緒方さち先生の第6弾 |
しまったあ! これじゃ「神羅書店元社長(引退済)」じゃないか!
「や……やめてください……」
差し伸べられた手を、振り払おうとクラウドは身を捩った。
しかし、背中にもたれかかるように接触してきた小男は、クラウドの細い腰をその腕に抱え込んで離さない。それどころか、耳元に息を吹き掛けるような近さで囁いてくるのだ。
「いいだろう、少しだけだ。なに、酷いことなどしたりはせんよ。跡が残るようなこともな……」
プレジデント神羅は、その体躯の小ささからは思いもよらぬ強い力で、クラウドから動きを奪ってしまっていた。むりやりにその肉厚の手のひらを、襟の合わせ目に差し込もうとする。
首筋をかすったその手の体温の熱さに、クラウドはたまらない嫌悪感を覚えた。
「やめてください……人を呼びます!」
「いいのかな……? 確か、旦那さんの新刊は今月発行されるのだろう? 私が一声かければ、純文学作家一人くらい業界からしめだすことはわけもないのだぞ?」
「そんな……」
クラウドは、俯いて唇を噛んだ。
この男ならばやるだろう。神羅書店を己の力ひとつで業界一の出版社へと成長させたこの男の、汚い手口は作家の妻に過ぎぬ自分でも聞き知っている。
「わかったかな……?」
抵抗をやめた身体に、ねとつく感触の手のひらがゆっくり差し込まれていく。
胸の果実を強く擦られて、クラウドはきつく、目を閉じた。