緒方さち先生の第10弾

せのおさん……ついこんなことになってしまいましたが。まあ笑って許していただくということで。
純文学ニューバージョン。ミディール・ジェノバ温泉美人おかみ版(笑)
(ちなみに、照れくさくて書けなかったが、セフィロスとクラウドは和装です……)



 その温泉は、ミディールの辺境の、さらに奥地にひっそりと在った。
 スランプを口実にここまでやって来たものの、あるのは温泉宿ばかりの辺鄙な土地だ。静かではあるかもしれないが、ここ数カ月自分を悩ませている気鬱からは逃れられぬだろうと、セフィロスはひそかに溜息をついた。
 前を歩く若い担当の編集者、ザックスは、温泉など慣れていないのだろう、わずかに緊張し、子供の遠足のようにわくわくとした気分を漲らせている。彼が案内したこの温泉で、担当作家であるセフィロスが新作を書き上げれば、二重の功績となるのだろう。
 入社して二年目という、まだ若いこのザックスを落胆させるのは、セフィロスとしてもあまり嬉しいことではなかったのだが、何かを書き上げられる自信は今の彼にはまるでなかった。
 いつのころからだろうか。
 周囲を取り巻くすべてのことに興味を持てなくなり、何もかもがつまらないことに思えてしまったのは。
 厭世−−−−とひと言で云ってしまうには、その病は重かった。
「ほら……見えてきましたよ、先生。あれがミディールでも秘湯中の秘湯、この道の通しか知らないという温泉宿です!」
 嬉しそうに指さすザックスの手の先に、こじんまりとはしているがなるほど温泉宿らしいつくりの建物が見えてくる。
 いくぶん古びてはいるものの、外観としてはかえってその年代の深さが趣を与えているといったところだろうか。手入れされ、美観を損なわぬように刈り込まれた庭木が、主人の趣味のよさをうかがわせている。おそらくは、この辺境で長いこと趣味の道を極めてきたものが主なのだろうと、セフィロスはそう、思っていた。
 だから、入り口のところで彼らを出迎えに出た小さな人影が、この宿の主なのだとは、すぐには気づかなかったのだ。
「いらっしゃいませ。ごゆるりと、お過ごしください」
「しばらくお世話になります、ウチの先生のこと、よろしくお願いしますよ」
 ミディールよりは北の出であるらしい、淡い金の髪がふわりと揺れた。白い小さいおもては、やはり北方を思わせるうす青の瞳に飾られて、どこか薄幸そうな雰囲気を持ちつつ伏せられている。肩も腕も、セフィロスよりはひとまわりもふたまわりも小さく、力をこめて抱きしめれば折れてしまいそうだと思わされた。
「ね、先生、美人でしょ。ここは、温泉も宿も料理も素晴らしいけど、やっぱりいちばんはあのひとだなあ」
 クラウドさんって云うんですよとザックスがこっそりと耳打ちした。
 なるほど。この若い編集者は、長年彼の作品の愛読者だったというだけあって、彼の好みをよくわかっているようだ。それを前提としたうえで、いい宿だと云っていたのだろう。
 幼い面差し、伏せ気味の瞳、抱けば折れそうな細い体躯のその儚げな風情−−−−
「なるほどな」
「……でしょう?」
 彼らを案内するために先に歩きはじめたほっそりした後ろ姿をみつめるセフィロスの視線は、知らず知らずのうちに獰猛な肉食の獣の光を帯びていた。



温泉美人おかみクラウド危うし(爆笑)
次回、露天風呂で「お客さん、やめてください!」の巻。乞ご期待……というのはウソですが。
戸外で着物をびりびり破いたり庭木に押しつけたりするんだな、きっと。(このセフィロスって……えす×む小説家なんじゃねえの……?)

じゃ、そーゆーワケで!(書き逃げ!)


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