MAMI先生の第2弾

投稿者 MAMI 日時 1997 年 7 月 26 日 13:46:02:

 あー、緊張しますね。病み上がりだし。家で寝てても会社にいても、考えることが一緒てぇのは、どういうことなの・・。
 今度も、コード801モードかなり、入ってます。
 嫌いな方とは、ここでお別れですう。短い出会いでした。
 さぁ、好きな人は、ちゃっちゃと、読んじゃいましょう。



I WISH・・・・
 誰かを心の底から憎いと思ったことは…実は無い。ただ一つの例外を除いては。もっとも、その憎しみが強すぎて、他に向かなかっただけかも知れない。
 ルーファウスは冷たいガラスに頬を寄せると、その感触を楽しむように目を閉じ、薄く微笑った。
 全ては終わった。もう…解放されてもいいだろう。
 丁寧に撫でつけられた金の前髪が一筋、ハラリと乱れて額に落ちた。
 泣き出しそうな横顔がガラスに映る。それは己の半生に対する懴悔に似ていた。
 一人でなんていられない。こんなに美しい夕日を目の前にしては…。
 母が亡くなったのは、ルーファウスが僅か10歳の時だった。
 旧家の令嬢で、波打つ豊かな金髪の美しい女性だった。その美しさを金で買われるようにプレジデントに嫁いだのは、彼女が17歳の時。それから二年後、ルーファウスが生まれた。
 神羅の女主人としては裕福な暮らしだったが、彼女は孤独だった。
 体面と、権力を見せつけるだけで、愛のある結婚では無い。むしろ彼女はプレジデントを憎んでさえいた。その憎い男の子供など、愛せるはずが無かった。
 彼女は一度としてルーファウスを抱き締めることは無かった。死が訪れるその時ですら。
 少しずつ壊れ始める彼女の心を支えられる者も、癒すことが出来る者もいなかったのだ。
 そしてある美しい春の日、彼女は自分で自分の胸を打ち抜いていた。
 音も無く床に広がって行く血溜まりの中、白いドレスを来た彼女は、それでも輝くように美しかった。
「可哀想に…」
 彼女は吐息だけでルーファウスに言った。
 呆然と立たずむ幼いわが子の頬を、血だらけの手で包む。生暖かいヌルリとした感触が、初めて触れた母の温もりとは信じられなくて、ルーファウスは目を見開いたまま動けなかった。
「可哀想に…。おまえは、あの…悪魔の子。いつかおまえも…悪魔と呼ばれるのね」
 彼女はどこか楽しそうな笑みを浮かべた。
「誰も…、お前のことなど誰も愛さないわ…。悪魔を愛する者など…どこにもいな…い」
 息を引き取った彼女の死に顔は、どこか穏やかだった。そして彼女の死は病死とされた。

