緒方さち先生の第1弾

きぃ、きぃと断続的に小さな音がする。
真白い病室に彼はひとりだった。
彼をいつも診ていてくれる少女も今は室内にはいなく、彼はまったくの一人であった。
だが、彼にとってはどちらでもいいことなのだ。彼女がいようがいまいが、傍らに誰がいようとも構うことはない、彼はいま、心という名の檻の中にいるのだから。
クラウド・ストライフ−−−−己のその名すら、彼は忘れてしまったかのようであった。
ただ白い病室で、飽くことなく虚ろな一点を見つめ続けて。心はさまよい続ける。過去を、記憶を、過ちと刻印された己の認識の中を。
彼は何も見ていない。だから気付くことはなかった。看病してくれる少女ではない長身の人影が、ゆっくりと病室へ入ってきたことも。
「クラウド……」
さらりとした衣擦れの音だけをたてて、長身のその人影は彼の目のまえに屈み込む。青白い頬に冷たい手のひらをあてられてなお、クラウドの視線は虚空をさまよった。
ぎんいろの長い髪がクラウドの視界できらりと光をはねかえす。もしも彼が正気であれば、未だ壁にたてかけて置いてある大剣をその手に取ったろう。その長身の人物こそ彼とその仲間たちが仇と追っていたソルジャー・セフィロスその人だったのだから。
「戻っておいで……」
「ウ……あァ……」
いやいやをするようにかしぐクラウドの頭を両手で支え、セフィロスはゆっくりと唇を近寄せた。
柔らかく冷たく覆うその感触に、己を失ったはずのクラウドの視線が一瞬だけ動きをとめて、目の前に跪く男の姿を映し出した。覗き込んだその瞳は、淡く輝くような色をした魔光の、いやライフストリームそのものの輝きを映し出した翠のいろだ。
知っている、とクラウドは思った。凍りついた意識の奥底から、他ならぬ自分自身が叫びをあげているようだ。この人を知っているのだ。いいや、忘れることなどできない人だ。
そして忘れてはならない人だったのに……。
「セ……フィロ……ス……」
途切れ途切れの呟きでその名を呼ばれ、セフィロスは満足そうにその目を細める。
「いい子だ、クラウド……」
囁きは淫靡だ。
ぞくりと背筋を走るなにかを感じとり、クラウドは無意識のうちに押し返すように手を伸ばす。だが、力ないその手はセフィロスの力強い腕に逆に捕らわれてしまっただけであった。
「戻っておいで、クラウド。おまえがなくしたすべての記憶をその手に再び取り戻し、混濁した記憶の中に埋もれた真実を掴み取っておいで……」
再び重ねられた唇は、ひどく甘い。
その甘さを、自分は忘れているのか、とクラウドはぼんやりとする意識のどこかで悔しく思っていた。
記憶の中に埋もれた何か−−−−ソルジャーのクラウドではなく、ソルジャーにはなれなかった己とこの人との間にある何か−−−−それはきっと、この口づけのような甘い感触をしているのかもしれない……。
ゆらりと空気がゆらぐような不確かさで、不意にクラウドの目のまえから銀色の人影はかき消えた。

あ、オチてないなあ……。
いや……ミディールの「あうあうクラウド」どうしてもセフィロスに見て欲しかったのよわたし……。
可愛いから……。
しかし、その態勢で跪いたらやることはひとつだろうセフィロス! とかいいつつちゅーだけで終わるとは何事……。
口直しの代わりにお目汚しになってたりして(涙)ううう……失礼しました。


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