パノラマ先生の第15弾

セフィロスとザックスの相性は良かったようだ。元来単独行動を好んだセフィロスだったが、一人ではどうしようもないときもままあった。背中を守るにたる相棒を手に入れたことで、セフィロスの活躍の場は広がり、同時にザックスの活躍も目覚しいものとなった。
いつものようにセフィロスは相手方のソルジャーと組むことを拒否するだろうという人事部の予想は外れた。
任務外のことをセフィロスが口にすることはほとんどない。ザックスは頼まれなくてもしゃべった。いつも興なさげに聞いていたセフィロスだったが、一度ザックスにたずねたことがあった。
「そのエアリスというのは」
「オレの目下の彼女ってとこかな。ずるくてかわいいしょうのないやつだよ」
「....愛しているのか?」
セフィロスの口から出た思いがけない言葉に、ザックスは仰天動地の思いだった。愛という言葉がまさか英雄セフィロスの口から出るとは。
「らしくないね。英雄セフィロス。さてはオレと同じ恋の病に苦しんでいるのかな?」
ほんの軽い冗談のつもりだった。いつものセフィロスならあっさりと無視していただろう。
「オレにはわからないんだ」
弱々しい呟きはセフィロスの本音のようだった。
「唯ひとり忘れられないやつはいる。なにをしていても、そいつのことが頭のどこかに引っかかっている。オレはいったいそいつに何をしたいのかもよくわからない。それでもあいつのことを考えてる。」
ザックスはふきだした。
「それだよ、それが愛してるってことだよ」
愛してる、という言葉を口の中でゆっくり転がしたセフィロスは、うっすりと笑った。こんなに冷酷な表情の彼にすら見とれてしまう自分に、ザックスはいいかげん愛想が尽きそうだった。

神羅カンパニー科学部の学者数名が起こしたテロ騒ぎの鎮圧が今回の目的だ。タークス特殊部隊と共同作戦をとりつつ、爆弾や生体兵器を始末していく。最後に残ったのは華奢といってもいいようなおとなしげな外見の研究員だった。彼が今回の事件の企画者にして実行者なのだ。
セフィロスとザックスが近づいてくる足音にやっと気づいたというふうに、男は振り向いた。セフィロスの姿を認め、何か思うところがあったようだ。
「お前が来るとはな、コードS.私も買いかぶられたものだ。」
「コードS?」
ザックスの呟きに、明らかにセフィロスは反応した。
「私もお前のいい“遊び”あいてだったのだが、もう忘れてしまったかな?あのころのお前は頭も体も一級品だった。今では自分がされたのと同じ事を他人に強いているらしいが....」
小さな笑い声を立てた男の喉元に、セフィロスはマセムネを突きつけた。
「これ以上余計なおしゃべりを続けたければそうするがいい」
もとより男は命乞いなどする気はなかったらしい。
「私を殺すのがお前で良かったよ、S」
彼は刃に自ら身を投げ出した。無表情なセフィロスの額に赤が飛び散る。血をぬぐおうとも、男から刃をぬこうともせず、セフィロスは立ち尽くしていた。
その時間のあまりの長さに不安を感じたザックスは、そっと歩み寄りセフィロスに正面から向き合った。触れることをためらわせる美しい姿だった。
「セフィロス...?」
答えはない。せめて左手からマサムネを外させようと手を伸ばしたザックスは、雷に打たれたように身を引いた。
彼の手は震えていた。どんな状況の下でも、それを楽しむかのごとく笑っている男の手は、確かに震えていた。
「オレは英雄ではない。セフィロスでもない」
優雅なしぐさで顔を覆う。
「ただのコードS。代わりはいくらでもいるサンプルにすぎない」
泣いているのかと思った。
思わずザックスは強引にセフィロスの右手をとっていた。顔がみたかったのだ。涙はなかった。切れ長だと思っていた瞳が、幼子のように見開かれ、無防備にザックスを見つめていた。
唇に触れるだけのキスを、3秒後におずおずと舌でノックする。
セフィロスは動かなかった。マサムネを持つ左手はぴくりともしない。ザックスにしてみれば無限に近しいときが過ぎた後、緩やかに2人は身を離した。
セフィロスはかたく瞳を閉じていた。
まるで子どもだとザックスは思う。
いや、本当に子どもなのかもしれない。
このようにしか思いを伝えられない自分をもどかしく思いながら、ザックスはセフィロスの胸元に手を差し入れた。セフィロスは素直だった。
ハロゲンライトの青白い光の下で、彼はまるで人間ではないようだった。深海から訪れた孤独な生き物のようだった。
自分ではセフィロスの隙間を埋められないことは良く分かっていた。彼のからだをむさぼり、かすかな悲鳴をあげさせてもその思いは変わらなかった。
せめて一時でもいいから、セフィロスと共通のときを分かち合えたことは嬉しかった。願わくばもっと長いときを彼と分かち合いたかった。

こんな時だというのに自分は眠っていたらしい。リノリウムノ床から身を起こすと、体中がきしむ音がした。
「起きたか?」
微妙に笑いを含んだ声が頭上から降ってくる。一分の隙もなく身繕いしたセフィロスが立っていた。いつからそこにいたのだろうか。
「お前も存外邪気のない顔で眠るのだな」
どうやら寝顔を見られたらしい。どう対応しようか慌てているザックスを面白がっている。
「ぐずぐずするな、行くぞ」
すっかり英雄セフィロスの仮面をかぶってしまった彼は、つい数刻前まではザックスの腕の中であられもない声をあげていたのだ。
「了解。3分だけ待ってくれ」
やっかいなやつに惚れてしまったなと思い、ザックスは無意識に頭を掻いていた。これも運の女神様の粋なお計らいというやつだろうか。



パノラマのセフィはどうやら受け臭いです。イバラの道を...
私の好きになるキャラは基本的に両方おっけーなんですね。だからクラウドはいまいちなのかも...
攻めクラウドもいつかチャレンジしてみたいものではあります。


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