 悪魔の子…。
 ルーファウスには涙も無かった。母からもらった情など無かったのだからそれも仕方のない事だったのかも知れない。ただ幼い心に感じた事は、人の脆さだったのかも知れない。孤独という言葉すら解らないほど、ルーファウスは孤独だった。愛という言葉も、愛されたことも愛したことも無いルーファウスには解らない。
 プレジデントの子息というだけで、世間はいつでも特別に扱った。屋敷の使用人達も、どこか脅えながら事務的に仕事だけをこなして行く。そして無表情な子供を奇異の目で見ては噂話に花を咲かせる。あの子は可哀想だ…と、うわべだけで哀れんで見せるのだ。
 何もかも嫌いだった。家も、自分を取り巻く社会も、そして何より自分が一番…。
「ルーファウス、いずれ神羅はお前が継いで行かねばならん」
 名前だけの父はいつもそう言っていた。
「はい」
 その度にルーファウスは義務の用に答えた。光を宿さない瞳で。
 何も知らない子供に、未来を選択出来るはずが無い。言われたままに、与えられたままに、そして望まれたままを完璧に演じる。それがルーファウスに取っての精一杯の事だった。
 入れ替わり立ち代わり現れる家庭教師。彼らは彼らで時間が過ぎればどこかホッとしたように帰って行く。
 不自然な生活を、不自然だと比べられる友達も無い。
 ゆっくりと時間をかけて、心は薄い殻に包まれて行く。外からは誰もルーファウスの心の内側に触れることは出来ない。全てを諦めて、ただ泣いているだけの幼い心は、深く深く沈んで行く。誰の目にも触れることの出来ない所へと。
 母の死から間もなく、屋敷には様々な女が訪れるようになった。きらびやかなドレスを纏った彼女たちは、笑顔も見せない子供を気味悪そうに眺めるだけで、言葉もかけはしない。
 嫌いだった。そんな女たちも、その女たちと夜ごと狂喜のような騒ぎを繰り広げる父も。
「どうして僕はここにいるのかな?」
 ルーファウスは何も答えない黒い獣にそっと問いかけた。
 ダークネィション。ルーファウスの護衛用にと、バイオ技術の粋を極めて神羅で作られた合成獣だ。知能はあるが、言語は持っていない。
「みんな…僕を知らないんだ。見ていても、見えてる訳じゃ無くて…」
 美しく引き締まった首に両手を回すと、ルーファウスは甘えるように寄り添った。艶やかな体毛に頬をつけると、その下を流れる血の流れが聞こえるような気がした。
「クーン」
 人工的な金色の目がルーファウスを見下ろすと、白い頬をペロリと嘗めた。
「お前しか要らないのに…。他の人はいなくてもきっと困らないもの…」
 ルーファウスはギユッと優しい獣を抱き締めた。
 いつも自分を見ているのは、この獣だけなのだ。きっとこの温もりが無ければ死んでしまう。あの母のように、脆く壊れてしまう。それだけは偽りだけの世界の中で唯一信じられるものだった。
「ダーネィ…」
 独りぼっちの長い夜だけが安らぎを与えてくれた。空虚な心を《人》に戻してくれた。
「ダーネィ…」
 そして眠りにつく。出来れば目覚めたくは無い。いつもそれを願っていた。だが、それすらつかの間だった事に気づくのに、それほど時間はかからなかった。

 母の死から二年、12歳になったルーファウスは、だれの目から見ても美しく成長していた。母譲りのブロンドの髪。白磁の肌。そして美貌。少女と見まごうばかりのその可憐とも言える容姿は、周囲の人間の目を、いやがおうにも魅きつけた。そして鏡を見るたびに、あの日の母の死に顔がまざまざと記憶の底から蘇る。そして、少しずつ心が凍って行く。嫌悪から…。
“こんな顔…”
 ルーファウスは鏡を叩き割った。姿の映る物は、ガラスさえもこぶしで殴りつけた。狂ったように部屋を暴れまわり、床に散らばった破片の中にたたずむと、血まみれの手を見つめた。
 深紅の血。あの日、母が流したモノと同じ紅。あの男の遺伝子から作られた液体。
 逃れられないと感じた。それが悔しくて、切なくて…たまらない。
 ルーファウスの唇に笑みが浮かんだ。そして瞳に涙が溢れる。
“悪魔の子”
 違う!
“あなたも悪魔になるのね¨”
 違う!違うっ!
“違わない…。あなたにも悪魔の血が流れてる”
 絶対に違う!
 懐かしくも優しい囁きに逆らうように、ルーファウスは激しく床を殴りつけた。
 部屋での騒ぎに、数人の男たちが駆けつけて来た。
「ルーファウス様!」
 嵐が通り過ぎたような有り様に、一人の男が飛び込んで来た。
「どうなさったのです。しっかりしてくださいっ!」
 男は胸のポケットから白いハンカチを出すと、ルーファウスの手を包み、廊下に突っ立っている男たちに鋭く命じた。
「ドクターを!早くっ!」
 バタバタと駆け出して行く足音を聞きながら、ルーファウスはその男の顔を見上げた。
「今、手当をしますから」
 男は真摯な目でルーファウスを見つめると、自分がケガをしたような、痛そうな顔をした。
「何故?」
 ルーファウスはどうしてそんな顔をするのか知りたくて、問いかけた。
 白いハンカチは既に紅く染まっている。
「何故って…、こっちが聞きたいですよ。どうしてこんな…」
 ルーファウスの問いかけの意味を男は取り違えたらしい。だが、この状態では無理も無い。
「ツォン、ドクターが着いたぞ」
 ドアの向こうから声が響いた。
「解った。さぁ…行きましょう。立てますか?」
 微かに柔らかなコロンの香りがしたと思ったら、ルーファウスは男の両手に支えられて立たされた。そっと背中を押されるがままにゆっくりと歩きだす。ガラスの破片がパキリと靴の下で悲鳴を上げた。
 部屋を出ると、ダークネィションが心配そうな瞳でルーファウスを迎えた。

