パノラマ先生の第1弾

ぼんやりした光だというのに、目が慣れるまで時間がかかった。
ゆっくりと辺りを見回すと、見慣れた手術室であることにヴィンセントは気づいた。
見たくもない顔が、酷薄なほほ笑みを浮かべて現れる。
「・・・しわが増えたんじゃないのか」
「口の悪さはいくらわたしでも直しようがないな、ヴィンセント」
楽しげに宝条が答える。
この男がくるとろくなことはない。
「今度はなにをするつもりだ?」
「何をしようか。それを考えるだけでもぞくぞくするね」
手術台に乗せられたヴィンセントの服を、宝条は起用にぬがせていく。
宝条の指先が素肌をかすめると、ヴィンセントは露骨に眉をひそめた。
消毒液の香りのするつめたい指先。
宝条は壊れ物を扱うような繊細さでヴィンセントの肌に指を滑らせた。
「ああ、この間の手術は成功したな。もう傷痕もほんのわずかだ」
胸から脇腹にかけて、赤い細い筋が彼の白い肌を飾っている。
まだ痛むのか、ヴィンセントは宝条の指が傷痕をかすめるたびはっと息をのんだ。
「おまえがいじる余地がこの体に残っているとは思えないが」
体の震えを悟られぬようにあくまでも平静をよそおってヴィンセントは皮肉をいう。
気丈な彼の言葉を耳にして、宝条は喉の奥で笑った。
「クックック・・・
 そのすました顔がいつまで続くか見物だな。
 今日はおまえの瞳に細工をしよう。もはや人間ではないおまえに黒い瞳はふさわしくない。
 ・・・そう、赤い瞳にしよう。深紅の瞳。魔物の色だ。おまえの漆黒の髪によく似合うだろう」
かるくため息をつく。どうせ何を言ったところでこの男には通じないのだ。
「好きにするがいい」
死すらヴィンセントには許されない。
この男に奪われてしまったのだ。なにもかも。
もはや自分が何を望んでいるのか、ヴィンセントにはよく分からない。
「さあ、麻酔をかけよう」
ゆっくりと辺りが再び暗闇に包まれる。
意識を手放しつつあったヴィンセントには、宝条の声はなぜかとても優しいものに聞こえた。


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