パノラマ先生の第7弾

(終わらない悪夢なんてあるんだろうか)
あるのだとヴィンセントはいう。自分は未来永劫に贖罪し続けなければならないと。
セフィロスには分からない。
物事には必ず終わりはあると書物は教えてくれた。無限にみえるものにも、必ずはてはあるのだ。それを知ったときセフィロスは安堵した。ならばいつかこの屋敷から出て、宝条とよばれる科学者とも別れることができるのだろうか。
宝条を殺すことはたやすいように思える。体格こそセフィロスのほうが劣っているが、骨の上に皮がへばりついているような彼に腕力で後れを取ることはなさそうだ。おそらくセフィロスはいつでもこの屋敷を出ることができるのだろう。
情事、というにはあまりにも一方的な行為の終わった後、宝条はセフィロスに刀を与えた。“コテツ”という古い刀である。セフィロスはライトの無機質な光を跳ね返す刃の輝きに目をみはった。
笑った彼は年相応に見える。本当の年より幼いくらいだ。
コテツのあつかいを十分にマスターしたら、もっとすごい刀をやろうと宝条は言った。
むき出しの胸に抱きしめたコテツの刃は心地よく、セフィロスはうっとりと微笑んだ。だまって宝条はセフィロスのもつれた白銀の髪をすく。行為が終わった後、セフィロスの髪をいじることが宝条の癖であった。この時の彼はたいそうやさしい。
「ここでお前を刺したらどうする?子供だからといって、侮りすぎじゃないのか?」
心底愉快そうに宝条は声を上げた。
「まったくお前はかわいいよ、セフィロス。その瞳、ルクレツィアに生き写しだ...じつにそそられるね」
セフィロスが喉元に突きつけた刃を、そっと片手で押さえた。
「好きにするがいい。殺しても飽き足らないほど、憎いだろう?」
白衣をきっちり着込んだだけの宝条は、無論何の武器も身につけていない。セフィロスは一瞬ためらった。
「そんなことはいつでもできる。今はいい」
うつむいて、小さく言葉をつむぐ。嘘だった。
目の前のこの男を、自分は決して手にかけることができないだろう。彼の気まぐれな、捨て犬にかけるような愛情がどれほどセフィロスにとって欠かせないものであったのか、おそらくセフィロス自信も気づいてはいないだろう。
ぎし、とベッドを鳴らし宝条が立ち上がる。
「そろそろ研究室に戻らなくては」
セフィロスは宝条を見上げる。うす赤い花びらを一面に散らされた白い体は、淫靡というより触れることをためらわせる気高さをまとっていた。
「おやすみ、ルクレツィア。私を殺してくれる日を楽しみにしているよ」
秀でた額に軽くキスをして、宝条は出ていった。足を引き摺る特徴ある足音が消えるまで、セフィロスはじっとしていた。
(ルクレツィア)
その言葉はかれにとって懐かしいもののようであった。だが、宝条の、そしてヴィンセントの口からその言葉が出てきたとき、セフィロスはひどくつらかったのだ。
その言葉をささやく彼らは一様に遠い目をしていて、見えない何かをセフィロスのなかに見ている気がする。今、彼らの目の前にいるのはセフィロスだというのに。
それが嫉妬の感情だと気づくほど、セフィロスは大人びてはいなかった。
(今度ヴィンセントに聞いてみよう。るくれちあのこと)
そんなことを考えているうちに、いつしか彼は眠りについていた。
つかのまの、やさしい眠りに.



論文ほっぽりだして現実逃避をしているパノラマです。
むこうの研究室には”Oh!Cute!!"なーんていわれちゃうし。東洋人は幼く見えるのだ。
実際の年を言っても信用してくれない(^^;)
まだ続くの...?みなさまの反応しだいです。


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