 13歳の誕生日。それは神羅の後継者としてのルーファウスのパーティが盛大に行われた。次々と完成して行く魔晄炉に活気づく神羅の将来に益々の未来があるという事を示すデモンストレーションの一環だった。
 政財界に名を連ねる見も知らない大勢の人が、幼いルーファウスに祝辞の言葉を送った。そしてやはり、好奇の目を向けた。
 ルーファウスはそれを、どこか遠い国の言葉のように聞いていた。隣では父親の顔をした男が、自分の肩を抱きながら大きな声で笑っていた。
 そしてその騒がしいだけの宴が終わった深夜、悪夢は訪れた。
 静まり返った部屋で耳鳴りに耐えながら、風呂上がりの濡れた髪を拭いているときだった。部屋の扉が開き、ガウン姿の悪魔が姿を表した。
 何が起こったのか、すぐには理解できなかった。
 パジャマのボタンを外され、身体を弄られ、まだ熟し切らない果実に、湿った熱い手のひらが触れても、ルーファウスにはなす術が無かった。ただ気持ちが悪くて、ベッドの上を逃げ回っても、その手は執拗に追いつき、絡み付いてくる。
「嫌っ!嫌だ!やめてっ!!」
 恐怖に唇が色を無くす。必死にその手を払いのけようと暴れて、枕がちぎれて中の羽が舞い飛んだ。奇麗に整えられていた筈のベッドの上が、無残に荒らされ、床には軽い上掛けが、落ちて丸くなっている。
「やぁっ!」
 獣の様に自分の身体を睨めつけ、好色そうに舌なめずりをする男の姿に、ルーファウスは肌が粟立つのを感じた。
「やめ…て、父さ…なにする…の?」
 声が震えた。じりじりと体重で押さえ付けてくる男は、有無を言わせずに、ルーファウスの脚に手を掛けた。
「シティバンクの会長が、お前を見初めてな…。くくっ…。お前にそんな使い道があるとは、今日の今日まで考えもしなかった」
 信じられない言葉だった。自分の息子までをも、会社の為の道具に使用と言うのか…。
「失礼があっては不都合だからな、まぁ…母親譲りのその顔で、せいぜい媚を売るんだな」
 乱暴に脚を開かれ、身体を折り曲げられると、男の指がルーファウスの秘められた誰の目にも曝されたことの無い所に触れた。冷たい、ヌルリとした感触に、ルーファウスは背筋をビクリと強ばらせた。
「何…を」
 泣き出しそうなブルーグリーンの瞳が一杯に開かれ、歪んだような笑みを浮かべる父親と呼びたくも無い男を見つめた。

