今日はもう、あんまり働きたくなかったりして。ついこんなことをしてしまうのでした……。
神羅人生相談室。
神羅カンパニーで働く人々のための、生活全般を対象としたカウンセリングコーナーである。社員全員が健康で楽しい暮らしが営めるようにと、幹部社員の誰かが言いだして作ったようだが、はっきりいってこんなところを訪れるものなどこれまでは皆無に等しかった。
はっきり言って、設置されてこのかた、相談者などいたかいないかわからないくらいである。
しかし−−−−ある晴れた日の午後、めずらしいこともあるもので、その薄汚れた扉を叩く小さな人影があった。金髪碧眼の小柄な青年−−−−クラウド・ストライフである。
決して弱々しいというのではないのだが、ほっそりした体躯に似合いの、どこか儚げな容貌が庇護欲をかきたてられずにはいられない、そんな青年である。
端麗とさえ言えるだろう容貌をしていながら、その面にはやや疲労の影が見える。
「……お入りください」
青年のノックの音に対して、やや低めの男の声が室内から応じた。どこかで聞いたような声だと青年は思ったが、どうやらマイクか何かを通して、声を変化させているらしい。
「どうぞ、その椅子におかけください」
室内は、相談者の顔が見えないようにか曇りガラスで出来た衝立に区切られて、相談者の側は小さな椅子が一脚置いてあるばかりの狭いスペースである。
青年は、気後れしたような素振りで椅子に腰掛けた。
「なにか、お悩み事が?」
「あ、……はい。あの……」
「なんでもご遠慮なくどうぞ」
「あの……寮での同室のもののことなんですけれど……」
「はい」
「先輩で、オレなんかとはまったく、位が違うようなすごい人で……。寮で生活しているのが不思議なくらいなんですけれど。しかもオレと同室なんて……」
「その先輩が、どうしました?」
「あ、あの……。セフィ……いや、あの、先輩なんですけど、元気で……困ってるんです……」
「元気、というと?」
「仕事で毎日疲れてるはずなのに……帰ってくるなりいきなり……ベッドへ直行して何回も……したがるんです。そのまま朝まで眠らせて貰えないこともあるんです。いくら駄目だって言っても聞いてくれなくて……」
「……それだけですか?」
「ええと……あと、部屋に戻ってからだけじゃなくて、階段とか、ひとけのない通路とかに行くとすぐに……」
「……しちゃうんですね」
「……はい。駄目だって……言ってるのに……」
衝立の向こうで、相談役らしい人物が溜息のような大きな息を吐き出す気配があった。
相談に来た青年は、おとなしく椅子に腰掛けて返答を待つ。
「どうしたら……いいでしょうか……」
「イヤなんですか?」
「え?」
「されるのがですよ。嫌いですか?」
「え? ええと……いえ、その、別に……嫌いってわけじゃ……」
「じゃあ、階段や通路でするのは嫌いですか」
「別に……それも、嫌いじゃ……」
「それじゃあ、何度もされるのは嫌い?」
「あの……そうです。疲れちゃうんで……」
「わかりました」
相談員は、はっきりと言い切った。
「何度もされて凄くいやになってきたら、なるべく可愛い声を出して、やめてくれるようにおねがいしてみてください。あなたのその先輩が、優しい人であれば、あなたのカラダを気づかってやめてくれるでしょう」
「そう……でしょうか……」
「そうです!」
やけにきっぱりと言い切る相談員に、相談をもちかけていた青年はあまり納得いかないという顔で仕方なく頷いていた。
「よお、セフィロス、なんかご機嫌じゃないか?」
珍しく上機嫌を面に表していたセフィロスを、ザックスは少々不気味に思いながら呼び止めた。
神羅カンパニー本社、ソルジャーがほてほて歩いているには不似合いな、庶務系部門のフロアである。
ザックス自身はこのフロアのきれいなおねえちゃんたちとたわむれにやって来たのだが、そういう遊びもしないセフィロスが、このフロアに何のようがあったのかと不審に思う。
しかも、今セフィロスが歩いてきた方向には、神羅でいちばんくだらないと言われる設備、「神羅人生相談室」なるものがあるばかりなのである。
セフィロスが、人生相談をしてもらうタイプとも見えないが、他人の人生の相談にのってやるというタイプにはまっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったくみえはしない。
「なんかあったのかあ? 機嫌よさそうだよなあ、ダンナ?」
「……ちょっとな」
セフィロスの答えはそれだけだ。
それ以上問い詰めるのも何かと思い、ザックスは何となく薄気味悪いなにかを感じながら口を閉ざした。
−−−−その晩のことである。
いつものように、仕事から帰ってきたセフィロスにいきなり押し倒されて「あぁん!」とか「いや……っ」とかの声を散々出させられていたクラウドは、数ラウンド終了後、さらにのしかかって来ようとするセフィロスに、本日獲得したばかりの新技を披露することにした。
「ね……ちょっと、待って、セフィ……」
「どうした、もっと違う恰好でやりたいのか?」
「そうじゃなくて……。ちょっと疲れちゃったんだけど……今日は、これくらいにしようよ……ね? 明日も仕事があるし、セフィだって、仕事に差し障りがあると困るでしょう?」
セフィロスは、そんなことを言いだしたクラウドを、いままさに押し倒そうという態勢でまっすぐに見つめていた。
「セフィロス……?」
一瞬の沈黙。
そのあと。
まるでクラウドがそう言いだすことをはじめから知ってでもいたかのように驚きもせず、セフィロスはいきなりがばっとクラウドの身体を押し倒し直していた。
「ちょっ……セフィ!?」
「クラウド……そんな可愛らしいことを言ってわたしを誘うなんて、悪い子だな……」
「誘ってないんだってばー!」
「そんなに嫌がるふりをして……強姦プレイでもしたいのか?」
「違うーっ!!」
クラウドがどれだけもがこうと、無敵大魔神セフィロス様にはかなうわけもなく、結局、本日数回目の濃密な戦闘へと突入するのであった。
なんでしょーね、これ……。
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