かいと先生の第3弾


「あたし、どこ行こうかなあ・・・」
 仲間達が思い思いの場所へ一旦帰っていった後、ユフィは行くべき場所が定まらず、ただ木陰に腰を下ろして空を見上げていた。
「オヤジの所帰るのも気が進まないし・・・だからといってずっとここにいるわけにもいかないよなあ・・・・・はぁ」
「何やってるんだユフィ」
「ぅきゃっ!?」
 いきなりかかった声にユフィが正面に顔を戻すとそこには、長く黒い髪と赤いマントを風にたなびかせた、長身の男が立っていた。
「ヴィンセント?アンタまだいたの?」
「お前こそどうして残っているんだ、帰らないのか」
「帰る気しないんだもん、ほっといて」
「・・・ずっとここにいるつもりなのか?」
「・・・それはやだけど・・・」
 そういってそっぽを向いたユフィをみて、ヴィンセントはひとつため息をもらす。
「・・・来るか?一緒に」
「え、どこかいくの?」
「別に目的の場所はないが・・・お前をこんな所に置き去りには出来ないだろう?」
 ユフィは立ち上がり、お尻についた土をはたき落としてから、背の高い彼を見上げた。
「んー・・・そーだね、行くよ。こんなとこにいてもつまんないしね」
 つまらないとかそういった問題ではない・・・とヴィンセントは思ったが口には出さず、かわりにマントを翻して、肩越しに一声かけた。
「行くぞ」
「あ、待ってよぅっ!」

 何故かは知らないが、2人は常夏の地、コスタ・デル・ソルにやってきた。さすがのヴィンセントも暑いらしく、マントを脱いで荷物の中に入れる。
 ユフィはあたりを見回し、視界のすみに小さなブティックを見つけると、さっさと中に入り込んだ。ヴィンセントは呆気にとられながらも、その後を追って入る。
「すいませーん、かわいい水着ありますー?」
「おいユフィ・・・」
「なによー、ここまで来たんだから泳がなきゃ損ってもんでしょ?」
 店員が持ってきた水着を次々と試着し(水着の試着って出来たっけ・・・?)、ユフィは淡いグリーンのセパレーツに決めた。早速そのまま、ビーチへ向かう。
 海は目のさめるような青だった。しかし時折写るメテオの影が、海の青を赤に変える。が、そんなことにはかまわず、ユフィは泳ぎ始めた。2人の他にほとんど人影はない。・・・まあ、危機迫るこのご時世に海で泳ごうなどとは滅多に考えもしないが。
 ヴィンセントは、楽しげに遊ぶ彼女の姿を見て、薄く微笑みを浮かべた。

「何で同じ部屋なんだよ・・・」
 と、ユフィはヴィンセントに言った。宿を取ろうとしたら、1部屋しかあいていないと言われ、仕方なく素直に部屋を取ったが、ユフィは少し不満げな顔をする・・・いや、不満げな、という表現は正しくないかもしれない。
「・・・そういやがるな。仕方ないだろう、1部屋しかあいていないんだから。文句を言うな」
「べっ、別にいやがってるわけじゃないけどっ・・・」
 少し顔を赤くし、ユフィは言った。
「それならいいだろう?幸いベッドも2つあるしな」
 そういってヴィンセントは着替えのため、シャワールームへ消えていく。それを見届けてからユフィはベッドに体を投げ出した。
「・・・嫌なわけないじゃん、鈍感男・・・アタシの気持ち、全然わかってないんだねッ」

 2人がベッドに入ったのは、それからしばらくたってのことだった。時間的に、眠るのには丁度いい時間だ。ヴィンセントは上半身を大きな枕に起こし、ベッドサイドの明かりをつけ、どこから出したか本を読んでいる。ユフィはヴィンセントとは逆の方を向いて、頭からふとんをかぶっていた。
 部屋の中には、時折本をめくる音と、波の音だけが聞こえていた。
 ユフィがふと、起きあがる。本を読んでいるヴィンセントは別段気にかけもしなかったが、静かな足音が自分の方に向かっていることに気づき、目を向けてみた。
 と、そのときいきなり、ユフィが彼のベッドの中へと入ってきたのである。流石のヴィンセントもこれには驚いた。
「お、おい・・・なんだいきなりっ・・・」
「気にしない気にしないっ♪」
「気にするな・・・と言われても・・・」
 にっこりと笑って、ユフィはヴィンセントの胸に寄り添ってきた。ヴィンセントは観念して本を閉じ、サイドテーブルに置いた。そしてその手で明かりを消す。
 しばらく、沈黙が続いた。
「・・・ね、ヴィンセント」
 沈黙を破ったのはユフィだった。ユフィは少し顔を上げ、闇に慣れた目でヴィンセントの赤い瞳を見つめる。
「アンタ、全部が終わったらどーすんの?」
「・・・別に・・・考えてないな」
「ふーん・・・だったら誰かと何も約束とかってないわけだよね?」
「そうだが・・・?」
「じゃあ、じゃあさ・・・・」
 がばっ、と身を起こし、ユフィは真夜中に近いというのに元気な声で言った。
「あたしをお嫁さんにしてくんない?」
「・・・は?」
 あまりに突拍子もない言葉に、ヴィンセントはとまどう・・・というか慌てた。
「何を言ってるんだお前は・・・」
「えー?イイじゃない。・・・ヴィンセント、あたしのこと嫌い?」
 少し顔を伏せ、問うユフィ。
「いや・・・そういう訳じゃ・・・」
「じゃあ約束してよ、ねっ?」
「・・・・・・・・・・」
 無垢な瞳に見つめられ、ついに観念したか、それとも本心からか、ヴィンセントは目元に笑みを浮かべ、うなずいた。
「・・・わかった、約束しよう」
「やったぁ!」
 こぼれんばかりの笑みを浮かべ、ユフィはまた、ふとんに潜り込んだ。時間のせいもあり、横になるとすぐに眠気におそわれる。
「・・・約束だよ・・・ね・・・?」
 自分の胸に寄り添い、眠りにおちていくユフィをみて、ヴィンセントはふと、愛おしさを感じた。
 額にかかった栗色の髪を払いのけてやり、そのままそこに、やさしく唇をつけた。
「良い夢を、ユフィ」
 額に優しいあたたかさを感じつつ、ユフィはつぶやいた。
「ん・・・おやすみ・・・」
 心地よい波の音が、2人を優しく包んでいた・・・。



はあ疲れた(何が)長くてすいません。
もし良かったら感想よろしくでっす。(おいおい)
次はシドとシエラか・・・またヴィンユフィか・・・


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