パノラマ先生の第11弾

セフィロスを追っているという一行にヴィンセントは眠りを破られた。屋敷に人の気配はとうになかった。
きつい光の下に、隠し切れない寂しさを見せていた少年はもういない。成長した彼にあいたいという思いは強かったが、会ってどうなるというのだろう。ただ無性に幼いセフィロスを抱きしめてやらなかったことが悔やまれた。
「おまえは、セフィロスをどう思った?」
パーティーのリーダーだという少年(と呼ばれても仕方がない)に話し掛ける。
「英雄、だったよ。俺の中では」
ただ、と彼は言葉を続けた。
「不思議な人だった。時々、ほんとうに時々だけど、これがあの英雄セフィロスなのかと思 うことがあった」
そうだろう。彼は決して英雄などではない。
宝条を殺していないのが良い証拠だ。セフィロスの心の奥底には、よどんだ思いが澱のように沈殿している。自分もセフィロスに殺される資格は十分にある。彼に殺されることは、もしかしたらもっともヴィンセントの望んでいることなのかもしれない。
「セフィロスをおっている、と言うが、...何かあてはあるのか?」
間髪を入れずにクラウドは答えた。
「俺には分かるんだ」
クラウドの口調にあるものを感じたヴィンセントは無遠慮な視線を投げかけた。彼はセフィロスに特別な感情を抱いているらしい。
だが、それはセフィロスにとって救いをもたらしたのだろうか。
恐らく無駄だったろう。セフィロスが求めているのは、幼いころついにえることがかなわなかったものなのだから。
ただ....むなしい祈りだとは思ったが、セフィロスがクラウドにより癒されたことをヴィンセントは祈るのみだった。

かすかな、そしてなつかしい違和感を感じ、ヴィンセントは目覚めた。
月はまだ中天にある。中間たちは安らかな寝息を立てている。レッドの耳がかすかに動いた。
誘い出されるようにヴィンセントはベッドを離れた。音を立てないようにブーツは履かないことにする。
石畳の古い町だ。噴水の音がかすかに聞こえる。シャツを羽織っただけのヴィンセントは予想外の寒さに震えた。
そして圧倒的な違和感。
「セフィロスか?」
彼の顔を見るのが恐かった。ヴィンセントの背後に音もなく現れた影が近づいてくる。強く肩をつかまれた。
「つっ...」
無理矢理振り向かされる。彼女のものと同じ瞳。
何年、いや何十年ぶりだろう。
似ている、と思った。あのさみしげな気配は影を潜めた。
美しい男になった。だが空虚な美貌だった。口元が歪んでいる。いつからそんな笑いかたをするようになったのだろう。
「ヴィンセント」
つめたい声だった。しかしその声がかすかに震えていることにヴィンセントは気づいた。
「セフィロス...」
自分より高い位置にある頬に手を伸ばす。火傷するかのように冷たい頬。セフィロスはそっとヴィンセントの手を押しとどめ、自分の口元に運んだ。
触れるだけのキスを。次に噛み付くようなキスを。
ぴくりと反応したヴィンセントは手を引こうかためらったようだった。やがてため息を吐き、力を抜いた。
「変わらないのだな...いや、変われないのか」
ヴィンセントの中指にきつく歯を立てる。しかめられた眉にセフィロスは冷たい視線を浴びせた。
「罪とやらは償えたのか」
首を横に振る。
「あれからも罰を受け続けているのか...」
セフィロスがしゃべるたび、彼の舌先が指をかすめる。
ヴィンセントは、自分が本来抱くべきではない感情に支配されつつあることに気がついた。
廃屋の壁面に体を押し付けられる。
すさまじい存在感。
セフィロスの瞳を跳ね返せるものなど居るのだろうか。おそらく、あのクラウドという青年もこの光に抵抗できなかったのだろう。
黙って目を閉じる。セフィロスは苛立たしげな表情を見せ、あからさまに舌打ちをした。彼にしては珍しく感情が先走っているようだ。
なぜだとかすかにつぶやき、強引に唇をむさぼる。
じっとヴィンセントはなすがままになっていた。狂おしいほどの接吻は不意に止み、月光がまともにヴィンセントを照らしつけた。
セフィロスは片ひざをつき頭を抱えていた。うめき声をかみ殺しているようだ。銀の髪がゆれている。
そっと手を伸ばし、セフィロスの髪に触れた。月光を編んだような細い銀の髪。額をかき上げると、かすかに汗ばんでいた。力なげにゆれる瞳と、ヴィンセントの視線がかちあう。
ヴィンセントは身をかがめ、セフィロスの秀でた額にキスをしていた。慈しむようなキスを。
「すまなかった、わたしはお前に...」
続く言葉は口付けにふさがれた。ためらいがちな愛撫にヴィンセントは緩やかに答える。石畳から立ち上る冷気に当てられたのか、セフィロスの巧みな指使いにほだされたのか。
ヴィンセントのひざが崩れ落ちる。シャツのすそが割れ、素足があらわになった。長い監禁の間にすっかり肉の落ちた情けない足がヴィンセントは好きではなかった。
しどけない格好のヴィンセントとは対照的に、セフィロスは革手袋すら外していない。くすりとヴィンセントが笑った。
「どうした?」
セフィロスがヴィンセントの耳朶を甘く噛みながら尋ねる。
「愛した女性の息子とこんなことをするなんて想像すらしなかった」
「なぜ...」
セフィロスは言いよどみ、結局言葉を飲み込んだ。
「ルクレツィアとにているのか?」
目の前のセフィロスの存在を確かめるようにヴィンセントは指先を滑らせた。
髪、額、眉、鼻、口元、そして瞳。性の違いは大きいが、同じ血が流れていることは疑いようがなかった。あの男の血も。
「私が愛し、宝条を愛した彼女の存在をたしかに感じる...」
歌うように語るヴィンセントの表情はひどく綺麗だった。

何度目かの行為の後、糸が切れるように意識を失ったヴィンセントの体をセフィロスはそっと抱きしめた。彼のからだは相変わらず目を背けたくなるような傷で覆われていた。つややかな黒髪を一房手にとり、その冷たさを楽しむ。
「初めて会ったときも、そして今でもやはり私の中のあの女を呼ぶのだな」
ヴィンセントの与える愛は許すだけの愛だ。
それはセフィロスに久方ぶりの安らぎを与えてくれたが、その背後の虚無に息詰まるほどの絶望を感じたことも事実であった。
宝条の愛は、追いつめ奪う一方の愛であった。両者はベクトルこそ異なるものの、まったく同質のものであることを、ぼんやりとだがセフィロスは感じていた。



大人になっちゃいましたね、セフィ。つまらん。
クラウドとのいきさつとかつっこみたいとこはいろいろあったのですが、すざまじい量になりそうだったのでやめました。
私の考えるセフィクラはラブラブから100万キロメートルほど離れているようです。しーん。
てぃるむさんのセフィヴィン読みたかったのに、入ってないし....


[ 感想を書こう!!] [小説リユニオントップへ]