チープサイド先生の第2弾

 雨の降るニブルエリアの平原を一台のトラックが走っていた。行き先はニブル山魔晄炉。魔晄炉で初めて起こった事故の調査のために派遣された、ソルジャー2名と兵士数名が乗っている。
「ねえザックス、さっきから何みてるの?」
金髪で色白の、少々痩せた若い神羅兵が、対照的な黒髪で色黒、たくましく、そしてさっきまでわーわー騒いでいたソルジャーに聞いた。
「ああ、これか。」
ザックスと呼ばれたソルジャーは、親友の兵士の呼びかけでずっと見つめていた紙から、やっと目を離した。
「俺の彼女でエアリスってんだ。かわいい子だろ、クラウド。」
その写真をクラウドと呼んだ兵士に見せながら言った。
「へぇ…、きれいな人だね。ザックスこの人と付き合ってたの。」
その兵士−−クラウドは多少驚いたような顔で言った。
「ああ、もう初めてあってから2年になるかな…。顔もかわいいし性格も明るくて無邪気でね、とってもいい子なんだ。あいつと一日でもあえないと俺、落ち着かないんだ。」
「そういうことだったのか。」
不意に、後ろからよく通る声が響いてきた。
「な、何だよセフィロス、そういうことって。」
ザックスは慌てて後ろにいる銀髪で長身のソルジャー、セフィロスの方を向いた。
「おまえはオレと組んだばかりのとき、こういう移動中のときにいつも言っていたじゃないか。前の休日には俺は幾人口説いたぞ、とか、一週間に幾人の女の子とお茶したぞ、とか。数年前からそれがなくなってどうしたのかと思ったが。」
「ふーん、そうだったのザックス。初めて知った。」
クラウドが感心したように言う。
「おいこらセフィロス!クラウドの前でそんなこというなっ!」
ザックスは顔を赤くして慌てていった。それに対してセフィロスは、平然としてクラウドに聞いた。
「おいクラウド、お前ザックスと同じ部屋なのに、ザックスがすごい女好きだという事を知らなかったのか?」
「うん、そんなうわさ聞いたことあるけど全然何もザックス言わなかったし。」
ふうん、とセフィロスは表情を崩さず言うと今度はザックスに言った。
「おい、その写真見せてみろ。」
「いいけど、気に入っても絶対にエアリス取るなよっ!俺の彼女なんだからなっ!」
「お前と違ってそんなことはしない。」
そう言うとセフィロスは、渡された写真をちらっとみて言った。
「なるほど、お前の好みそうな娘だ。」
さほど興味無さそうにセフィロスは言った。

その後、ニブルヘイムにつくとセフィロスは、魔晄炉には明朝出発、ザックスには寝坊しても起こしてやらないぞ、といい宿に入った。これまでザックスは、任務中絶対に朝自分で起きる、などということはなかった。
「と、言ってもきっと寝坊するぞ。」
セフィロスは笑いながら、クラウドに言った。
翌朝、セフィロスの言葉通り、しっかりとザックスは寝坊して来た。少々呆れながらも、セフィロスは道案内の少女を紹介した。さてザックスはどう反応するかな、とセフィロスは思ったが、2年前のザックスとは違い、気安く話かけはしたものの、口説こうとはしないようだった。

魔晄炉の事故調査の方はすぐに終わった。しかし、魔晄炉にあったJENOVAというプレートをみて、また魔こう浸けの人間をみて、セフィロスの様子は変になった。俺は造られたのか、と口走ったりしてザックスは心配した。
 次の日から、セフィロスは神羅屋敷にこもり始めた。地下で何日も本を読みあさり、全く上には上がって来ようとしなかった。
「まいったなあ。」
数日立ったとき、ザックスはクラウドにぼやいた。
「もう任務は終わっているのに。エアリスがすねちゃうよ。帰って来るの遅いって。」
ザックスはもう早く帰りたくてしょうがなかった。もう任務は終わっているのだから、今すぐにでもミッドガルへ飛んで行きたかった。だけどセフィロスの方も気になる。このままほっといてもいいのだろうかと。

 霧が立ち込める朝、ザックスはクラウドに揺り起こされた。目を開けてみるとクラウドは顔色が悪い。
「どうしたんだよクラウド?風邪でもひいたか?」
「ち、違うんだザックス、セフィロスの様子が……」
「あいつ、とうとうおかしくなったか!」
慌てて地下へ駆け込むと、セフィロスは裏切り者めと意味不明なことを言って外へ出て行った。追いかけて行ったザックスは、ニブルヘイムがあいつの手によって炎に包まれていた。
「なんてことだ……」
あいつは人類からこの星を取り返す、と言っていた。ということはそのうちミッドガルもこうする気なのだろう。あいつならできる、してしまう。炎の中に無造作に転がっている死体、エアリスにこんな光景を見せたくない。
「セフィロスっ!」
炎の向こうにあいつはいた。今まで一度も見たことのない笑みを見せると、山の方へ消えて行った。

ザックスはニブル山を夢中で走った。エアリスの写真をしっかりと胸に抱き。
ニブル魔晄炉のジェノバのところにあいつはいた。

「!」
バスターソードを構え、セフィロスに切りかかった瞬間、ザックスは弾き飛ばされた。カプセルにたたきつけられ、やっと飛ばされたことが分かるほどの早さだった。ひどく切られたらしく、痛みが激しい。血があふれ、床へしたたる。頭がぼぅっとしてきた。目がかすむ。
「……エア…リス!」
始めて恐怖を感じた。大ケガのせいもあって腕がガクガクと震える。自分の愛した無邪気な少女に、もうあえないと思うと。
 かすんだ目に、一人の人間が走って来るのが見えた。クラウドだ。これを使え、と言うようにザックスはバスターソードを落とした。クラウドが拾ったのを見届けると、そのままザックスは気を失った。


