くろねこ先生の第2弾

・・・熱はひいたようだな。
クラウドの額からセフィロスはゆっくりと手をどけた。
少年のようなあどけない横顔・・・本人は気にしているようだが眠っている時はさらに幼く見えるのを彼は知らない。
夕方クラウドは帰ってくるなり、ベッドにどさりと倒れこんだ。
「どうした?」
セフィロスが顔を覗きこむと蒼い瞳はとろんとして頬が上気している。
「ん・・・ちょっとだるい・・・」
セフィロスは黙ってクラウドに近づき額をあわせる。
顔を離しぎわに短いキス。
「何か食べるか?」
「おなかすいてない・・・」
「じゃあ、ゆっくり寝ていろ。私は今夜仕事が入っている」
クラウドの瞳が急に曇った。
精一杯何かを押し殺した声でクラウドが言う。
「セフィ、行かないで」
「だめだ、今日は抜けられない」
にべもない冷たい返事だった。
「今夜はそばにいてほしいんだ・・・」
「だめだと言ったらだめだ」
「どうしても?」
「しつこいぞ、クラウド」
それっきり黙ってしまったクラウドを残してセフィロスは奥に正宗を取りに行った。
「行ってくる」
声をかけたが返事がない。
ふぅ。小さくため息をついてクラウドの様子を見に行ってみる。
えびのように身体を小さく丸め、クラウドはセフィロスに背を向け壁を向いている。
「なるべく早く帰る」
相変らずクラウドは背を向けたままだ。
「勝手にしろ」
セフィロスが踵を返して部屋を出ようとした時、「い・・・イヤだ」と言う声が耳に届いた。
戸口で立ち止まり振り返る。
「イヤだーーーーっ」
クラウドはベッドの上に起き上がり両手をにぎりしめてうつむいたまま肩を震わせている。
セフィロスはクラウドの所に戻り、ベッドに片膝をつくとその細い顎に手を添えてクラウドの顔を優しくあげた。
空と海との蒼さをそのまま映しとったような瞳がじっとセフィロスを見つめる。
「どうしたんだ、一体。お前も神羅にいた身ならわかるだろう?」
「・・・・」
クラウドは何も言わない。が、みるみる瞳に涙がふくらんでいく。
真珠のきらめきがつつっと頬を伝いクラウドのこぶしに落ちる。
「さびしいんだ・・・どうしても今夜はそばにいてほしいんだ・・・」
ぽたぽたと涙が音をたてる。
セフィロスはしょうがないなという顔をして泣きじゃくるクラウドをじっと抱きしめてやった。
「クラウド・・・そばにいてやりたいのはやまやまだが、今夜の任務ははずせない・・・悪いな」
その途端、クラウドはセフィロスにしがみついていた腕を乱暴に離した。
「セフィの馬鹿ぁっ。大っ嫌いだ!」
そしてそのままベッドにもぐりこんでしまった。
セフィロスがやれやれという顔で出ていく。
部屋の片隅ではクラウドの小さな鳴咽だけが続いていた。

セフィロスが戻ってきたのは深夜だった。
部屋の明かりは消えてカーテンの隙間からさしこむ月明かりだけがひっそりと室内を照らしている。
クラウドは眠っていた。
その頬にはわずかに涙の跡が残っている。
熱が下がっているのを確かめるとセフィロスは月明かりの下、長い間クラウドの寝顔を眺めていた。
その無邪気な顔を見ているとなぜか急に愛しさがこみあげてきた。
笑うクラウド。
怒るクラウド。
拗ねるクラウド。
泣くクラウド。
お前が私を必要としているのではない・・・
私がお前を必要としているのだ。
誰かに必要とされているということがどれほど素晴らしい事か解るか?
お前は私に生きる理由を与えてくれる。
人として生きる喜びを。
クラウド・・・お前を愛している・・・。
クラウドの頬に光の雫が落ちた。
月だけがそれを見ていた。


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