ミュウ先生の第2弾
走れセフィロス<2>

新社長ルーファウスは、静かに、けれども気取って問いつめた。その社長のスーツは白のダブルで、みけんにかかる前髪は、なんとなく鬱陶しかった。
「この星をセトラの手に取り戻すのだ。」と、セフィロスは無感情に答えた。
「おまえがか?」社長は偉そうに笑った。「フッ。仕方のない人だな。お前なんかには、私の夢は分からないだろう。」
「言うな!」と、セフィロスはいきりたって反駁した。「ヒトの物を奪うのは、最も恥ずべき悪徳だ。社長はセトラの民を甘くみている。」
「奪うのが正当な心構えなのだと、私に教えてくれたのは、おやじだ。自分で作ったものはあてにならない。私はもともと私欲の塊だ。何か」気に障ることでもしたかな?」社長は落ち着いて演説し、フッとため息をついた。「私は、平和は望んでいるが。」
「クックック。平和だと。自分の地位を守るための、か。」今度はセフィロスが、怪しげに嘲笑した。
「罪のないセトラを殺して、何が平和だというのだ。」
「ちょっと待て。」社長はさっと顔を上げて報いた。「私は、別に古代種を殺した覚えはないのだが?それに、どうも話が噛み合ってないようなきがするんだが・・・。」
「ああ、社長はりこうだ。よく気がついた。確かに私たちは、お互い別のことを言っているようだ。では、------。」と言いかけて、セフィロスは足もとに視線を落とし、瞬時ためらい、「では、こうしないか。今から三日間の日限を私に与えてもらいたい。たった一人役に立った少年の引越をきちんと手伝ってやりたいのだ。三日のうちに、私は街で移動をすませ、必ずここへ帰ってくる。もし帰ってきたら私の勝ちだ。私がすべて、すべては私となる。しかし、もし帰ってこなければ、約束の地はあなたのものだ。あとは好きなようにするがいい。」
「ば、ばかな。」と、社長は驚いた様子で、また偉そうに笑った。「本当にいいのか?逃がしたチョコボが帰ってくるはずもない。これで約束の地は私のもの、か。悪いな、おやじ。」
「いや、私は帰ってくる。」セフィロスは静かに言い張った。「私は約束の地は渡さない。だから帰ってくる。しかし三日間だけ許してほしい。少年が私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないのならば、よろしい、この村にヴィンセントという元タークス、今は無職の男が眠っている。私の心の友だ。あれを人質としてここに置いていこう。私が逃げてしまって、三日目の日暮れまで、ここに帰ってこなかったら、あの友人に約束の地まで案内してもらえばいい。その後、永遠の眠りにでもつかせてやればいい。頼む、そうしてくれ。」
 それを聞いて、社長は得意気になって、そっと前髪をかき上げた。生意気なことを言う。どうせ帰ってこないにきまっている。このうそつきにだまされたふりして、放してやるのもおもしろい。そうして、身代わりの男を三日めに引き連れて、約束の地を手に入れるのも悪くない。民衆はこれだから愚かだと、私は大きな顔して、用が済んだらその身代わりの男をガス地獄の刑に処してやるのだ。世の中を恐怖で支配し、地獄にいるおやじに、うんと見せつけてやりたいものさ。
「よし、いいだろう。その身代わりを呼ぶといい。三日めには日没までに帰ってくること。遅れたら、その身代わりを、きっと殺してしまうぞ。ちょっと遅れてくるといい。君の罪は、永遠に許してやろう。」
「なに、何を言う?」
「クックック、ハッハッハ。我が身が可愛いなら、遅れてくるんだ。むざむざ人間から離れたくないだろう。」
 セフィロスは悔しく、前髪をいじった。ものも言いたくなくなった。
 心の友、ヴィンセントは、深夜、ジュノン支社に召された。新社長ルーファウスの面前で、良き友と良き友は、初めて相会うた。セフィロスは、友にいっさいの事情を語った。ヴィンセントは無言でうなずき、セフィロスをにらみつけた。心の友の間は、それでよかった。ヴィンセントは縄打たれた。セフィロスはすぐに出発した。初夏満天の星である。
 セフィロスはその夜一睡もせず、十里の道を急ぎに急いで、街へ到着したのは、明くる日の午前、日は既に高く昇って、街人たちは外に出てラジオ体操を始めていた。セフィロスの十六の少年も、今日はセフィロスの代わりに見回りをしていた。よろめいて歩いてくるセフィロスの疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさくセフィロスに質問を浴びせた。
