パノラマ先生の第17弾

投稿者 パノラマ 日時 1997 年 8 月 05 日 18:45:56:

片手でかぞえらるほどの今までの恋人のことを考えてみるまでもなく今回の恋人に貞操観念というものがまったくないことは明らかだった。ついでに羞恥心も。レノの言動に顔を赤くしたり言葉を詰まらせたりするのはもっぱらルードの役割だった。
「ルードはどういうのが好みなのかな、と」
初めてレノを抱いたとき、彼を尋ねた。
「たいていの注文には答えられるんだな、と」
レノが最低ランクの売春宿にいたらしいことはそれとなくツォンから聞いていた。相手の好みに合わせることは、彼が生きるために必要だったのだろう。レノの体のあちこちに施されているピアシングも前の客の好みだったのだろう。
「・・・・お前の好みはなんなんだ?」
質問をはぐらかされたのかと思ったのか、レノは顔をしかめた。
「たいしたことはできないが、レノが良いと思うことをしたい。オレはお前がいるだけで十分だから」
ルードをまっすぐに見つめていたレノは、静かに息をついた。手を伸ばし、ルードがそこにいるのを確認するように、その頬に触れる。
「あんまりオレを喜ばせない方が良いんじゃないかな、と。すぐにつけあがるぞ」
そういってニッと笑ったレノは、ルードが戸惑うほどに魅力的だった。
やせこけた腕をぎこちなくルードの首に回し、照れたようにほほえむレノをみて、ルードは自分が間違いなくレノの心の奥底に立ち入ることができたと感じた。無防備で臆病なレノの心も体も慈しんでやりたいと思った。
・・・・と、思ったのはつい3日前のことなのに。
目の前の状況をどう考えれば良いのだろう。ルードはめまいがしそうだった。次の仕事の打ち合わせのため、ツォンとのミーティングをp.m1:00に設定した。きっかり5分前、ツォンの執務室のドアの前に立った。ドアから場違いな甘い声が聞こえる。
耳慣れた声ではないということは、声の主は少なくともルーファウス以外の人間である。どうせ予定の時間には何事もなかったようにデスクについているツォンがいるのだろうから、5分だけ時間をつぶせば良いのだ。きびすを返したルードの動きは止まった。声に聞き覚えがあるような気がしたからである。しかもつい最近聞いたような。無言でドアを開いたルードの目の前には、予想以上の光景が広がっていた。
ツォンはルードに背を向けて、安楽いすに座っている。ツォンのひざの上に乗っているのは案の定レノだった。大きな背もたれに隠れて、2人の様子は一目でわからなったが、ひじ掛けから奔放にはみ出しているレノの裸の足と、押さえ切れない吐息を耳にすれば多少にぶいルードといえども現状を把握できようというものだ。
無遠慮な侵入者の存在は、2人ともすぐに気づいたに違いない。だがあいからわず行為に没頭していた。ふと、ツォンが何事かをレノの耳にささやき、レノはちらりと視線を上げた。立ち尽くすルードに気づき、わずかなうろたえすらみせずに笑いかけた。
うろたえたのはルードのほうだった。
気づいたときには廊下に出ていた。

「あんたも人が悪いな、と」
指を動かすことすらおっくうそうに上着のボタンを止めながらレノが言う。
「ルードがくること知っていたんだろう」
「もちろんだ。ああ、ミーティングの時間を20分もオーバーしてしまった。ルードはどうしたかな」
神経質にネクタイの結び目を直しながらツォンはつぶやく。
「からかうのなら他のやつにすれば良いのに、と」
「あいつが一番楽しいんだ」
やれやれとレノが肩をすくめる。
「どうしようもない所ばかり若社長に似るんだな、と」
「お前はいつも一言多いよ」

結局2時間遅れてツォンとミーティングをすましたルードは、疲れ果てて自宅にたどり着いた。
ツォンは仕事以外のことを話そうとはしなかったが、ルードは何度も先程自分が見た出来事について聞こうとし、そのたびにあきらめていた。今日のミーティングでいつもの何倍もの気力を使ってしまった。
力無くコードを打ちこみ、ロックを解除する。
「・・・・・レノ」
ソファに文字通りレノが丸くなっていた。
勝手にシャワーを浴びたらしく、髪が濡れて額に張り付いている。着ているモスグリーンのローブはルードのものだ。大きすぎるローブに包まれてレノは無邪気に眠っていた。
何か上に羽織らせるものを探そうとそっと足を踏み出したとたん、
「ごめん」
レノの声が聞こえた。
「なぜ謝る?」
意地悪くルードが尋ねると、レノは素直に言葉を続けた。
「本当はこんなこと、ルード以外とすることはルール違反だって知ってはいるんだ、と」
ソファの前に立つルードの手を取って、そっとキスをする。
ルードを見上げる色の薄い瞳は、かすかなためらいを宿していた。
「でもうまくいかない。いつもそうなんだ、と」
レノは片膝をついて目線を合わせたルードの首を、堅く抱き締めた。耳元で小さくささやく。
「一人にするな、と」
細い赤毛をなでながら、ルードは苦笑した。
わがままなさみしがりやのレノ。とことんまで付き合うしかなさそうだ。かなりスリリングな経験になりそうである。

報告書を持参し、いつもの習慣でノックの返答を待たずにドアを開けた。
「科学部門の分析結果をお持ちしました」
部屋の様子をたっぷり30秒は眺めたあと、ルードは一礼して出ていった。右手の報告書は握り締められ形が変わっていた。
「いいの?ほっといて」
脱がされた服の合間から陶磁器のような素肌をさらしているルーファウスがたずねる。
「ま、ね」
ニッと笑ったレノがルーファウスの胸元に手を伸ばす。
「ルードを相手に綱渡りをするのはやめた方が良いよ。
そういうことは僕かツォンを相手にすれば良い」
へえ、とレノが目を見張る。
「珍しく親切なんだな」
小さくルーファウスがほほ笑む。年に似合わず疲れ果てた老人のようなほほ笑みだった。
「退屈なだけだよ」
ルーファウスがツォンのあからさまな皮肉と共にルードの報告書を受け取ったのはその夜のことである。
「あまり軽はずみな行動はなさらないでください」
「最近ツォンがかまってくれないから寂しいんだ」
「御冗談を。ウソをつくならもう少しましなものにしてください」
「善処するよ」
資料を見ながらいいかげんな返事をルーファウスは返した。



無節操で魅力的なレノを書きたかったんですが、いまいちですね。がくっ
しかし神羅上層部の関係はただれきっているなあ(笑)


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