パノラマ先生の第10弾

なぜこの男とこんなことをしているのだろう。
ベッドの軋みを耳にしながら、ルーファウスは思いを巡らせていた。この男を繋ぎ止めておくことにメリットがないわけではない。しかし彼は実父やハイデッカーほどの権力を持っていないし、持ち得ないこともまた事実である。
体を与えることはデメリットしかもたらさない気もする。行為の最中の男の目は、肌が粟立つほど冷たく、ルーファウスにたいして嫌悪と軽蔑の念しか抱いていないというのが明らかだった。
きっかけは何だったのか。

実父に始めて犯された日であったろうか。
浴室から出てこないルーファウスにおざなりな関心を持って、ツォンが入ってきた。
シャワーのコックを乱暴に止め、冷水にあてられ冷え切ったルーファウスの頭にバスタオルをかぶせた。
「お体に悪いですよ」
「実の父親に犯される以上に体に悪いことがあるとは思えないけどね」
髪をぬぐうツォンの動きが半瞬止まったが、ルーファウスの体に無数についた痣を見て納得したようである。
「自害なさりたいのでしたら、私は立場上御止めすることになりますが.....どうなさいます?」
「馬鹿馬鹿しい!」
間髪を入れずルーファウスは吐き捨てた。
「こんなものはただの器にすぎない。ほしいやつがいたらくれてやる。近い将来、そいつらは後悔するだろうさ。いい気味だ」
自嘲の入り交じった声でルーファウスは笑う。頬を伝う水滴が、シャワーの名残なのか涙なのかははっきりとしなかった。
「強いのですね....あなたは。母とは大違いだ」
誰に言うともなくつぶやいたツォンの言葉をルーファウスは聞き逃さなかった。
「母...」
「失礼。出過ぎた真似をいたしました」
以後ツォンは口を開かずルーファウスの体をぬぐい続けた。
キスはルーファウスからねだった。
行かないでくれと懇願したのもルーファウスだった。
漆黒の瞳は底知れぬ輝きをたたえている。拒絶の言葉を覚悟して、ルーファウスは耳をふさぎたい思いだった。
「それは命令なのでしょうか?」
嫌みなほどの礼儀正しさでツォンは問う。
「形ばかりだが、あなたは私の主人だ。私はできることをする義務があります」
屈辱で目眩がしそうだった。心から、初めて膝を屈した結果がこれなのか。
「命令だ」
それ以外の言葉をルーファウスは知らなかった。

あれから1年ちかくたつ。もう少しまともに肉がつくと思ったからだはもとのままで、老人たちを一方的に喜ばせていた。相変わらずセックスは苦痛だった。反応を返せば返すほど、頭の奥が白く冷えていく。
ツォンは気まぐれにルーファウスに触れる。セックスに関してツォンは完全にルーファウスの主人だった。暴君であるといってもよかった。
社長室のデスク、洗面所、歓迎式典の舞台裏。ツォンがルーファウスを求めるとき、ルーファウスは拒むしかなかった。本当に嫌なのか、それとも形だけ拒絶しているのだろうか。ルーファウスにはもう分からない。
ツォンとのセックスは快楽そのものだった。あまりの快楽の深さに空恐ろしくなるほどだった。この男を失うことに自分は耐えられないだろうとルーファウスは確信していた。ただ快楽に溺れることは心地よかった。もしかしたらこの男は自分を愛しているのかもしれないという、幻想もみせてくれる。
情けない。惨めさに涙が出る。
こんな男との愛を夢見るほど自分は弱い人間だったのか。
彼は「仕事」でつきあっているだけだ。主人を奴隷のように屈服させられることが単に面白いのかもしれない。
ルーファウスを抱くときツォンは服すら脱がない。何一つその身を隠すものを纏うことを許されないルーファウスは、いつも打ちひしがれた思いでうつむいてしまう。
「どうしました?」
ルーファウスのシャツに手をかけながら冷ややかにツォンが尋ねた。
黙っていると、整えられたつめが明確な悪意を持って胸の果実を苛んだ。だがそれすらもルーファウスに来る快楽を予感させ、息が自然に上がってしまう。
「なんでも、ない」
ツォンが頬に触れた。
「泣くのはまだ早いですよ」
感情が高ぶり、うまく押さえられない。
この美しく冷酷な男を愛しているのだ。自分をモノのようにしか扱わない、この男を。
ただ惨めで、そして胸が痛かった。



チャットでのせのおさんのリクエストにお応えしてみた鬼畜なツォンルーです。
ちっとも鬼畜じゃないけど。
こんなんでいいのかなあ...せのおさんまだまだです。がくっ
意外と楽しく書けました。ツォンはもっとつっこんでみたい人なので、そのうちルーがらみで書きたいですね。


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