まっきー先生の第1弾

鮮やかな緑で埋め尽くされた場所、古の森。キレイで新鮮な森の顔とはうらはらに、危険なしかけや謎解きが多く眠る場所でもある。
「ヴィンセント、見て見て!この虫おもしろいー。あっ、こっちにもー」
ユフィの声がこだましている。そんな彼女の後ろを心配そうに、半分疲れ顔のヴィンセントが歩いて行く。ユフィはといえば、そんなヴィンセントの心配など気にも止めず、ところせましと走り回っている。
「おい、少し落ち着け。そんなんだからクラウド達とはぐれるんだ。」
「ヴィンセントがクラウドを見失ったのが悪いんだよー!」
おいおい、勘弁してくれ。ヴィンセントは心の中でつぶやいた。だいたいそんなちょこまかしてるユフィを見ながらクラウド達について行くなんて・・・。
「そんなとこにいるとケガするぞ。雲行きも怪しくなってきた。早く出口を探すんだ。」
高台で、小さな虫を捕まえては逃がしている ユフィにヴィンセントは言った。空はどんよりと今にも降り出しそうな雰囲気に包まれている。本格的に降り出す前に出口を見つけなければ・・・。ヴィンセントはユフィを促し少し急ぎ足で歩き始めた。
「雨降るかな?」
やっと天気の変化に気付いたユフィが、ヴィンセントの腕に絡みついて言った。
「・・・さあな。でも急いだ方がいい。」
右腕に絡みつくユフィの腕に、少しとまどいながらもそのままにさせてヴィンセントは空を見上げた。
突然ピカッと稲妻が光った。
「イヤー!アタシ雷大っ嫌い!」
ユフィはヴィンセントにしがみついてくる。
「お前にも怖いものがあったとはな。」
そういってヴィンセントは珍しく微笑んだ。
「ふんだっ。アタシだって一応女の子なんだからね!」
ふくれっ面で歩くユフィを横目に、ヴィンセントは思わず吹き出した。
急に強い雨が降り出した。まるで台風のような風が二人に襲いかかる。
「ヴィンセント、アタシ怖いよ。もう歩くのやだー。」
「しょうがないだろう。どこかに雨宿りできればいいのだが・・・」
二人は何とかしてこの雨から逃れられないかと周りを見渡した。風と雨で狭められた視界に、ぼんやりと空洞が見える。
「ねぇ、あそこで雨宿りしようよ。」
ユフィはヴィンセントの手を取り、洞窟へと走り出した。
洞窟の中はがらんとしていて、大きな岩があるだけだった。雨のせいか、ひんやりと冷たい空気が漂っている。雨に濡れてふるえているユフィを見て、ヴィンセントはマントを脱ぎユフィの肩にそっと掛けた。
「ここで待っていろ。」
そう言って彼は雨の中に飛び出していった。
「ヴィンセント!どこ行くんだよー。」
ユフィの声が洞窟に響く。
「もう・・・こんなに雨降ってるのに。優しいんだけど口が足んないんだよね。どこ行くかだけでも教えてくれたっていいじゃん。」
言葉とは裏腹に、ユフィは心配そうに周囲を見渡した。ヴィンセントらしい人影がこちらへやってくるのが見える。どこから見つけたのか、彼はたき火によさそうな木々を両腕に抱えて戻ってきた。手頃な場所に置き、持っていたライターで火をつけた。


しばらくしても雨はやみそうにない。それどころか強まってさえいるようだ。
「・・・なんかすごいことになっちゃったね。」
ユフィが不安げに言う。
「・・・ねぇ、ヴィンセント。そっちへ行ってもいい?」
少し離れた場所で火にあたっているヴィンセントに言う。ヴィンセントが何か言おうとするより早く、ユフィはヴィンセントの隣に座り、彼に寄りかかった。
「・・・どうした。寒いのか?」
「・・・ねぇ、ヴィンセント。あんたって鈍感?」
平然と尋ねるヴィンセントの顔をのぞき込んで、ユフィは言った。
ヴィンセントの顔が少し紅潮しているように見える。一瞬の沈黙の後、彼はゆっくり口を開いた。
「・・・大人をからかうのもいい加減にしろ。」
「ひっどいなー。いつもそうやって子供扱いするー。アタシだってマテリアのことばっか考えてる訳じゃないよ・・・」
いつもの口調より若干おとなしいユフィを、ヴィンセントは愛しく思った。
「雷キライって言ってたけど、今は雷に感謝してるよ。だってそのお陰で・・!」
ユフィの言葉をさえぎり、ヴィンセントはユフィに口づけした。
「・・・・・。」
赤くなってうつむくユフィを優しく抱きしめる。ぎこちない手がヴィンセントの背中に回る。
「・・・ねぇ・・。その先は?」
「・・・そのうちに・・な。」
ささやくような声にヴィンセントは微笑み、ユフィの身体から離れた。
「もうお休み。疲れただろう。」
そういって立ち上がり、外の様子を伺った。雨はまだ勢いがあった。
「今夜はここで過ごすことになりそうだ。」
隣に腰を下ろしたヴィンセントの胸に、ユフィが飛び込んでくる。
「じゃあさ、ここで寝かせて、ね?」
「・・・あぁ。お休み、ユフィ」
ヴィンセントは両手でユフィを抱え込むようにして、壁によりかかった。静かな寝息が聞こえてきた。
(眠ったのか・・・)
「・・・ヴィンセントは・・・アタシ・・の・・ものだよ・・・。」
寝言なのか起きていたのかわからないユフィの唇がそうつぶやく。
(・・・お前も・・・私のものなんだぞ・・・。)
ヴィンセントはかわいい小悪魔の寝顔を見ながら心の中でつぶやき、そっと頬にキスをした。
いつの間にか雨は上がり、オレンジに染まった朝焼けが二人を優しく包んでいた。


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