 信じてた訳じゃ無い。だからこれは裏切りじゃ無い。だけど…こんな風に扱われるとは、思ってもみなかった。少なくとも今までのように、これからも放っておいてくれるものと思っていた。なのに…。
「いや…だ。はなして…」
 脅えながら絞り出した声に、男は下卑た笑いを上げた。
「本当にアレに似ているな、生き写しだ」
 そう言いながら、熱い手のひらが肩を撫で、胸の小さな粒を摘まみ、腹部を滑って行く。
 逃げたかった。この男を殺してもこの場から逃げたかった。ただ恐ろしくて、身が竦む。
「そんなに怖がらなくていい。すぐに済む。すぐに気持ちよくなるぞ」
 ジリと透き間から身体をずらして後ずさると、男はそれを許すように僅かに身体を離した。
 ルーファウスは満身の力で男を押しのけると、ベッドから飛び降り、部屋の隅まで跳び退った。
 楽しそうに。心から楽しそうに男は笑う。
 その視線から逃れたくて、ルーファウスは壁伝いに、背中を張り付かせながらドアへと向かった。外に出れはダークネィションがいる。親衛隊の人間がいる。…あの人も、きっと…。
 ジリ…と数歩あるいた時、ルーファウスは自分の身体に起こった変兆を感じた。
 身体の奥から焼け付くような熱を感じたのだ。そしてさっき男に触れられた場所から湧き起こる、強烈な痛痒感。
「…ぁっ」
 堪らずルーファウスはその場に座り込んでしまった。肌が敷き詰められた絨毯に触れただけで、全身にザワリとさざ波が起こる。
「効いてきたな…」
 ゆっくりとした動作でベッドを降りると、男はルーファウスへと歩み寄った。
「いやだ…いや…」
 小刻みに身体を震わせながら、ルーファウスは引きつった顔で男を見た。
「こな…いで。いや…だ」
 大きな瞳から涙が溢れた。
 自分ではどうにもならない身体と、目の前にある恐怖に、頭がパニックを起こすのだ。どうしていいか解らない。解るのはただ、誰も助けには来てくれないという事だけだった。
 気配が眼前に迫る。細い腕がグイとつかまれると、ルーファウスは乱暴にベッドに引き戻された。
 有無を言わせず白い身体を開くと、男はルーファウスの脚の間に指をねじ込んだ。
 フッとそこに蟠っていた感覚が和らいだ。だが、強引に押し開かれた為、背中を痛みが走った。
「ふっ…んぁ」
 強烈な羞恥にルーファウスは全身を震わせて逃れようとするが、その意に反して、男の指を深く咥え込んだ場所は安息を求めるためにヒクヒクと蠢きながら離すまいとする。
「いい子だ…ルーファウス」
 ゆっくりと内壁をなぞりながら、指を抜き差しする。
「ん…」
 ジリジリと追いかけてくる痒みにルーファウスは無意識に男の指を求めた。もっと…もっと強く。深く…。
 そんな身体とは裏腹に、頭の芯はゆっくりと冷えてくる。自分のしていることをどこか客観的に見ている自分がいる。
 憎むべき血の繋がりを持つ父が、野獣の様に自分の身体を蹂躙して行く。セックスの知識は有った。当然の様に家庭教師が教えてくれた。だが、言ってはいなかったか?それは男女の愛情の元に行われると。肉親とのセックスはタブーだと。
「いや…ぁ」
 必死に絞り出した声に涙か滲んだ。こんなことは本意じゃない。望んでない。だけど身体の奥には、隠し切れない巨大な火の玉が生まれてしまった。
 大きな瞳をきつく閉じると、後から後から涙が溢れて皺だらけになってしまったシーツに吸われて消えた。
 どうすればいい?どうなってしまうの?
 苦しくて、苦しくて。そして狂おしいほどの快感が頭脳までも支配しようとその触手を伸ばしてくる。
 男はルーファウスの身体の隅々までをも点検するように、指を滑らせ、耳から首筋、そして胸へと唇を動かした。滑らかな肌にその軌跡が残るのを眺めながら、男はグイッと内側の一点を強く押した。
「あぁぁぁぁぁっ」
 強烈な刺激に、ルーファウスは悲鳴にも似た叫びを上げた。
「淫蕩な身体だ…。こんなにして…」
 身体の中への直接与えられた愛撫のせいで、ルーファウスは既に痛みを感じるほどに張り詰めていた。震えながら蜜を滴らせ、解放を待ち望んでいる。
 驚愕に色を無くした唇から、甘さを含んだ吐息が絶え間無く漏れる。それでも逃れたい心は変わらない。せめてこの身体を抱く腕が、ほかの人のものなら良かったのに…。
“誰か…。誰か…”
 来るはずのない救いを待ながらも、身体の奥は既に物足りなさを訴えている。もっと強く、もっと深く身体を抉って欲しい。そうすれば楽になれるような気がしたのだ。
「ルーファウス…もっと欲しいのか?」
 淫猥な笑いと共に、男はルーファウスから指を抜いた。
「あぁっ…」
 和らいでいた痛痒感が再び沸き上がり、こらえ切れなくて、ルーファウスは腰を振る。その部分がヒクヒクと蠢いているのが自分でも解る。いっそ狂えたなら、こんなに苦しまなくてもいいだろう。ただされるがままに喘いで、欲しければ欲しいと言って…。だが、それを許せるほどプライドは砕けてはいなかったのだ。
「苦しいか、ん?そうだろうな。この薬は強力だ。楽になる方法は一つだけだ。聞きたいか?」
 ルーファウスは必死に身体と戦いながら男を睨つけた。
「それはな…」
 白い脚を開かせながら、男がルーファウスにのしかかる。
「精液だよ」
 グッと強い力で身体の奥が開かれた。本来痛むはずのそこは、たっぷり愛撫されたせいと、薬のお陰でさほど痛みは感じなかった。それよりも、指とは比べ物にならない質量に限界まで内壁が開かれ、強烈な痒みを快感にすり替えてしまう。そして何よりもたちが悪いのは、そこが意志を持っているかのように奥へと引き入れたがるように動いてしまうことだ。
「気持ちいいか?中が震えるように動いてるぞ。ほら、こんなに深く入って…」
 わざと挑発するような言葉を並べながら男は激しくそこを突き上げた。何度も、何度も。
「あぅっ…うっ…ん」
 涙が止まらない。自分の身体が自分の意志には関係なく猛って行く。それを止めることはもう…不可能だった。そう…もっと奥まで、もっと強くと身体はねだっている。
「あっ…う…っぅ」
 言葉にならない声がとめどなく唇から溢れる。いつの間にかルーファウスは自ら男のものを深く導き入れようと腰を動かし、全身を歓喜に震わせていた。直接自身には一度として愛撫をされていない。それでもそこを男の腹に擦り付け、ひたすら高みを目指す。
「ん…ん…ぁ」
 全身が浮遊感に包まれる。熱い。汗が肌を伝って流れる感覚すらリアルになり、目の前が白くなる。
「やだ…こわ…い。こんな…の、こわ…い」
 初めて迎える絶頂感に、不安と恐怖が込み上げる。
「大丈夫だ。ほら、腰を振って。もっとだ、ほら」
 乱暴な程に強く突き上げられ、それに答えるようにルーファウスも身体を揺らす。「あぁっ…ぁっ…ぁっ…」
 嬌声が短く上がると、ルーファウスはビクビクと身体を震わせて達した。瞬間、奥深くに銜え込んだ男を無意識に強く締め付ける。
「いいぞ、ルーファウス」
 男はルーファウスから齎される快感に酔うように目を閉じると、その奥に精を放った。


