緒方さち先生の第18弾

投稿者 緒方さち 日時 1997 年 8 月 01 日 15:23:21:

せふぃくら絵日記、というタイトルにしようと思ったけど、絵がなければ絵日記にならないことを発見。ありゃりゃ。



/* あの夏の花火 */

7月31日 雨のち曇

今日は、ザックスに無理を言って、カームで開かれる花火大会に連れて来て貰った。出かける間際に、花火大会に連れて行くごほうびだとか言って無理矢理キスしそうになるから、ちょっとした口論になりそうだった。
そんなことをしているうちに花火大会の始まる時間に間に合わなくなってしまって、会場についたときにはもうすごい人だかりになっていて、花火がきれいに見える場所なんて全然残されていなかった。
オレがちょっと怒ったので、ザックスはおごってやると言ってジュースを買いにどこかへ行ってしまった。このすごい人だかりで、はぐれて会えなかったらどうするつもりだったんだろう。




花火はもう始まっていた。
暗い夜空を、いくつもの光の渦が生み出されては消えて行く。ニヴルヘイムの田舎の出身で、打ち上げ花火など見たことのなかったクラウドは、その華麗な光の芸術にすっかり魅せられてしまっていた。
残念なことには、会場でもかなり後方にいたことで、人々の姿に隠されて花火の一部分しか見えないことがあった。
それでも、クラウドはこの花火を大いに楽しみ、すっかり機嫌を直していた。
そして、このきれいなものを、ジュースを買いに行ったまま戻って来ない親友にも見せたいと、探しに行くことにしたのだった。
人混みを少しはずれたところに、屋台の建ち並ぶいっかくがある。クラウドはそこでザックスの姿を探したが、見つけたのは思いもよらぬ人の姿であった。
「クラウド……?」
会場の外側、今着いたところであるらしい神羅の公用車の中から、いくつかの見知った人影が降りるところであった。
「セフィロスさんと……ルーファウス副社長?」
「呼び捨てでいいといつも言ってるだろう」
「『副社長』は余計だよ」
二人に同時に叱られて、クラウドは思わずその身を小さくする。
本来なら、神羅の一般兵に過ぎないクラウドにはこうして声をかけることも出来ない地位にいる二人である。クラウドがソルジャー・ザックスの親友であるという繋がりから面識を得たのだが、まだどうしても対等に話すことは出来ないでいた。
「なんだ、クラウドじゃないか。ここに来るって知ってたら乗せて来てやったのに」
言いつつ、ルーファウスは背後の車を振り返る。今日は、いつものタークスのお目付け役の代わりにセフィロスを連れているらしい。
「花火……見に来たんですか?」
「見たくなかったわけじゃないけど、これも仕事の一環だよ。神羅がスポンサーになってる大会だからね。ぼくとセフィロスとで神羅をアピールしろってさ」
あまり乗り気でもないらしいルーファウスの言葉を、セフィロスの表情が肯定していた。
「クラウド、おまえは? 花火を見に来たのか?」
「あ、はい……」
セフィロスに声をかけられて、クラウドは赤面しそうな己を感じながらやや顔を俯かせた。
「花火といっても、こんな後ろからではよく見えないだろう」
「あんまり、よくは見えないです」
「セフィロス、この子も貴賓席に連れて行ってあげようよ」
「そうだな」
「え……っ?」
クラウドの返答も待たずに、セフィロスとルーファウスの二人はクラウドの両腕を取って歩きだした。
「あ、でもちょっとオレ、ザックスを待ってて……」
「おまえを待たせるような奴、そのまま放っておけばいい」
「貴賓席だったら、花火もよく見えるって。もっとよく見たいだろう?」
「あ、うん……」
クラウドは思わず頷いてしまう。
「じゃあ行こう」
ずるずると引きずられるように歩いて行くクラウドを、高くあがった花火がぼんやりと照らし出した。

貴賓席は、もちろんいちばん眺めのいいところにしつらえられてあった。
しかも、外からはまったく見えないようになっているようである。それでは来賓としての『見せ物/看板』的意味があまりないのではないかとも思うのだが、二人は気にしたようすもなく、クラウドをむりやり二人の間に座らせた。十分な大きさのあるソファなのだが、なぜか寄り添うように間近に座ってくる。
「なんかクラウドと会うのも久しぶりだよね」
「そうだな。俺もしばらく仕事でミッドガルを離れていたからな」
「そう……ですか?」
何気ない会話である。
しかしすでに二人の手はクラウドの身体の上を這っていた−−−−衣服の上からではない、直接素肌をである。
まるで申し合わせでもしたように、セフィロスに下肢を、ルーファウスに上半身を触れられて、クラウドは小さく身を捻った。けれど、もちろんそんな小さな動作で両脇の二人が放してくれるわけもなく、かえって腕を掴まれ腰を抱えられるきっかけを与えてしまっただけであった。
「あ、あの……ちょっと……」
セフィロスの長い指がクラウドの衣服を無造作に寛げていく。むき出しにされていく自分の下肢から視線を反らそうとするクラウドの小さい顎は、抗いがたい力で引き戻された。噛みしめた唇を柔らかい舌で割られ、口腔内を荒されるその感触にすべての自制が引きちぎられる。
いつしかクラウドは、胸の上の果実に唇を寄せていたルーファウスに、すがりつくように腕をまわしていた。
「花火は見ないのか?」
揶揄するようなセフィロスの声。喋るために離された唇を追いかけるように求めて身体を浮かすクラウドを、セフィロスは満足そうに目を細めて眺めると再び唇を重ねた。重ねながら、クラウドの痩せた身体からすべての衣服をそぎ落としてソファの上に抱え上げた。
唇を奪われながら下肢を嘗められる感触に、クラウドは細い背中をしならせて耐えた。
「あ……もう、もう……」
ソファの上で膝立ちにさせられた脚が、がくがくと震え出す。
頃合いを見計らったように、クラウドの上で密談の視線が飛び交った。
「先にいいよ。こっちで遊んでるから」
クラウド自身に手を伸ばしながらのルーファウスの台詞に、セフィロスは視線だけで応答し、クラウドを抱え直した。背後から子どもを膝に座らせる姿勢で持ち上げて、ゆっくりと貫いた。
「あ、あ……っ!」
いつになく緩やかな動きにゆすり上げられ、前からは屈みこんだルーファウスに口中で愛撫され、クラウドはゆっくりと高みへと押し上げられていった。
そうして、目の前に広がる暗い夜空でひときわ大きく花火が弾けた一瞬に、クラウドもすべての快感を解き放っていた。



