まんぼう先生の第2弾

廊下の方から最近やっと聞き慣れた機械音で時報がなる。
「時間だぞ、クラウド。」
「あ?・・・・ああ。」
プライバシーという単語とはほど遠い、鍵のない扉一枚と薄い壁で区切られた兵士寄宿舎の一室。クラウドはザックスという名の年上の青年と同室をあてがわれていた。
彼は面倒見がよく、世情はおろか常識にさえも疎いクラウドを弟にするかのように世話してやっていた。
「おまえも大変だよなぁ。入ったばかりじゃしょうがないけど、寝坊するくらい辛いのか?」
「そうでも、ないと思う・・・昨日は・・・どうしてかな?・・やけにだるい・・・」
「まあ、おまえのその躰じゃ人より鍛えないと使いものにならないだろーけどな。」
時間に遅れまいと必死になって制服と格闘していたクラウドは、まだ整えていない金髪を乱暴に振ってザックスの方へ向く。
すこしむっとしているので頬が上気している。唇をとがらせ、何かを言おうとしたが、手にしていた上着が思うようにいかなかったので、無視することにした。
・・・・・・昨日、金具を一個留めたまま脱ぎ、そのまま掛けていたらしい。
ザックスはにやりと笑うと、クラウドの白く、美しい弧を描いた背を軽く叩いた。
「っっっわあぁつ!」
手元にのみ集中していたクラウドは不意打ちによろめく。ついでにまだベルトをしていないスラックスのすそを踏みつけた。
・・・・・・転んだ・・・・
その反動でクラウドの姿は振り出しに戻る。
恨めしそうに非難するクラウドを今度はザックスが無視する。
そこで、もう一度時報。
「遅刻、決定。」
そう呟くと素早くバスターソードを背負い、ザックスは扉に走った。
「ちょっ!・・ずるいっ!」
クラウドは青ざめ、引き留める。本気になって叫んだ語尾が切なげに掠れる。それに絡め取られたようにザックスは歩みをとめ、クラウドの方に振り返った。仕方ないといった風に肩をすくめ、まだごろごろしているクラウドに手を伸ばす。
「クラウド・・・・それは?」
ザックスが冗談で叩いた箇所はビスクドールの肌にくっきりと朱の痕を残していた。一瞬、強い後悔の念に駆られる。しかし、それ以外にもいくつかの傷。しかも、あからさまに最近ついたと分かるもの。
手を留めたザックスの視線が下肢まで降りた頃、クラウドはやっと自分の躰の異変に気付いた。
「知らない・・・・覚えてない・・・・」
まだ瘡蓋にもなっていない、少し盛り上がった傷。細長く、引っ掻いた痕のように胸や太股に無数にあった。
「ケアルぐらいで治るかな?・・・今日の教官誰だって?」
「タークスのツォンさん。ここのところ始めの方はずっとだ。後半、別の誰かに代わるけど、そっちは決まってない。」
「タークス、か。とりあえず、医務室に行く暇なかったら、そいつにかけてもらえ。今から傷残してると大変だぞ。」

・・・・結局、二人とも20分以上の遅刻。

「遅かったな・・・」
全力で走ってきたのに、クラウドが指定された場所に着いたときにはツォン以外誰もいなかった。
「っ・・す、すみません・・・」
息切れしながらもやっとのことで言葉を紡ぐクラウドは、深く頭を下げた。
「他の者はすでに移動済みだ。ついてこい。」
そのまま動かないクラウドに気のなさそうに言い放つと、ツォンは目の前のエレベータに乗り込んだ。
クラウドは慌てて頭を上げると閉じかけている扉の隙間に飛び込んだ。

エレベータの低くくぐもったモーターの回転音と奇妙な浮遊感。酔いそうだったクラウドは気を紛らわせるようにツォンに話しかけることにした。
「すみません・・ちょっと・・いいですか?」
「なんだ?」
「・・・後で、ケアル、かけてもらえませんか?」
「?・・・・魔法、か」
「は?・・ええ。」
「マテリアに『キーワード』、呪文を与えれば発生する事象。・・・ピアスには慣れたか?」
「はい。でも、まだ、服着たりするときに引っかけたりするのでちょっと大変ですが。」
「でも、まだ躰の方は使いものにならないな。」
ザックスが言っていたような事と同じような事を言われ、クラウドはムキになって反論する。
「だから、一生懸命、頑張ってます。今日の遅刻だって、やる気がないわけじゃ、ありません。今まで普通の生活、してきたのに急に実戦向けになれって言うのは、無理、です。」
「それじゃ、困る。」
「!」
きつく両手を握りしめて、真摯に射抜くような瞳でツォンを見上げる。クラウドは次の言葉を待った。
それが非難にしろ、進言にしろ、ここまでけなされているからには自分が取るべき行動を少しは示唆するはずだと思うしかない。
「待っているのが、大勢いる。毎日やっているのに強情な躰だ。こんなに可愛い顔をしているのに。」
ツォンの言葉の意味を探るよりも早く、小さな顎を掴まれクラウドは身を竦ませた。そのまま唇が耳に寄せられ、あたたかな舌の感触に鳥肌がたつ。
「・・・・・・」
ツォンが言った単語は聞き覚えのないものだった。しかし、その意味と行動の真意を確かめる前にクラウドの躰は甘い眠りに支配された。

一瞬にして力を失ったクラウドの躰は壁に寄りかかるように崩れ落ちた。
そこで、到着を告げる音が狭い金属の箱に響きわたる。止まった階を示すランプは一般にはその存在を知られていない階数を表示していた。

「起きろ。」
それまで指すら動かさず、ツォンの腕の中で眠っていたクラウドの瞼がかすかに動く。やがて開いた瞳はどこかとろけるような狂気の光をたたえ、ツォンを見つめる。
視線が絡むのに、わずかな間がある。
ゆっくりと腕をツォンの首にまわすとクラウドは微かに唇を開き、誘うように小さな舌をちろりと見せる。
ツォンは動かない。
軽く音を立てて舌を鳴らすと、クラウドはツォンの瞼に唇を押し当てた。そしてそのまま下へと沿わせ、眼球を舐める。
濡れた睫毛がクラウドの頬を掠め、感触にふるえる。
「し、て。」
声には出さずねだるクラウドをベッドにおろし、躰を離す。
しかしネクタイを掴まれ、再び拘束された。
丹念に口の中を探り、舌を絡め取るとそのまま唇を離す。蜂蜜のようにとろりと光る細い糸を離すまいとするかのようにツォンの唇へと繋げたまま、クラウドは自らの服に手を掛けた。



時間がありません。
このキーボード、五月蠅くて先生にばれるんですよ・・・・(泣)
後は余計な部分しか残ってませんが、まだ続きます。


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