緒方さち先生の第13弾

/* 図書室 #4 */

図書室。続きです。洒落ですから、あんまり真剣に読まないように(笑) どんどんつじつまがどこか遠くのほうへ飛んでいく(笑) ちょっと設定をClean upしたかったかなー。でもしない(笑)

#4

 冷たい床の上で、クラウドは荒れた呼吸を整えた。
 汚された素肌に直に触れる床面はひやりと冷たくて、泣きたくなる。立ち上がりたくとも、貫かれたばかりの下肢は言うことをきかず、震える脚の間を伝う生温かい汚液の存在を、クラウドはただ俯いて耐えていた。
「どうした……痛むか?」
 身をかがめてのぞき込んで来る青年は、すでに衣服をきっちりと整え終わり、獣のようにクラウドを貪っていたことなどすっかり忘れてしまったような顔をしている。差し伸ばされた手を、クラウドは弱々しくはねのけた。
「触る……な」
 クラウドの力で叩いたところで、かっちりと筋肉のついたザックスの身体がどうできるわけでなく、かえってバランスをくずしてへたりこんだだけであった。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫なわけ……ないだろう」
 精一杯の虚勢で吐き捨てる。
 だが、上げた視線の先に、今までの自分の情事を嘲笑うかのように平然とした面持ちをした日常の風景が飛び込んできて、クラウドはふたたびぐったりと俯くことになった。
 休館日のプレートを下げられて人のいない図書室のその奥で。半身に制服を着込んだままで獣のように性を貪られている。あまりに不様であまりに惨めだ。
 蹲り俯いてしまったクラウドをどう思ったものか、ザックスは不意に手を伸ばして手にしたハンカチでクラウドの汚れたままの下肢を拭った。
「止せよ……」
「じっとしてろよ。すぐに済むから」
 弱々しく抗うクラウドの手も意に介さず、ザックスの大きな手は意外に細やかに自らの欲望の跡を拭い取っていく。しかしまたそれも、次にこの身体を使うだろうセフィロスに対する配慮なのだと思えば、腹立たしいことこのうえもない。さらに奥を拭おうともぐりこんで来るザックスの指を、クラウドは力任せに振り払った。
「クラウド、おい」
 名前など呼んで欲しくはない。
 クラウドが求めているのは、いつもただひとつのもの、ただひとりのひとの呼ぶ声でしかなかった。
まだ何も−−−−哀しいことはなにひとつ知らなかったあの日に、あのひとが自分を呼んだあの声。忘れることなどは出来なかった。どれだけ酷く扱われようとどれだけ傷つけられどれだけ貪られようと、初めて彼が自分を呼んだあの声を、この胸の内から消してしまうことなどは出来なかった。
 だからこそこうして、あのひとの意のままに他の人間にこの身を任せ続けているのだろう。もう一度あの眼差しで自分をみつめ、あの声でこの名を呼んでくれるというのなら。
 この身体を何万の悪魔に貪られたところで悔いはない。
(セフィロス−−−−……)
 まるで世界のすべてを拒絶するように、細い両腕で頭を抱えこむように蹲ってしまったクラウドを、ザックスは唐突に腕の中へと引き起こした。
「触るなって……言ってるだろ……」
「いいから、じっとしてろ。頼むから」
 クラウドを膝の上に腰かけさせるような体勢に抱え直すと、彼の小さな痩せた身体をザックスは強く抱きしめた。抱きしめられた腕の熱さにクラウドはわずかに身をこわばらせ、内心のおびえを気取られたかのように優しく髪を撫でられて吐息を漏らす。ほぼ毎日のように彼ら−−−−セフィロスとザックスの二人にだ−−−−に抱かれていながらも、こうして優しく抱きしめられるのは本当に久しぶりのことであった。燃え尽きたあと急激に醒め、冷え切っていた身体にザックスの体温は気持ちがよかった。
抱きしめたその腕を、ザックスはいつまでも外さない。けれどその腕があらたな欲望を潜めて動き回ることはなかった。
「クラウド……」
 囁きさえも熱い。
 その熱さは、セフィロスがクラウドに向ける執着などとはまったく質の異なるものだ。クラウドにはわかった。遊びだといいつつも、ザックスは決してクラウドをただの玩具のようには扱わなかった。それどころかいつの逢瀬も心底嬉しそうにクラウドを迎え、気遣いながらクラウドを抱いた。まるで、クラウドを本当に好きなのだとでもいうように−−−−
 そしていつもザックスは、少し辛そうな顔をする。クラウドから離れるその瞬間に。セフィロスに貪られるクラウドを見た瞬間に。切ないような哀しむような、それでいて決して哀れみではない表情をクラウドに向けていた。
 セフィロスと同じだけの時間を抱かれながら、なぜザックスにだけ酷く腹が立ったのか、今頃になってクラウドはようやく気がついた。
 あの眼差しで自分を見ながら、闇の中でもがいている自分のこの手を決して掴んではくれないそのことに、自分勝手に腹を立てていた。本当はセフィロスを求めているくせに、ザックスのこの腕に救われることを願っていた。
「クラウド」
 淡い色合いの金の髪をいくども指先ですきながら、ザックスは言う。
「逃げるか、俺と?」
「ザックス……」
 驚いて顔をあげたクラウドの目に、めずらしく本当に嬉しそうに笑う男の顔が映る。
「やっと、俺の名前、呼んでくれたな……」
 子どものようなその笑顔に、胸のどこかがちくりと痛んだ。俯いてしまうクラウドに、苛めるつもりはないんだとザックスは慌てて言葉を重ねた。
「どうして……」
「おまえが好きだ。いまさら俺がこんなこと言ったって、信じちゃくれないかもしれないけど−−−−ずっと、おまえが好きだった。横から手を出されてセフィロスに取られても、共有って形でもいいからおまえが欲しいと思ってた。どんなに憎まれても嫌われてもおまえに触れられるんならって……そう、思ってた。
 今だって好かれてるなんてこと、考えちゃいない。おまえに散々なことをしておいて、いまさら俺を好いてくれなんて言えないことはわかってる。
 それでも、もし俺を信用して−−−−頼ってくれるなら、おまえをあいつの、セフィロスの手から奪って、逃してやることは俺にも出来る……」
 泣きたい気持ちを堪えながら、クラウドは抱きしめる男の顔を見た。
「クラウド、おまえが本当にセフィロスのことを好きだっていうなら、俺はもう何も言わない。でも、おまえはきっと、あの男にとらわれてるだけなんだ。あいつが見せたうわべの好意や優しさなんてものに、とらわれてるだけなんじゃないのか?」
 声はどこまでも優しかった。詰るわけでも責めるわけでもなく、急がせることもなくただ、クラウドの返答を待っていた。
 そうして。
「クラウド……?」
 はじめてクラウドが自分から、自分の意志でザックスの胸にその身を投げかけたとき、最初の涙がクラウドの頬を伝っていた−−−−


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