 波が引くように身体が冷えて行く。
 魂を失った人形の様に、ルーファウスはベッドの上で放心していた。指を動かすことすら億劫で、出来ない。
 あの男の言っていた事は本当だったのだろう。狂いそうなほどの痛痒感はもう、ウソのように消えている。
 脚の間から流れたあの男の名残が脚を汚しているのが気になったが、それをどうにかする力は残ってはいない。
“このまま…”
 眠ってしまおうと思った。もう、どうでもよかったから。
 きっとこれからは父の道具として使われる。父に言われるがまま、見知らぬ男とこんな事をしなくてはいけないのだ。
 悪魔の子。
 それなら身も心も本当に悪魔になってしまえたらいいのにと思う。そうすれば、きっとこんな胸の痛みを知らなくて済む。
 スッと眠りに落ちて行こうとしたとき、ドアがノックされた。再び男戻って来たのかと思い身を堅くしたが、すぐに奴がそんなことをするはずがないと思い直し、重い口を開く。
「誰?」
 か細い声は既に涸れていた。
「失礼します」
 その声は知っていた。一瞬、彼にこの姿を見られることをためらったが、意志も身体も結局は動かなかった。
 ドアが開かれた。明るい廊下の光を背に、薄暗い部屋に入って来たのは、忘れもしない。あの日、白いハンカチを巻いてくれたツォンだった。
 彼は部屋の入り口で軽く一礼すると、静かにルーファウスの元に寄った。
 部屋にはまだ濃密な空気が漂っている。何が行われたかは、ルーファウスの身体を見るまでも無いだろう。
 まるで生気も意志も無い視線で見上げるルーファウスの顔には涙の後がくっきりと残っていた。身体は乾いた体液がこびりついたままで、ひどく痛々しい印象を受ける。
 ツォンは無言のまま、汚れたルーファウスの身体をシーツでくるむと、そっと抱き上げて、部屋の奥の扉へと歩きだした。その扉の奥にはバスルームがある。
 灯りを点けると、ツォンは無言で中へと入った。
 バスタブの側まで来て、彼はようやく口を開いた。労るような優しい口調で。
「立てますか?」
 ルーファウスは表情を動かさないまま、コクンと頷いた。
 そっとバスタブの中に足から降ろされた。冷たい感触が足の先から伝わってくる。だが、ルーファウスは立てなかった。ツォンの手を離れた身体は、まるで糸の切れた人形の様にクタリと座り込んでしまったのだ。それを一番驚いたのはルーファウス本人だった。足に力が入らないのだ。無理に立とうとすると、あの男に押し入られた場所に痛みが走り、犯された事を思い知らされてしまう。
 結局、ルーファウスはペタリとバスタブに座り込むしか無かった。その姿を辛そうな目で見つめながら、ツォンはシャワーのヘッドを手にした。ぬるめに湯温を調節すると、温かな流れをルーファウスの身体にかけた。
 湯気が室内を白く塗り替えて行く。身体からあの男の匂いが流れる湯と共に消えて行く。
 涙の跡をツォンの指が洗い流すと、ルーファウスの瞳にようやく意志の光が灯り始めた。そしてツォンの姿を認めたとき、ルーファウスの中で張り詰めていた何かが、堰を切ったようにあふれ出した。
「ツォン…」
 グスと涙ぐむと、洗われた頬に再び涙が伝った。
「うぁぁぁっ…」
 もう、声を殺すことは出来なくて、ルーファウスはツォンの黒いスーツの胸元に顔を押し付けると、そのまましがみつくように泣いた。
「ルーファウス様…」
 ツォンは自分の服が濡れるのも厭わず、まだ小さな背中を抱き締めた。
 切なかった。まだ幼い彼が、何故こんな目に合わなくてはならないのかと考えれば、やり切れない思いが募る。だが、親衛隊としてそれを口に出すことは出来ない。そのジレンマをルーファウスを抱く腕に込めて優しく囁いた。
「お守りします。私がお守りします。あなたを…」
 祈るように、そして誓うように告げると、ツォンは濡れた金色の髪に、そっと接吻を送った。
「私の命に代えても、あなたをお守りします」

