かいと先生の第5弾


その日、シエラは家の外に植えてある花の手入れをしていた。しかし、機械の仕事の他に好きなこの作業をしていても、彼女の表情は何故かかげっていた。
メテオが破壊されてからもう5日はたつ。それなのに彼女がいるこの家の主は、一向に帰ってこないのである。無事でいる、そう信じたい、そう思っていてもやはり、シエラの憂鬱は晴れないのだった。

家の中に入り、暖かい紅茶を入れたカップを手に、シエラは窓辺のチェアーに座った。湯気と共にハーブのいい香りが辺りに広がる。レースのカーテンをあけ、緑が広がる大地を見つめながら、カップを口に運び、物思いにふけった。
と。その時、いきなり突風が、開けた窓から入ってきた。反射的に窓を閉ざし、部屋の中から外を見やると・・・・・・。
横にゆれ、ざわめきをたてている大きな木の向こうに見える、女神の描かれた飛空艇が着陸しようとしていた。
シエラは慌てて外に出て、戻ってくるはずの人影を求め、村の入り口に目を凝らす。
村の人々と短く会話をしながら、ゆっくりと歩いて来るその人影は間違いなく、
「艇長・・・・!」
その声が聞こえたのかそうでないのか。シドはシエラの姿を見つけると、先ほどより早く歩いてくる。
「よお、シエラ。帰ってきたぜ」
「・・・お帰りなさい・・・!」

久しぶりに帰った家は何一つ変わることなく、しかし手入れは丁寧に行き届いていた。おそらく、自分がいつ帰ってきても良いように、とシエラがしていたのだろうと、彼女のささやかな想いを感じ、シドは1人、薄く笑みを浮かべた。
入れ直した紅茶を運んできながら、シエラは聞いた。
「・・・それで、体の方は大丈夫なんですか?」
「ん?ああ。ま、ちっとは傷あるけどな、大したことはねぇよ」
それを聞き、シエラはほっと、胸をなで下ろす。
「・・・だけど、ハイウインドのほうはかなりひどい状態ですね。遠くから見ただけですけど・・・」
「そりゃーなあ。どこもかしこも、ほとんどがイカレちまってるからなあ。動かねぇも同然さ。ここに来るんだってだましだましやってきたんだぜ?そのせいで、帰り遅れたけどな」
「それじゃあ、明日にでもメンテナンス、した方がいいですね。私が・・・」
「その必要はねえよ」
シエラの言葉を遮り、シドがいった。その言葉に、驚いた表情をするシエラをみて、シドは言葉を重ねる。
「俺様・・・オレはもう船にはのらない。そんだけのことさ。なに驚いてんだよ」
「だ、だって・・・!」
シドは座っていた椅子から立ち上がり、シエラの前にたって、自分より背の低い彼女を見下ろした。
「・・・今までオレはお前にひどいことばっかしてきちまった、それなのにシエラ、お前はそれでも俺のそばにいてくれたんだ・・・だからオレは船を下りて、お前に今までのお返し・・・ていうのか、とにかくそーゆーのをしてぇんだよ」
シドの言葉を黙って聞いていたシエラが、彼を見上げた。その栗色の瞳に、薄く涙をためて。
「そんなこと・・・言わないで!・・・私は「艇長」でいるあなたが好きなんです!私なんかのために・・・船を下りるなんて言わないで・・・。あなたが空を飛んでいてくれたら・・・私はそれが一番なのに・・・」
自分の胸に顔を埋め、小さく体をふるわせているシエラの髪をなでながら、シドは考えて、そして言った。
「・・・どこ行きたい?」
「・・・え・・・?」
「どこ行きてぇかって聞いてんだよ!俺様がどこでも、ハイウインドで連れてってやるぜ」
「シド・・・!」
体を離し、満面の笑顔を浮かべてシエラは、横にあった工具箱を取って言った。
「その前に、修理をしましょう?あれじゃあどこにも行けませんよ?」
「しゃーねぇなぁ。じゃ、今から行くかっ!」
一度、少し傾いた陽に映える、ハイウインドを窓から眺め、2人は工具や設計図を手に、家の外へ出た。


[ 感想を書こう!!] [小説リユニオントップへ]