「脱走だっ!」
そう叫ぶ研究員を殴り倒すと、ザックスはすぐクラウドを助けだし、荷物の中の服を着せた。あのときからどれだけたったか分からない。宝条のサンプルにされ、つらく苛酷な日々を送っていた。それからやっと逃れることができたのだ。素早く階段を駆け上がると、目の前に立ちふさがった者すべてを切り伏せた。ニブルヘイムから離れると、やっとザックスは一息つくことができた。クラウドはもう、死にかけの状態だった。介抱してやるとかすかに意識を取り戻した。
あれからどのくらいたったろう、エアリスはどうしているだろう。色々な思いがザックスの頭を駆け巡った。ともかく、ミッドガルまで行けば何とかなる。エアリスに手を貸してもらえる。それだけ思ってザックスはクラウドを背負うと再び走り始めた。しかしたとえソルジャー1stといえども、人をかついで逃げるのは容易なことではない。それでも何とかミッドガルまでたどり着くと、ザックスは舌打ちをしてクラウドに言った。
「ちくしょう!さっき神羅兵に見つかった!すぐに奴ら来るだろう…。エアリスの家はもうすぐそこなのにっ!」
そうしてクラウドにいくつかアイテムを持たせると、言った。
「俺が奴らをくい止める。その隙に逃げろ!五番街スラムのエアリスという子の家へ行け!俺の名前を言えば大丈夫だ!早く!」
「ザックスはどうするの!」
「ちっ…、もうそこまで来ている…。早く行け、クラウド!」
クラウドを無理に先へ行かすと、ザックスは写真を取り出して言った。
「エアリス……、もうあえないかもな……。」
「いたぞ!あそこだ!」
神羅兵が数十人来た。ザックスは写真をしまうと剣を構えそいつらをにらみつけた。
「やれ!」
脱走サンプルを追いかける役目の研究員が叫ぶと、一斉射撃がはじまった。ザックスは弾をかわすと兵士を次々と切り倒した。
「Sマインだ!」
通常弾ではザックスは倒れないとみたか、強力な砲撃が始まった。
「ぐっ!」
左腕に痛みが走り、血と肉が飛び散る。それでも何とか兵士を切り倒していると、とうとう手榴弾がそばで炸裂した。ひどく肉がえぐられ、激痛が走る。
「く…そ……」
ドタリと地面に倒れた。もう動けない。血があふれ出す。魔法を唱えようにも精神が乱れている。もう一回爆発に吹きとばされると、ザックスは死体のように動かなくなった。
「よし、もういい。放っておいても死ぬ。もう一体の方は構わない。」
そういって、そいつらは去って行った。かわりにクラウドがそばに来た。
「おい……、クラウド……、逃げろって…言っただろ……。」
血にまみれて、ザックスは言った。
「だって……、僕ザックスをおいて逃げられないよ…。それより早く傷を……。」
クラウドは、もう半泣き状態だ。
「こんな傷……、治せるやつなんか……いねぇよ……。」
見るとザックスは、左腕はもう半分なく、右足は大きくえぐられていた。そして全身に弾の傷がある。
血の出ていない所などなかった。
「いいか……クラウド……、俺は…もうだめだ……、おまえは…、さっき言った…五番街スラムの……エアリスのところへ…行け……、あいつなら信用できる……。」
「だめだよザックス……、僕をおいてかないで……」
もうクラウドは、涙で顔がぐちゃぐちゃになっている。
「ばかなこと……言うなよ……。」
「僕、ザックスがいなくなったらどうしたらいいのか分からないよ・・、だから行かないで・・、僕をおいて行かないで・・・」
ザックスはそれを聞いてやさしく笑い、静かに言った。
「大丈夫だよ……、クラウド…」
そうして写真を震える手で取り出すと、そこにうつっている少女を見て言った。
「エアリス・・、最後に君に会いたかった……。あとちょっとなのに……、悔しいよ…エアリス……、本当に俺が愛したのは……、君だけだった……エアリス………、君にもう一度会えないのが……ほんとに残念だ…、さよなら……エア……リス………。」
「ーーーーーーーーース〜〜〜〜〜っ!!!!」
写真をもっていた手がガクリと落ち、ザックスの命は肉体を離れた。
クラウドは泣いた、何がなんだか分からなくなるほどに、泣いた。ザックスの体を揺すり、泣き続けた。
そのとき、
キイイイィィィィィィィィィィィィン!
クラウドの頭は激痛に襲われた。クラウドは頭を抱え、のたうちまわった。すべてが壊れていくような痛みだった。

俺・・・誰?
クラウドはすっと立ち上がった。さっきまで泣いていたのが嘘のように。そして自分の足元にある死体を見た。
誰だったっけ…、たしか……ザッ……
「うっ!!」
その名前を思い出そうとすると、頭痛がする。多分なんでもない、知らない人だ、そう思い、クラウドは彼を埋めてやった。
「俺は……元ソルジャーのクラウドだ…」
自分にそう言い聞かせると、転がっていた自分の剣を取り、ゲートの方へ歩きだした。
どこかへ行かなければならなかったような気がする…
頭の奥にそんなことを思いながら、クラウドはゲートをくぐった。



ぜんかいに引き続き、びっくりした?
期待していたのと、違う?
そのうちザックスとエアリスのかくからね。
感想、教えて。


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