でも、はぐれるより先に、セフィロスとルーファウスにばったり会って、貴賓席まで拉致されてしまった。花火がよく見えるって言われて行ったのに、あの二人と一緒にいたら花火どころじゃなかった。
帰りも送ってもらう車のなかでセフィロスにキスされた。今度は二人だけで会う約束をした。花火は全然見た気にならなかったけど、今年の花火は一生忘れられそうにない。




「ちっくしょおおおおおおおお!!」
ザックスは、これ以上ないというほどの大声でわめきちらした。
主のいない部屋で見てしまったクラウドの1カ月前の日記。そこには、花火大会の夜のザックスと離れてからのクラウドの行動がちゃっかり書いてあったのだ。
よりにもよって、あのセフィロスとルーファウスと一緒とは!
しかも『花火どころじゃなかった』とか『帰りも』キスされたとか、妖しい単語が連なっているではないか。
ザックスはようやく、八割りほど自分に落ちかかっていたクラウドが、くるりと身を翻すようにセフィロスとデキてしまった原因がわかったような気がした。
「くそう……俺、ジュース買いに行っただけだったのに……」
たった数ギルのジュースのために、クラウドはザックスの手の中から奪い去られてしまったのだ。
「だああああああっ!」
「うるさいぞ、ザックス」
ばこん、といきなり後頭部を蹴りつけられた。
振り向くとそこには憎きセフィロスが、いつものようにちょっぴりザックスを見下したような視線を寄越しながら立っている。
「ここはクラウドの部屋だろう。ここで何をやっている?」
「う……うるせえな。クラウドを待ってるんだよ」
「横恋慕の末、部屋で待ち伏せか。あまりいい趣味ではないな」
「やかましい!」
怒鳴りながら投げつけたクラウドの日記の、開いたページをさらりと呼んで、セフィロスは微かな嘲笑を浮かべてザックスを見た。
「なんだよ……」
「おまえ、この花火大会がすべての始まりだと思っているんじゃないだろうな」
「どういう意味だ」
「いくら意志薄弱のきらいのあるクラウドだとはいえ、いきなり一度抱かれたくらいで恋に落ちるようなたやすい子ではなかったな」
「……」
「おまえが仕事でミッドガルを出ているところを見計らって、しかも偶然を装ってクラウドに会いに行くのは結構な手間だったぞ。途中ルーファウスと一緒になって遊んだりもしたからな。俺が本気なのだとわからせるために、いろいろ手管を使うことにもなったが、あの子が手に入ったのだから今考えれば安いものだ」
「お……おれがクラウドに惚れてるって、知ってただろうあんた!?」
「もちろん、知っていた。だから急いだんだ」
あっさりと、セフィロスは言ってのけた。
「き……きったねえ……」
「惚れていたことさえ伝えられなかった馬鹿者に、文句など言われたくはないな」
罪悪感などかけらも感じていないようなセフィロスに、思わず脱力してしまうザックスにとどめをさすように、いきなり開いた扉の外から、嬉しくてどうしようもないと言った声でクラウドがセフィロスの名を呼んだ。
「セフィロス、待った?」
迷わずセフィロスに抱きついて軽く唇を合わせながら、クラウドはようやくザックスの姿に気付いて顔を赤らめた。
「あれ、ザックス? どうしてここに?」
いかにも迷惑といった様子のクラウドの言葉に、ザックスはたまらない虚しさに襲われた。
「何かオレに用?」
「いや、別に……」
それ以上何を言えというのだろう。乾き切った表情で、ザックスはただ笑った。
「ザックス、オレたち出かけたいんだけど」
「あ、ああ……」
「ああ、じゃなくって、鍵をしめたいからザックスも出てくれよ」
無情なクラウドの言葉に部屋を追い出され、ザックスは呆然と廊下に立ち尽くした。
目の前を、抱きあうような親密な距離で肩を並べて歩いて行く二人がいる。
「セフィロス、あのさ」
「うん?」
「今度ジュノンで花火をやるんだけど」
「見に行きたいか?」
「うんっ!」
「そうだな、今度は神羅の飛行艇でも借りて行くか」
「本当? オレ一度あれに乗ってみたかったんだ」
甘えた会話が、二人とともにゆっくりと廊下を遠ざかる。
その声を聞きながらザックスは、自分はもう二度と花火なんて見に行かないだろうな、と思ったのだった。


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