「なんでもない。」セフィロスは無理に笑おうと努めた。「ジュノンに用事を残してきた。また、すぐに行かなければならない。明日、お前を引き渡す。早いほうがよかろう。」
 少年は少し寂しそうだった。
「寂しいか。だがお前のためだ。新しいマテリアも買ってきた。さあ、これから行って、近所の人たちに知らせてこい。移動は明日だと。」
 セフィロスは、また、よろよろと歩き出し、家に帰ってジェノバに祈り、引越の準備を調え、まもなく、床に倒れ伏し、自らにスリプルをかけ、て呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
 目が覚めたのは夜だった。セフィロスは起きてすぐ、宝条の実験室を訪れた。そうして、少し事情があるから、少年を明日引き取ってもらえないか、と頼んだ。宝条は驚き、それはいけない、こちらにはまだなんの支度もできていない、コピー達が動き始めるまで待ってくれ、と答えた。セフィロスは、待つことはできない、どうか明日にしてくれたまえ、と更に押して頼んだ。宝条も頭が堅かった。この堅さが二流科学者の限界であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論を続けて、やっと、どうにかして宝条をおどして、説き伏せた。引越は真夜中に行われた。少年の荷物整理と、神々への挨拶がすんだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて大いなる福音のような大雨となった。準備に参加していた人々は、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい、気持ちを引き締めて、せまい研究室の中で、むんむん匂う薬品の匂いをこらえ、陽気にセフィロスコーラスを歌い、手を打った。セフィロスも、満面に喜色をたたえ、しばらくは、社長とのあの約束をさえ、忘れていた。準備のほうも終わりに近付き、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。セフィロスは、一緒に行きたい、と思った。この可愛い少年達と、生涯暮らしていきたいと願ったが、今は、自分の体で、自分のものではない。ままならぬことである。セフィロスは、我が身にむち打ち、ついに出発を決意した。明日の日没までには、まだ十分の時がある。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、そのころには、雨も小降りになっていよう。少しでも長くこの研究室にぐずぐずとどまっていたかった。セフィロスほどの男にも、やはり未練の情というものはある。こよい、ぼうぜん、何が何だか分からなくなっているらしい少年に近寄り、
「良い子だ・・・。私も疲れてしまったから、ちょっとごめんこうむって眠りたい。目が覚めたら、すぐにジュノンに出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうお前にはたくさんお同胞があるのだから、けっしてさびしいことはない。お前の主人のいちばん嫌いなものは、人をせめることと、それから、きれいごとを言うことだ。お前も、それは知っているね。同胞達の間に、どんな秘密も作ってはならぬ。お前に言いたいのは、それだけだ。お前の主人は、たぶん神に選ばれし存在なのだから、お前もその誇りをもっていろ。」
 少年は無心にうなずいた。セフィロスは、それから宝条の肩をたたいて、
「支度のないのはお互いさまさ。私の家にも、宝といっては、コピーとジェノバの本体だけだ。ほかには何もない。全部あげよう。もう一つ、セフィロスの父親になったことを誇ってくれ。」
 宝条はもみ手して、笑っていた。セフィロスは、笑って皆にも会釈して、家から立ち去り、魔光炉の奥の部屋に潜りこんで、死んでしまった・・・・・・・・・ように深く眠った。



ふう。テストがあるからしばらく書けないので、書きだめしました・・・。疲れた・・・。 ところで、太宰治さんの墓は、家の結構近くにあるんです。何だか怒られそうですね。


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