットを見つめていた。
何かが心に引っかかっていた。自分の心の中に、何かが膨れ上がってくる。楽しさでもなく、悲しみでもなく、悔しさでもなく。なにか昔に忘れてきた、古い感情。
アグリアスはふと、ラムザの方を見た。彼は笑いながら他の仲間と話している。
ふと、まじめな顔になったかと思えば次には笑い、そのまた次には辛そうな顔をして。まるで子供のようにくるくると変わる表情。だけどその中には全てを通して、まっすぐな瞳の輝きがあった。
そんなラムザの姿を見ていると、何故かいつも、彼女の心は安心するのだった。
・・・と。
そんな彼女に、仲間の1人、召喚士の地位につくシャネルが声をかけた。
「ねえアグリアスさん。あなたも一緒に行きませんか?」
「・・・どこに?」
「この街でラムザの知り合いさんが主催の晩餐会があるんですって。」
「あっ・・・なんでその話・・・」
晩餐会、その言葉にアグリアスの肩がぴくっ、とふるえ、注いでいた紅茶がすこし、トレイにこぼれて湯気を上げた。
「昔の知り合いらしくてわざわざここまで使いを出して教えてくれたんだって!ね、そうだったよね?」
昼間、買い物に出かける前に1人の使者がラムザの前に現れた。その男が口にした晩餐会の主催者である名前は、ラムザが幼いときからよく知っている貴族の名前だった。この街にその家があるのは何度か来ていたので知っていたが、まさか今になってそんなものに呼ばれるとは・・・と、何か引け目のような物を感じ、皆には黙っていることにしていた。がしかし、やはりそういう話を誰かが聞きつけるのは普通のことなのかもしれない。こんなに近くにいるのだから。やはり女性は鋭いな、とラムザは思う。
「うん。綺麗なドレス着れるチャンスだわ!ね、ラムザ。みんなで行こうよ!」
シャネルの問いに答える、ナイトのラヴィアンがラムザに話題をふる。アグリアスの小さな反応が気になった。がしかし、仲間の賛成の数には勝てるものじゃない。それに、戸惑う理由を正直に言う訳にもいかない。
「・・・しかたないなあ・・・。じゃあ服を変えないとね」
女性陣はドレスショップへ行き、男性陣も礼服を買いに出かける。皆についていきながらアグリアスはふと、空を見上げた。夕焼けの空に三日月が掲げられ、すでに幾つもの星が瞬き始めていた。冷たい風が木々を揺らし、木の葉を空に舞い上げさせる。風が強かった。風に遊ばれる髪を押さえながら、少し先に行ってしまった皆の後を追った。
「うわー・・・。」
少し幼さの残る顔立ちには余り似合っていないタキシードに身を包んだラムザは、会場である街の古い、しかし大きな屋敷の扉を開けた途端に、その言葉を漏らした。
優雅な音楽が流れる中、人々が皆、思い思いに着飾り、ある人は夫と、またある人は恋人と。子供達は友達と手を取り合い、軽やかにステップを踏んでいる。奥まったところには色々な料理や酒類が用意され、踊り疲れた人の休憩の場となっていた。
「すごいなここは・・・」
「やあ、君はラムザ君だろう?」
後ろからした男の声に振り向くと、このパーティの主催者であるラインハルト=フォックスが立っていた。
年は50歳中頃だろうか。最後にあったのは父の葬儀だ。だが、色々なところでよく顔を合わせていたラムザには、すぐに解った。
「お久しぶりです。お元気そうで何より」
「始めてみたときは解らなかったよ。そうか、こんなに立派になったのか。バルバネス殿によく似ておる。・・・今はいくつになったのかね」
「19歳になりました」
「ほう。それではそろそろ、気になる女性もいるのではないかね?」
ラインハルトが冗談混じりに言った。ラムザは慌てて、
「そ、そんな・・・僕にはそんな人は・・・」
とっさに否定してしまった。目線をそらし、あてもないままそこらを見渡す。
ふと気づくと、仲間の女性陣の姿が見あたらないことに気づいた。衣装を用意し、着替えのために別れてからは随分立つ。しかし、考え直してみればそれも当然か、とラムザは思った。何せ向こうはドレスである。男のタキシードより遙かに時間がかかるに決まっている。きっと着替えやお化粧に手間取っているんだろうと考え直し、このままラインハルトと話をして、しばらくこの場で待つことにした。
話をしながらも、ラムザはアグリアスのことを考えていた。
ここに来る相談を持ちかけられたときのあの動揺。それが気になってしょうがなかった。普段から動揺などすることの滅多にない彼女が、ただ晩餐会に行くというそれだけのことで揺らぐとは思えないのだ。
考えれば考えるほど、ラムザの心の中は彼女のことでいっぱいになる。彼女が今、どんな思いでいるのか解らない。解ってあげられない。自分のこの手で安心させてあげたいのに。自分は彼女じゃないからなにも解らない。それが辛くて、悔しかった。
(人の心なんて解らないからしょうがないけど・・・でも・・・)
「おいラムザ、来たぞ!」
ラムザと同じくタキシードに身を包んだラディッシュに腕をひっぱられ、ラムザはくるりと振り向かされる。ドレスに身を包んだ皆の姿が見えた。ラヴィアン、アリシア、シャネルが駆け寄って、それぞれ別の男の手を引いてダンスホールへ消えていく。
しかしラムザは、そんなことは気にならず、ただまっすぐ先を見つめたまま動けなかった。
彼の2、3歩手前で足を止め、こちらを見ている。見慣れているのに初めて会うような気がして、声をかけられない、いや、出すことさえ出来なかった。
肩を大きくあけ、薄い透明な布をまとい、胸元には白いレースの花があしらわれている。綺麗な金の髪を腰まで垂らし、胸元と同じ小さなレースの花が彩りを添えていた。
細い腰から裾まで広がる白の布は、辺りに光を与えているように思えた。
まるでウエディングドレスのような、白い、白いドレス。
ラムザは言葉もなく、ただそこに立ちつくすだけしかできないでいた。
「アグリアスさん・・・」
シャンデリアの光の下で、きらきらと輝いている、ドレスにちりばめられた小さな飾りが、金の髪が、そして薄く化粧をしている綺麗な顔が。全てがまぶしくて。ラムザは思わずうつむいてしまった。
「・・・・・。」
アグリアスはラムザの方には足を向けず、身を翻して二階への階段を駆け上がっていった。誰にも見られたくはなかった。こんな格好をしている自分を。何と思われるのかが怖かったのだ。
だけど、心の底では。
誰かに見て欲しかった。誰かに何か言って欲しかった。
4年前、何も見てはもらえず、何も言ってはもらえなかったから。
だけど嫌!