「嘘つき…だな。お前も…」
 ルーファウスは小さな吐息を漏らすとそっと目を閉じた。
 あれからどれだけの男がこの身体を抱いたことか…。人形みたいに横たわるだけの身体を抱いて、果たして楽しかったのだろうか…。
 人間と肌を重ねる行為は嫌いだ。結局、相手を蔑んで終わりになるから。どうしようもなく愚かで、醜くて。そんな男たちを相手に、自分はどうすればいいというのか。
「お前は違うと、思ってたのに…」
 ゆっくりと目を開けると、あの日と同じように割れて砕けたガラスの破片が目に写った。
 そして反射してきらめくオレンジの光り。
「お前に会って、やっと解放されたと思ってた。悪魔を憎んで、恐れて。そんな自分を憎んで貶めて…。でも…」
 こんなにも強い気持ちが自分の中にも有ったことを知って、ようやくルーファウスは人間としての温度を取り戻したのだ。例えどんなに周囲からは冷酷と言われても、たった一人の人の前では、一人の男として居ることが出来るようになるまでに。 それなのに…。
 ルーファウスはゆっくりと深呼吸した。
 口の中に広がる血の味が不快だったが、それでも微睡むようなこの穏やかな時との引き換えならば仕方ない。
「一人に…するな。僕を抱いて…。もう…泣かないように…」
 深いグリーンブルーの瞳から、ガラスと同じ透明な滴が零れた。それは胸の奥深くに封印したあの日から、ルーファウスの中からは消えていた筈のものだった。
 力の抜けて行く身体から、細い手が支えを無くしたように床に落ちた。
 きちんと着込んだ白いスーツはその半分を深紅に変えている。忙しなく上下する胸が苦しげに呼吸を刻み始めると、乾いた唇が少しだけ開かれた。
《ルーファウス様…》
 遠くで声が聞こえる気がする。
 ルーファウスは嬉しそうな笑みを密やかに刻むと、ゆっくりとその目を宙に泳がせた。
「遅い…待ちくたびれた」
 すみませんと謝る、愛しい男の姿に、ルーファウスの笑みが深くなる。
「連れて行け…。これからは…ずっと側に…」
 ピクリと力の入らない指先が震えた。
「お前の側にいたい…。お前の為だけに…」
 フッと身体が軽くなったような気がした。そして暖かく強く抱き締められているような感覚に、ルーファウスはなんのためらいもなく身体を預けた。
「ツォン…」

 その日、魔晄の力で世界をその支配に置いていた神羅カンパニーは、事実上崩壊した。若き帝王の死と共に。



 別に…るーちゃんをこんな扱いにするつもりじゃなかったんだけど…。なんか、可愛くて…つい。
 おまけに、ちょっと…な展開でしたが、彼は私の中では、死んで無いんですよ。
 絶対命根性汚く脱出して、そんで、優雅に生きているんですよ。
 あのお方が、そんなに簡単に死ねるはずがありません。それも才能です。

 本当に、おつかれさまでした。うれしいな、最後まで見てくれて。

 ふふふ…どうですしのぶさん、ナイツ資格ありすぎでしょ?(BY.しほ@学生時代からの友人…汗)


[小説リユニオントップへ]