ぶち先生の第一弾

先週末初めてここを見つけて、うーんこんな楽しみ方があったとは、感激してしまいました。ついでに久しぶりに自分でもこんな物書いてみたくなってしまって・・・。初投稿、どきどきです!

彼女の事情−−−ヴィンセントさんが滝の洞窟を訪ねた後のルクレツィアさん。



昨日何十年かぶりに彼にあった。
はじめ黄色のつんつん頭の男の子と髪が短くて元気の良さそうな女の子と浅黒い肌の体の大きな男の人がやってきて、自分以外の人間かここにくるなんて初めてだったからびっくりして思わず彼の名前を呼んでしまった。
でも見つかると面倒だと思って姿を隠していたらすぐ出ていってくれて、助かったと思ったんだけど、またしばらくしたら戻ってきて、今度は体の大きな男の人の代わりに彼が一緒だった。
ほんとはあいつと同じくらいの年のはずなのに彼は最後に見たときと全然変わってなかった。あいつに彼の体を改造したって聞いていたからあれから全然年をとってなくても当たり前だって頭では判っていても実際昔と変わらない彼を見るのは不思議な気分だった。彼が私に気づいて駆け寄ろうとしたときは涙が出るくらい懐かしかったけど、やっぱり彼の顔、まともに見れなかった。別に何か約束したとか、裏切ったとかそういうことじゃないんだけど、こんな風に彼の人生変えてしまったの、自分だと思ったから。

初めて彼にあったとき、彼のこと、なんてきれいな人だろうと思った。短く刈った髪の毛と大きな目は真っ黒で、女の子にしてもおかしくないような整った顔立ちの、だけど笑顔のかわいい人だった。
そのころちょうど私はあいつとの結婚話がまとまったばかりだった。でも男の人に対してきれいだとかかわいいだとか感じたの、初めてだったんで思わずあいつに言っちゃったらすごくいやな顔してたっけ。そういえばあいつはハンサムって顔じゃないものね、って考えたけど、やっぱりつきあいも長かったしお互い一緒にいるのが当たり前みたいな存在になっていたからそれでどうこうって言う訳じゃなかったのに。

あいつが私と彼のこと、誤解してたみたいに、彼も私とあいつの関係を誤解してた。ううん。私自身のことも理解してくれてなかったと思う。
私の外見だけにとらわれて、私のことまるでマドンナのように思っていたんじゃないかな。私だって、普通の人間と同じ、いいところも悪いところも両方持っている。あの実験のことだって、彼は私が被害者だったと思いこんでいるけれど、あれは私が望んだことでもあったんだ。私だって人並みに科学者としての研究欲だってあるし、名声欲だって持っていたのに。あいつはよく「お前もそんなにきれいに生まれて大変だよな」って言ってた けど、ただ外側から見ていると私ってすごく清楚ではかなげに見えるらしい。自分で言うのも何だけど。彼は私のこと守ってくれようとしたけど、私は守られるような弱いだけの存在じゃありたくない。もっと強くて自分の意志をしっかり持って生きているつもりだった。そういう私の性格を判ってくれていたのは結局学生時代からつき合っていたあいつだけだった。

あいつが彼を撃ってしまった後、あいつが彼の改造をするつもりだって聞いてほんとはこのまま死なせてあげたいって思ったり、やっぱり生きてて欲しいって思ったりすごく混乱してた。あのきれいな体がこの世の中からなくなっちゃうのはすごく切なかった。だけど、子供も産まれたばかりだったのに、あんなに簡単に人間を撃てるような人の子供だと思うとどうしていいか判らなくて、赤ちゃん、抱くこともできなくなってしまった。毎日部屋にこもって泣いてばかりいる私にあいつも愛想を尽かして、さっさと子供をミッドガルの本社の研究所に連れていってしまった。

結局私は弱い人間だったんだろう。その後もう何もする気になれなくて誰とも会いたくなくて、逃げるようにここまで来てしまった。
最後に彼の顔、一目見たくて、でもそれは彼が好きだったって言うより、あのきれいな顔をもう一度見たかって言う即物的な気持ちだったと思うんだけど、地下室に行ってみた。ドアの隙間からそっとのぞくとベットの縁に彼がぼんやり腰を下ろしていた。少し髪が伸びて、日に当たっていない皮膚は以前よりも更に白くなっていた。
どういう訳か黒かったはずの目が真っ赤で、しかもそれは何も見えていないようにうつろだった。気がつくと彼は泣いていた。声も立てずに、ただ透明な液体が彼の大きな目から静かに流れ出て、少しこけた頬から形のよい唇を伝わって床に落ちていった。だけど、そんな風でも彼は本当にきれいだった。その時私は彼がかわいそうだと思うより、ぞくぞくするような彼の美しさがすごくうれしかった。彼には私の外見しか見えなかったように、私もまた彼の外見しか好きになれないんだなとその時判った。

あの髪が短い女の子。あの子は私が昔、あいつを見るときと同じ様な目で彼のこと、見ていた。外見だけ見ていたんじゃ判らない、その人の内面を理解したいと思う気持ち。あの子なら彼のさらさらした髪やなめらかな肌や、そんなものに惑わされずに彼の心の良さも醜さも認めてあげられるんじゃないかと思った。


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