二つの思いが交錯し、なにもかもがすべて解らなくなる。自分の考えていることさえも理解できず、だけどどこかで冷静で、全てを知っている自分がいる気もした。
気がつけば、二階のテラスに飛び出していた。
冷たい夜の風が、火照った身体と頭を冷やしていく。
あがった息を整えながら、星空を見上げた。
4年前のあの日と同じ、真夜中の深い闇に無数の星がきらめき、三日月が夜に淡い光を与えている。テラスのドアの中からかすかに聞こえる音楽は、いつしかゆっくりとした静かな物に変わっていて、宴も終わりに近いことを知らせていた。アグリアスは一つため息をつき、ドレスの乱れた裾を直して、自分の服が置いてある部屋に戻ろうとした。
「・・・もう着替えてしまうんですか?」
いつの間にここに来ていたのか。彼女の後ろに彼がいた。走って追いかけてきたらしく息があがっている。ラムザはゆっくりと歩みだし、アグリアスの目の前にたった。彼女はその目から逃れるように横を向く。そして言った。
「・・・こんな物を着ていると嫌なことを思い出すんだ。自分がわからなくなる。だからもう・・・」
さあっ、と風が吹いた。レースのカーテンが広がり、2人の髪を揺らす。木々のざわめく音が、中からかすかに聞こえていた音楽を一瞬、かき消した。ラムザもアグリアスも、しばらく黙っていた。やがてラムザが、彼女の目の前に手を差し出した。
「ラムザ?」
「・・・僕と踊っていただけますか?」
突然の申し出にアグリアスは戸惑った。しかし考える前に彼女の手は、差し出された彼の手に重ねられていた。
ゆっくりとした曲に合わせて2人は踊る。
アグリアスは、ヒールのある靴の所為で、自分より本の少し下にあるラムザを見つめた。
自分は、彼が好きなんだろう。それは解るのだ。だけど・・・。
思い出したくないのに自然に頭に浮かんできて顔が重なる・・・どうしてかわからない。自分の心のことなのに何も判らない。
アグリアスはふと、足を止めた。ラムザが無言で、うつむいてしまった彼女の肩に手を置く。垂れ下がる髪で顔は見えなかった。
「あまりにも似てるから・・・」
「え?」
「似てるからわからなくなる・・・今本当に好きなのはどっちなのか・・・」
「アグリアスさん?」
額に手を当て、自嘲の笑みを浮かべて彼女は言う。
「昔から駄目なんだ、恋愛事っていうのは。相手にばかり考えがいって、自分の事が判らなくなるから」
「僕は・・・・。」
ラムザは彼女の肩から手を離して言った。
「僕には今、あなたが何を思って悩んでいるのかは判らない・・・。悔しいけど、僕とあなたは他人、別の人間だから。・・・だけどこれだけ言わせてください。僕はいつもあたなのそばにいる。誰かにすがりたくなる時があれば・・・僕の所に来て下さい。あなたのすべて、何でも僕が受け止めるから・・・」
そう言ってラムザは、アグリアスを軽く抱きしめた。
いつしか晩餐は終わり、会場から招待客は去っていく。仲間達ももう、宿の方へと帰っているだろう。音楽も止まり、ただ風に揺れる木々のざわめきだけを耳にして2人はただ、冷たい風とお互いの少しのぬくもりを身体に感じていた。
しばらくして、2人は身体を離した。
何か照れくさくなり、今度はラムザがうつむいてしまった。
「・・・ごめんなさい、こんなことして・・・」
「・・・・・・ラムザ」
「はい?」
アグリアスはラムザの瞳をまっすぐ見つめ、少し笑みさえ浮かべて訪ねた。
「・・・言った事のない言葉ってある?」
「・・・え?そ、そんな・・・わかんないですよ」
「私、今までこれだけは言わなかった。4年前も、言えなかった・・・」
くすり、と小さく笑い、アグリアスはラムザの耳元にささやいた。
風が強く吹き、木々の揺れる音が大きくなる。今の言葉を聞き取れたのは運が良かったかもしれない。誰にも聞こえないほど小さく、しかし優しい響きを持った言葉だった。
言われた言葉に、ラムザは顔を赤くし、もう一度、確かめるように聞いた。
「・・・本当ですか?」
FIN